残り十一人

文字数 4,716文字

 ※

 星獣奏の語歌(かたりうた)
 完全無欠の創世を。

 夕日が毒のように、心に忍び込みます。
 花は顔を背け、都市は砕け、
 道は歪み、家は呻き、
 人は死者のように、暗闇に逃れます。

 今宵(こよい)生まれた神の歌。
 自ら人の群れの中に生まれ落ちた神。
 その獣性の犠牲となることで、(あらかじ)め冒涜された神。
 もはや冒涜のしようがない、あなたの神の物語。

(断片)

 風の吹く国。星獣飼いの青年は、彼方の丘に問いかけた。
「我らが創造主、天界(テラ・マーテル)の神々よ。来たりて我に教え給え。我らのここにある意味を。あなたの創造の御業(みわざ)が我が身の内に脈打つ、この神秘の深奥(しんおう)を」
 倒れ伏し祈った。太陽は威圧の内に沈み去った。星たちが上り来て、頭上で音を立てた。風が、丘から戻ってきた。風は声を連れてきた。
(おの)()(わきま)えよ。手に負えぬことを追究してはならぬ。お前は生の神秘はおろか、来るべき死の日を知ることもない」
 彼は落胆し、家に帰っていった。
 家では彼の妻と子供たちが、暗闇の中で、星獣の誕生を喜び祝う歌を歌っていた。何をしているのかと問いただすと、「夢を見たのだ」と妻は答えた。
 翌朝、星獣飼いが目を覚ますと、彼の妻と子供たちは皆息絶えていた。

 ※

 リアンセへと繰り出された剣の一撃は、呆気なくフルーレで弾かれた。剣は標的セレスタ・ペレの手から離れて砂地に落ちた。その刃を踏みつけて、リアンセは遠くへ滑らせた。
 セレスタ・ペレは水色の髪の、痩せた女だった。彼女はよろめいた勢いで背後の壁にぶつかった。前方にはリアンセ。右手は行き止まり。左手には道が伸びていたが、彼女は体勢を立て直せず、膝をついた。
「落ち着いてちょうだい」
 同年代の女の喉にフルーレを突きつける。丸腰にされたセレスタは、せわしなく深呼吸をしていたが、意外と冷静で、リアンセを見上げる目にはわずかな恐怖と不快感と、駆け引きの隙を伺おうとする(したた)かさがあった。
 つい最近、これとよく似た目を別の人から向けられた。
「私はただ、あなたがグロリアナで何を見たのか聞いているだけなの」
 思い出した。カルナデル・ロックハート大尉だ。彼がシンクルスから重要な話を何も聞いておらず、シンクルスと奇妙な聖遺物についての関わりも何も知らず、カルナデル自身の家族とシンクルスとの間には何の関係もないことを確かめたその後だ。
 シオネビュラ出身の陸軍大尉は、万一シンクルスを(かくま)ったところで陸軍情報部がカルナデルの家族の居所を抑えていることを思い知り、今のセレスタと同じような目をして聞いた。
『お前はどうやってオレの家族についてまで情報を仕入れたんだ?』
 セレスタの目を見返しながら、リアンセは今ここにいないカルナデルに、心の中で答えた。

