落葉の行進

文字数 4,273文字

 ※

 夜明け、()かされながら星獣に乗り込むのを、村人たちが見に来た。星獣はベージュに黒の水玉模様で、夜明けの空の冷たさを、透き通る体内の水に映していた。それでいて、伏せたボウル型の胴体から垂らされた鎖は、星獣の体温がうつり生ぬるい。星獣の背には柵が設けられていた。リージェスとリレーネがその柵の中で手に縄をかけられるのを、村人たちはニヤニヤしながら見つめていた。
「ドロボー!」
 子供が金切り声を上げた。武装した男たちに連れて行かれるような悪として、まだ窃盗しか思いつかないような子供である。もう少し別の悪を思いつく十二、三の小娘が金切り声で冷やかした。
「人さらい! ネクラ野郎がいいとこの娘と毎晩ヤッてんのかよ!」
 リージェスは柵の間から、少女の顔に唾を吐きかけた。それが少女の目に命中し、ヒステリックな声があがると、村人たちは一行を罵り始めた。
「この人は人さらいなんかじゃありませんわ!」
 リレーネが怒って叫ぶのに遅れて、捕縛者が柵から身を乗り出す。
「邪魔だ、貧乏人ども! 踏み潰されてぇのか!」
 リージェスはうんざりして溜め息をついた。
 通行人が金を落としていくような土地でもないからだろう。この村の人間はよそ者を嫌っている。捕縛者たちの行動は、彼らの嫌悪を強化するだろう。星獣使いが歌いだし、進行方向に人がいるにも関わらず、立ち上がらせた。おもちゃの木馬に似た星獣は、首をもたげて目を開けた。目はくるくる廻る真紅の切り花模様で、うっかりそれを凝視した村人数人が、放心状態で立ち尽くす。
「人さらいじゃなかったらなんですかー!」
 憎たらしい子供が口に手を当てて声を張り上げた。リレーネがはしたくも床を右足で強く踏み鳴らした。
「私たち、クソババアに売り飛ばされましてよ!」
 後ろ手を組まされていなかったら、リージェスは頭を抱えていただろう。俺のせいだ。あろうことか、公爵令嬢のリレーネ様は俺に似てしまったんだ。同じ柵の中にいる監視役が舌打ちした。
「静かにできねぇのか」
 星と氷のきらめきを交互に放つ蹄が、強く大地を踏みしめた。その一歩ごとに、村は遠ざかっていった。
 木漏れ日が注ぐ森に、鞍に座る星獣使いの歌が響き渡った。星獣の四つの足には鈴が巻かれ、歩調に合わせてリズムをとっていた。リージェスは眠くなってきた。小屋に監禁され、冷やかしに来る村人のせいでほとんど眠れなかったのだ。その間、捕縛者たちは酒を飲んで浮かれていた。
 捕縛者たちの正体を、リージェスは未だに確信していない。ただ、彼らが持つ剣の意匠を見て、炎剣(えんけん)ではないかと思った。刀身を見ればわかるのだが、彼らが剣を鞘から抜くときは、自分が斬られるときだろう。
 南西領を旅して得た情報によれば、領内で炎剣が製造されるのはグロリアナ地方だけ。ならば彼らはソレリア民兵団かもしれない。シオンの戦いで壊滅的被害を受け、そのうえ総責任者のゼラ・セレテス子爵は行方不明という、踏んだり蹴ったりの陽光の貴婦人(ソレリア)だ。
 だが、そんなことはいずれわかる。問題は彼らの目的だ。月の所在を吐くまでは殺されないだろうか。少なくともリレーネは?
「何がそんなに珍しいのかねぇ、お嬢様」
 同じ柵の中にいる兵士が嫌味っぽく言った。昨日まで五人いた兵士は、今は三人になっていた。一人は間近でリージェスとリレーネを見張り、一人は星獣の鞍で歌い、もう一人は星獣に先立って歩いている。いなくなった二人は夜中のうちに()った。目的地が近いのだろう。
 リレーネが答えた。
「これほどの紅葉(こうよう)を見るのが珍しいのですわ。おかしいかしら?」
「深窓の令嬢はお外にも出してもらえなかったのか?」
「いいことを教えてやろう」リージェスはイライラして口を挟んだ。「北方領に秋はない。今頃は深い雪の中だ。夏が終わったらすぐ冬なんだ」
 黙る兵士にもう一言。
「一つ賢くなったな、田舎者」
 兵士は柵の内側の隅からじっとリージェスを睨みつけた。リージェスも、対角線上から睨み返した。そして、一つの賭けに出た。
「お前の上官の田舎貴族なら多少は頭が回るか?」
 道の状態を確かめている兵と歌い手の兵は振り向かないが、聞こえているはずだ。森に朗々と響く独唱に、リージェスの刺々しい声が乗る。
「期待できそうにないか。捨て駒にされることもわからずに自分の軍隊を壊滅させたクソバカだそうだからな」
 胡座(あぐら)を組んでいた兵士が立て膝をついた。歩いていた兵士が剣呑(けんのん)な空気に振り返り、諌めた。
「おい、よせ」
 当たりだ。
 リージェスは確信した。
 こいつらはソレリア民兵団だ。
「領主様は――」
 兵は、自分を鎮めるために何か言おうとした。それをリージェスが遮った。
「お前の仲間は犬死だった」
 威圧を込めて立ち上がろうとした兵士に、彼の仲間が「おい」、と再度呼びかけた。彼は鞍の上の歌い手と目配せをし合い、唇を吊り上げて笑った。
「アレやるぜ」
 兵士は目から怒りを消し、腰を落ち着けた。その手が柵を掴むと、歌い手が声の調子を変えた。叫ぶような歌とともに、暴走が始まった。
