文字数 4,379文字

 ※

 真っ暗な階段を手探りで下り続けるうちに、時間の感覚は失われた。光が見えて、階段が終わった。ミスリルは広間に出た。そこに月があった。月の光は広間の全容を把握するには乏しすぎた。奥にある、金属の台座がほのかに照らされていた。それはまさに闇夜の月明かりと同じ明るさで、目が慣れてくれば、台座に座す像の爪先が見てとれるようになった。
「砂の書記官」
 心細さを紛らわそうと、ミスリルは声に出す。左右の暗がりから立ち上がる影を感じ取ったのは、声の残響が消えたときだった。
 少しでも距離を開けようと、後ろに飛びすさる。視界の左右に影を収めた。どちらも大きく、ミスリルの背丈のゆうに五倍はある。人の形をしているが、その影の本体となりうる人間はおらず、月の光が透けている。
 左右から影が声をかけてきた。
 性別のわからない、中性的な声だった。

『危害を加えるつもりはない/私があなたに触れることはできない』

 声は同時に発せられたが、不思議とどちらも明瞭に聞き取れた。
 ミスリルは油断なく身構えながら、左右の影に目を配った。
「あんたが『砂の書記官』か?」
 沈黙を肯定と受け取るべきか、しばし迷う。
「だとしたら驚いたな、二つあるなんて……それとも二人いるなんて、て言ったほうがいいのか?」

『私は人間に似た/私は話し相手を求めて二つになった』

「何だそれ。答えになってるようななってないような……」
 後ずさりながら話を続ける。『月』の光輪が遠ざかっていく。だが、人ならざるものを相手に暗がりに身を隠せるとはミスリル自身も思っていなかった。
「話し相手を求めてって、その話し相手になるような人間はあんたが自分で皆殺しにしたんじゃないのか?」
 ついに、完全に壁に背がつく位置まで後退した。
「あんたが塔の聖遺物なら、地球人が(いにしえ)の都にもたらした『神の青い光』の災厄に加担したはずだ。違うか」

『あなたは賢く、歴史を知っている』

「俺を知ってるのか?」

『死の天使/敬虔(けいけん)そして冷酷な歌う暗殺者』

 ミスリルは緊張に耐え、呼吸を微かに抑えた。口の中は干からびたようで、水が欲しかった。
「教えてくれ。どうして俺はここにいるんだ?」

『その月は物語を必要としている/あなた方と接触すればそれが月にとっての物語となる』

 答えとしてはいささか難解であった。

『月は時空を超えてきた/深い悲しみのゆえに』

「月はどこから来たんだ?」
 意味がわからず、ミスリルは苛立ちながら質問を変える。

『月こそがそれを求めている』

「それってなんだ? 月がここにある理由のことか? こいつ自体が、こいつがここにいる理由を知りたがってるのか?」

『それは理由を知りたいのではなく、理由を欲しがっている/原因なくこの世界に存在することにそれは耐えられない』

 一つの影が月に覆いかぶさって、光をミスリルの目から隠した。

(なんじ)に問う。原因なく存在するものはあるか』

「原因なく存在するものは神のみだ」
 ほとんど条件反射で、子供の頃に叩き込まれた教理問答の通りの答えが口を()いて出た。
 あらゆる物には存在する理由がある。それを生み出した親があり、作り手があり、物理的・化学的な反応があるからだ。ただ神のみがそのような原因を持たない。
 するともう一つの影が、ミスリルの眼前に滑り込んできた。

『月は原因なくここにある。あれは神か』

「違う。俺たちの前に現れた原因があるはずだ」
 答えながら壁沿いに身をかわす。だが影はついてきた。

『汝に問う。地球人は神か』

「違う。おいあんた、さっき俺に危害を加えないって言ったよな」

『あなたの言う通りだ』

 もう一つの影が、道を塞ぐように、または縋り付くように、ミスリルの右手に回り込んできた。

『私は都に大量死をもたらした/私は都に核の惨禍をもたらした』
『千年の昔/地球人が神だった時代』

「原因を持つものは神じゃない」
 影は壁さえすり抜けて、ミスリルを囲み回り始めた。

『地球人は原因を持っていた/原因は意味を生んだ』
『原因を持つ神は重い/意味を持つ神は重い』
『地球人は神になるには重すぎた/私たちの神は重かった』

 ミスリルは包囲を抜けようとした。だが、影に触れた瞬間、重い痺れに見舞われて動けなくなった。

『あなたの神は重いか/あなたの神は意味を持つか』

 痺れはすぐに取れた。慌てて後ずさり、包囲の中心に立つ。

『私は地球人と交信するものであり、この出来事の意味を知りたい/起きること全てに意味があるのなら』

 二つの声が揃い、叫んだ。

『さあ、今こそ贖罪のとき!』

 ※

 影が急激に包囲を狭め、ミスリルの体に重なった。先ほどのような痺れはなかったが、ミスリルは逃げられなかった。浮遊が始まり、すぐに落下へと変じた。

『再度問う』

 光が見えた。ミスリルの隣には、三日月があった。半月があった。様々な形の無数の月が、どことも知れぬ奈落へと、共に落ちていく。ただ一つの満月が、上のほうにあって、それとの距離は開きも縮みもしなかった。