 ――シオネビュラ神官団に、タルジェン島で消えた三人の客、ミスリル達の情報を売ったのよ。

「あなたは何を知っているの?」
 気丈にも、セレスタはリアンセを睨みつけた。リアンセは目をそらさず、しばし思案を巡らせてから、言葉少なに(こた)えた。
「ある種の聖遺物に関わりあった人間は消える」
 セレスタの目許(めもと)が引きつった。
 ゼラ・セレテスが指揮した浚渫工事以降、グロリアナの町民が消え、ミスリルたちが消え、シンクルスとロザリアが、神官団もろとも消えた。
 だがミスリルとアエリエは見つかった。テスも無事だという。
「でも、本当の意味で消失したのでないのなら、見つけ出さなきゃいけないわ。あなたは他の連中とは違う。私たちが狩って回っている連中とはね。悪いことはしていない――」ここで、フルーレを更に喉へと近付けた。「リジェク神官団の傘下(さんか)に入った以外はね!」
 視線の先のセレスタは、体を強張らせて震えを止めようとしていた。リアンセは今度は口調を和らげて、答えやすい質問から入った。
「……優秀だけどいまいちパッとしない、それどころか浮いた存在だったあなたを……」
 ミスリルはもう一人の標的を倒しただろうか?
「どこで働くかも決まらないまま卒業した後、リジェクに紹介したのは誰?」
 気がかりだった。
「アウェアク先生よ。予備校時代から贔屓(ひいき)にしていただいたから。もう殺されたようだけど」
 ミスリルはコブレンにまつわる流言で心を乱されていないか。
 それが気がかりなのだ。
「彼があなたを紹介した理由は?」
「学内で浮く原因になった論文よ。笑えるでしょ」
「笑えないから解説してくれない? あなたは何を――」
「お姉ちゃん!」
 若い女、もしくは少女の叫び声。
 邪魔が入った。
 セレスタの横手に伸びる道の先の少女に、少女が立ち尽くしていた。彼女がセレスタの妹ならば、その名はリアンセがアウェアクの前で(かた)ったアルマ・ペレだ。
「あっちに行ってなさい!」
 セレスタの叫び声は泣きそうに聞こえた。だが長髪を二つ結びにした娘は駆けてきた。驚いたことに、膝をついてセレスタとフルーレの切っ先の間に体を割り込ませ、姉の首を両腕で抱いたのだ。
「やめて。お願い。お姉ちゃんが何をしたの? どうしてお姉ちゃんに剣を向けるの?」
 声で人が集まってくる気配はない。今日は楽団が来ている。だがいつまでもこのままではいられない。
「落ち着いてほしいわね。彼女には聞きたいことがあるだけなの。セレスタ・ペレ。妹さんのために答えて。リジェクが欲しがったあなたの素敵な考えは何?」
「天球儀新解釈論」
「はい?」
「私たちの頭上に天球儀が光り輝く、その意味付けを語歌(かたりうた)の世界から洗い出しても実際の私たちヒト型言語生命体の習俗からは意味への期待が見出せない」
 セレスタは早口だ。リアンセは敢えて遮らなかった。
「一般に天球儀の意義は、惑星アースフィアを宇宙的な環境から守る盾であると同時に、私たちから空飛ぶ技術を永劫に取り上げるための鳥籠。だけどこれは方便であり、一つの惑星をまるごと閉じ込める構造物を宇宙空間に作り上げる地球人の技術の誇示、つまり明らかな示威」
「あなた優等生ね」
 呆れ半分、だが残り半分は流れるような弁舌に対する敬意を込めて言った。アルマはセレスタの首に腕を回したまま、首を捩り、怯えた顔でフルーレを見ていた。
「で、新解釈って?」
「豊潤な歌語りの世界で意味を脚色しようとも、あらゆる宗教的象徴と同じく天球儀もまた形骸化し……」
 リアンセが溜め息をつくと、セレスタは敏感に反応して切り上げた。
「……結論から言うわ。私は天球儀の意味が存在しないと言ったんじゃない。