 リージェスとリレーネは、同時に短い叫び声をあげた。路上に置き去りにされる兵士の哄笑が聞こえ、たちまち遠ざかっていく。手を縛られているため、歯を食いしばって前のめりに倒れ、こめかみを床に打ちつけた。あと少し姿勢が悪かったら前歯を折っていただろう。リレーネの状態を確かめたかったが、それどころではない。目の前に、兵士の靴底が迫っていたからである。
 どうにか体をよじり、蹴りを後頭部で受けた。衝撃で眼前が真っ白になったが、顔面に直撃するよりはマシだ。もう一度体をよじり、柵を掴んで座っている兵士の伸びた足の上へと上半身を乗り上げた。それから膝で立ち、引き寄せられる力を利用して、鳩尾(みぞおち)に頭突きを食らわした。
 私服の兵は服の中に防具を仕込んでいなかった。彼が「ぐえっ」と声をあげると、星獣が跳ね上がった。そのタイミングで兵士は柵から手を離した。二人はもんどりうって床を端から端へと転がった。リレーネはほとんど床に伏せながら、なりゆきから目を逸らすまいとしていた。
 兵士はリージェスの両腕を背後から掴み、リージェスの縛られた手は、兵士の腰をまさぐった。間もなく剣の鞘を探り当てた。留め金を外し、僅かに剣を抜く。
「おい、てめぇ」
 兵士が気付いたとき、縄が切れた。歌い手はまだ事態を察していない。赤く色づいた葉が一枚、眼前に舞い降りた。リージェスは膝で立ち、剣を抜く。それは炎剣だった。まもなく別の赤を見た。膝立ちのリージェスが、兵士の腹に炎剣を突き立てたのだった。血がにじみ出る傷口から剣を抜き、喉を裂いてとどめとする。鋭く噴出した真紅の血が、助けを求めるかのように、歌い手の後頭部に伸びた。
 血が降りかかると、歌い手は声を落として振り向いた。大きな衝撃の後で、急激に減速が始まる。顔にかかる液体を手で拭い、それが血であると見てとった歌い手は、顔を上げ、次に炎剣の波打つ刀身を見た。柵の間から伸びた炎剣は、歌い手の首を突いた。
 喉や首は最も苦痛の少ない死を約束する急所だが、流出する血の勢いと音はおぞましく、派手である。歌い手は目を剥き、口を開け、体の力を永遠に抜くと、手綱を握りしめたまま鞍に寄りかかった。
 血を滴らせながら、星獣は歩いた。歩幅は小さく、歩みは遅く、体勢は不安定で、ぐらぐらとひどく揺れた。
「どこに向かっているのかしら」
 リレーネが身を起こしながら尋ねた。顔が血まみれだ。返り血ではなく、鼻から血を流していた。
「わからない。勝手に拠点に帰るように調教されてるんだろうな。大丈夫か」
 リージェスは汚れた刀身を脛にでこすって軽く拭き、リレーネの両手の縄を切ってやった。
「ええ」
 間近で鼻を見た。折れてはいないようだ。リレーネの視線は紅葉の森と木漏れ日の中を不思議そうにさまようが、二つの亡骸を直視することだけは巧妙に避けていた。
 星獣は、背中の上の死に頓着せず、ごくゆっくりと歩んだ。次第に揺れが大きくなり、柵に手を置かなければ立っていることも難しくなった。
 座っていたリレーネが、息を吸い込んだ。胸に両手を当て、祈るように天を仰いだ。澄んだ水色の空と落葉(らくよう)の木々がその視線を受け入れた。
 リレーネが歌い出した。星獣の御者の歌を聞き覚えたようだ。澄んだ歌声によって、星獣は制御を取り戻していった。やがて安定した床に、リージェスは座り込んだ。
 亡骸を抱え上げて柵の外に投げてもいいのだが、なかなかそんな気も起きなかった。ただ、立ち上がり、兵士の腰から炎剣の鞘を拝借すると、剣の手入れを始めた。
 彼らがソレリア民兵団ならば、と、リージェスは考えた。この兵士たちは、シオンの戦いを生き延びた残党か。もしくは何らかの理由でシオンの戦いに加わらなかった兵か。では、今この兵士たちを束ねる指揮官は誰だ?
 なめし革で血と油を拭き取る。
 進行方向左から、落ち葉を踏みしめる音が聞こえてきた。それも、一人や二人ではない。リレーネの歌声が次第に小さくなっていく。
 鞘を腰帯に差して、リージェスは立ち上がり、死んだ兵士の血だまりへと踏み込んでいった。もはや自分の物となった炎剣を握りしめ、切っ先を床に向けた。
 木立から、五人の男が現れた。リレーネが、ついぞ歌をやめた。減速していく星獣を、男たちが見上げた。
「職務上不可避とはいえ」
 降り注ぐ落ち葉の中、リージェスは仁王立ちになり、先頭の男に言い放った。
「これは殺人に変わりなく、気分の良いものではございません」
 事態を把握しても、兵たちは指揮官の指示なしに、声ひとつあげなかった。ただ驚きから動揺、怒り、そして憎悪へ変わりゆく視線を、リージェスは一身に浴びた。
 その中にあって、代表者と思しき男の目だけは涼やかであった。
 リージェスは代表者、深紅色(しんこうしょく)の髪をした若い男をじっと見下ろしながら、柵の間から炎剣の切っ先を向けた。
 手の震えを殺す。
「私はあなたの兵を二人殺した。この犠牲に見合う如何(いか)ほどのものを我らにお望みか」
 人を殺すのは――
「答えていただきたく。ソレリア民兵団総指揮官ゼラ・セレテス子爵殿」
 ――本当に嫌だ。


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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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