『あなたの神は重いか/あなたの神は意味を持つか』

 ミスリルは態度を変えてみることにした。
「ふざけるな!」
 怒りを装い、(まく)し立てる。
「どうして神の意味がわかる、俺は自分が()る意味さえ知らない!」
 虚空に手を伸ばした。
「それであんたは何だったんだ。自分の意味がわかるのか? 自分のしたことがわかるか?」
 落下は続いており、重さによって、頭が下に、足が上になっていく。
「あんたは人間が好きだったか! 人間に意味はあったか! 人間は重かったか! お前が殺した人間たちは! ……なあ、おい!?」
 更にたたみかける。
「ってか、そんなことはどうでもいい! テスとアエリエは無事なんだろうな!?」
 口にした途端、本物の怒りが胸に湧いた。
「あの二人に余計なことしてみやがれ! 俺はテメェをぶち殺す!!」

『私は人類の/私は言語生命体の』
『平和と安寧を願っている』

 満月が眼前に迫ってきた。
 月の落下速度が上がったのではない。ミスリルがそれに引き寄せられるように上昇したのだ。
 立っているときと同じように、頭が上に、足が下になった。

『多宇宙/いくつものアースフィア』
『に配された、いくつもの同じ魂』

 不意に低い男の声が、月の中から聞こえた。

『それは太古歌の領域で、鏡のように互いを映しあう』

 書記官の中性的な声が二つ、重なって続いた。

『神になろうとした地球人たちは、どの時空でも生きていけないことを悟った/ここもまた鏡像の世界』

「あんたの話はわからない」
 ミスリルは両腕を伸ばす。指先に触れた月は、コブレンで初めて見たときと同じ大きさを取り戻していた。もはや一人で抱えることはできない。
「それで、俺はこいつをどうすればいいんだ?」

『私が管理者として遣わされます/私は管理者を遣わします』

 二つの影が、一つの月に重なって、吸い込まれるように消えた。

『我々はここに統合されます』
『あなたが私の管理者として不適切であった場合/私が月の管理者として不適切であった場合』

 月が、白くなっていく。空間が、自分の体さえ、白く見えなくなっていく。

『あなたを殺します/私を殺してくださいね』

「何言って――」
 転落。
 諦めに近い心境で、ミスリルは重力を受け入れた。何も見えなくとも、目を閉ざしはしなかった。風で眼球が乾かぬよう、せわしなく瞬きする。視覚以外の五感は研ぎ澄まされていた。心は冷静で、頭は冴えていた。
「――で、何をするつもりなんだ?」

『私は人間を知っています/人間が何でできているか知っており、素材は全てあります』

 温かいものが、衣服などないがごとくに胸に触れてきた。

『私をあなたたちにしてください/あなたの遺伝子をわけてください』

「どうやって」

『私はあなたたちに似たものとなります/あなたの頭文字(イニシャル)をわけてください』

 人肌をもつものが、ミスリルの胸にあった。腕を回して抱きとめると、それにはおぼろげな輪郭があった。
 ぬくもりは五感を洗って、転落を和らげた。空中を漂う心地となる。
 胸に抱かれながら声は言った。

『私はこれより命の糧(マナ)と名乗ります』

 爪先が地面に触れた。降下は続いていたのだ。バランスを崩し、その場に両膝をついた。胸に抱くぬくもりは、今や確かな実体を得ていた。
 目に光が感じられた。不条理なことだが、今まで真っ白な空間として認識していた場所は、色のない暗闇だったらしい。
 青い空と。
 純白の砂と。
 高い壁とその影。
 迷宮のただ中で膝をつき、ミスリルは胸に押し付けるように少女を抱いていた。
 その、赤茶色の髪。少女が顔を上げれば、大きな目には琥珀色の瞳が収まっている。その面立ちから、はっきりと、おのれ自身の面影をミスリルは見て取った。
 二人はただ、互いの視線を瞳で受け止めあった。ミスリルの頭には、闇の中でのやり取りが鮮明に記憶されていた。その記憶から呼ぶべき名を見つけ出すのはさほどの苦労でもなかった。
「マナ?」
 それから、少女がまったく一糸(いっし)まとわぬ姿であることを把握して、慌てて夏物のマントを脱ぎ、背中から着せてやった。
 少女は大人になりきってはいないが、子供と呼ぶほど幼くもなかった。十三か四かといったところだろう。
 マントを着せられる間にも、マナはミスリルの顔から視線を外さなかった。瞬きの(たび)に両目が潤み、ついぞ涙がひとしずく、まず右目のほうからこぼれた。
「人間」
 声変わりを終えた、大人びた少女の声だった。
「私は今、人間に触れているんだね」
 急に動いて、ミスリルの胸に右耳を押し付けた。
「あったかい。心臓がとくとく言ってるよ」
 ミスリルは半ば呆れながら答えた。
「そりゃそうだろ、生きてるんだから」
「生きてる」
 この少女に鼓動や脈拍があるのか、ミスリルは知りたくなったが、手を伸ばしてその肌に触れる気は起きなかった。少女はミスリルの背中に細い両腕を回し、なおも胸に耳を押し付けた。
「生きてる……」
 声が震え、嗚咽に変わった。
 これが人なのか、人ならざるものなのか、ミスリルにはわからない。マント越しに伝わる体温は冷たかった。
 太陽は少女を温めるだろうか?
 ミスリルにできることは、少女が泣いている間、背中に手を当ててやることだけだった。


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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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