って言ったのよ」
 右腕が痺れて痛い。剣を下ろしたかった。
「何ですって?」
 リアンセたちの頭上では、この文明における唯一の白色光の光源である天籃石(てんらんせき)、その石によって作られた天球儀が、大地と星々の間で輝いていた。
「天球儀だけじゃない」馬鹿にされたと思ったのか、セレスタが言葉を継いだ。「語歌(かたりうた)の世界で重要な意味を持つ他の聖遺物もそうよ。例えばセイレーンだって」
「では私たちの上に輝くあれは何? セイレーンが存在しないなら、私たち言語生命体を千年この大陸に押しとどめ得た力は何だって言うの?」
 胸に浮かぶロザリアの面影を振り払い、「いえ」口を開くセレスタを遮った。
「それはどうでもいいの。問題は、あなたの今後の身の振り方」
「やめて」
 何かを予感して、アルマが訴えかける。リアンセは無視した。
「あなたはリジェクが生み出したものを知っているわね。特別な星獣を」
 セレスタの顔つきの変化で、酒場の流言にはある程度の真実味があるらしいことをリアンセは悟った。
「それで、どう?」
「どう、って……」
「あなたはまだリジェクに協力するの? 彼らの開発したものがどんな惨禍をもたらしても、それを肯定すると言うの?」
「お姉ちゃん、逃げて」アルマは自らを盾としたまま、姉の両肩に手を移した。「お願いだから」
「リジェクからは逃げられないの」
「ねえ!」
「もう抜けられないわ! 続けるしかないの!」
 アルマの顔の横を、フルーレが通った。切っ先はついぞ柔らかい肉の中に沈んだ。アルマは何も理解できず、ただ硬直し、目だけをフルーレの刀身に沿って動かした。
「セレスタ、あなたは悪い人間じゃなかった」
 そして、フルーレの切っ先が姉の喉に吸い込まれて消えている(さま)を見た。
「残念だわ」
 あと、十一人。
 リアンセが仕事を遂行している間、アエリエもまた、自分のすべきと思うことをしていた。雇い主の目を盗んで酒場を抜け出し、裏手に回ったのだ。井戸端で、コブレンから連れてこられた女がしゃがんで泣いていた。女は眼前に立つアエリエの気配に緊張していたが、アエリエが屈むと、やっと顔を上げた。
「大丈夫?」
 優しく声をかけながら、女の頬に手を当てた。親指で涙を拭ってやった。
「さっきは言わされていたのね」
 沈黙が訪れた。だが、女は天籃石の街灯を頼りにアエリエの顔を見極めながら、しっかりした口調で断言した。
「あなた自警団の人だわ」
「えっ?」
「コブレン自警団の人よ。見たことある」
「私はこの店の用心棒なの。人違いじゃないかしら」
「まさか。あなたみたいな美人を見間違えるはずないわ。自警団の人なんでしょ?」
 アエリエは迷った末、認め、頷いた。
「どうか内緒にしていてね。事情があってコブレンを離れていたの。戦いがあったと聞くわ。お願い。本当のことを教えて。市街戦が行われたの?」
 女は頷いて、カーラーンが組織した市民兵が虐殺されたこと、避難が遅れた人々も見境なく殺されたこと、市街に星獣が放たれたこと、星獣は家に乗り込んでまで殺戮を行なったことをぽつぽつと語った。
「朝になるまで、私の家は無事だったけど……」
 女は新婚で、夫と二人で安くて小さな家で暮らしていたという。
「日が高くなったら、日輪連盟の商人たちが押し入ってきたの」
「一般の民家に?」
「お店もやってたのよ。商品は全部奪われた。他の家もよ」
「あなたのご家族は?」
「夫も私と一緒に連れ回されてたの」それを言うや、女は目から涙を溢れさせた。「なのに今日の朝、起きたらいなくなってて、どこに行ったか聞いたら殴られて――」
 そこまで言って黙った。不穏な気配に取り囲まれていることに気がついたからだ。
 ものものしいが殺気はない。ゆっくり振り向いたアエリエは、井戸端を取り囲む面々が、先の商人たちではない事実を、意外な思いで受け入れた。
 若い男が一人、アエリエの前に進み出た。
「コブレン自警団のアエリエ・フーケさんですね」
 黒髪の、真面目そうな、身なりのいい男である。
「そうですが、あなたは?」
「失礼しました。私はシオネビュラ神官団三位神官将補ミオン・ジェイル」
 身構えるアエリエに、ミオンは重く告げた。
「タルジェン島での件について、お聞きしたい事がございます。ご同行願えますか?」
「一人では行かないわ」
 立ち上がりながら答えるアエリエに、ミオンは(いぶか)しげな顔をして見せた。
「ご同行者が?」
 この表情は演技だ。アエリエとマナがここにいることは、リアンセから連絡を受けて知っている。リアンセに対するニコシアの協力への謝礼だ。ミスリルに関しては、このままリアンセと同行させておけばいい。
 だが、意外にも、「三人連れていけないかしら?」アエリエはそう要求した。
「私の連れが、そこのお店で皿洗いをしているの」
「もうお一方(ひとかた)は?」
「この人が保護を必要としているわ」
 女は座り込んだまま、事の成り行きに目をしばたたいていた。
「……わかりました。私たちについて来て頂けるのでしたら、その人を安全なところまで連れて行きましょう」
「行くわ」
 こうなってしまった以上、抵抗しても仕方がない。アエリエは守るべき市民を一瞥した。
「この人に免じて、一回だけ」

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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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