文字数 4,922文字

 1.

 正対すれば、兄弟子(あにでし)の強さがわかる。両手剣を左肩に引きつけ、切っ先をテスの目の高さに合わせている。その切っ先はいとも容易(たやす)くテスの両手剣による防御を払いのけ、顔や胸に飛び込んでくるだろう。訓練用に刃を潰し、さらに切っ先を丸くした剣であっても、アズの手の中にあるそれは、死を予感させる冷たい気配を漂わせていた。
 同じ構えで向かい合い、テスはアズの手の内を読もうとしていた。試合開始の(かね)は十秒も前に打ち鳴らされたのだが、両者とも微動だにせぬまま。訓練場の壁際では、未成年の若い弟子たちが固唾(かたず)をのんで見守っている。
 たまに行われる夜間の公開訓練は、どの門弟の子であろうと自由に見学できる決まりだった。左利きの育成を専門とするオーサー一門は、その特殊性ゆえに比較的見学者が少ない部類ではあったが、どういう風の吹き回しか、今夜は六歳から十六歳までの三十人ほどが、右の壁際一面を埋めていた。未成年の弟子のほとんどがここにいることになる。彼らは緊張している。テスと同じように。テスは目に力を込めて、切っ先の向こうにあるアズの肘に注意していた。
 アズは動かない。
 お前から来いということだ。
 テスがすり足で踏み込んで、均衡は破られた。
 遅れて踏み出したアズが下手(したて)から剣を振り上げてくる。それを、上から斬りつけるように振り下ろし、防御するところまではうまくいった。だが、アズの力強い剣を横に払いのけることはできなかった。
 剣の(ひら)を擦り合わせたまま、アズがさらに右足で踏み込んでくる。距離が近い! と思った時には試合終了を告げる鉦が鳴っていた。心を落ち着かせ、改めて見れば、アズの剣は既にテスの首の真横にあった。
 剣を擦り合わせたまま距離を詰めたあと、アズは自分の剣の柄をテスの体のほうに押し込み、切っ先で半円を描いてテスに当たる直前に寸止めしたのだ。
 遅れて弟子たちがどよめく。
 今の何? 何が起きたの? わからない。早くて見えなかった。そう囁き交わす声を聞きながら、アズが手の甲で汗を拭いた。
「どうすればよかったか、わかるか?」
 アズの問いかけに、テスは浅く頷くに留め、何も言わなかった。わかっていても、防御と同時に反撃に転じるなど、剣越しに伝わるアズの手の力はそれを決して許さない。刃と刃が触れ合う。それだけで、負けが決するのだ。
「もう一回やろう」
 距離を取るアズの背を見ながら、テスは額の汗を拭った。夜気が恋しかった。締め切られた訓練場は、風がないだけで気温は十分に低いはずなのに、冷たい水が欲しい。二人は再度正対した。
 中段の構えから始まり、今度はアズのほうから動いた。今度はもっと早く決着がついた。両手剣が振るわれ、打ち鳴らされる音が二度。剣と剣が触れ合う膠着の状態から抜け出そうとテスが剣を引いたとき、アズの指がアズの剣の鍔を掴んだ。直後、試合終了の鉦。アズの体、その質量と熱気を真正面に感じ、代わりに両手からは剣を握る感触が消えていた。
 剣は空を切り、驚きぞよめく年少の弟子たちのほうへと回転しながら飛んでいった。そして、盛大な音を立てて鍔から壁にぶつかり、床に落ちた。
 まただ。
 テスは立ち尽くしたまま奥歯に力を込めた。
 アズの動きはわかっていたはずだ。アズが自分の剣の鍔に指をかけたのは、テスの剣をテスの両手から弾き飛ばすためだった。自ら膠着を解き、自分の剣の刃の根元をテスの剣の鍔の下側に当てる。そして、鍔を掴んで支えていないほうの手で自分の剣の柄頭を掴んで引き倒し、梃子の原理でテスの両手から剣を引っこ抜いたのだ。
 これはテス自身も習得している剣取りの技であり、当然対応できて然るべきであった。だが、できなかった。アズがあまりに早過ぎたからだ。
 同じ師につき、同じ技を学んだからこそ、単純な強さが物を言う。
「テス」
 アズの声で我に返る。弾き飛ばされた両手剣を眼前に差し出されていた。
「休憩にするか?」
 年少の弟子の誰かが拾ってくれたのだろう。テスは左手を伸ばし、アズの手から剣を受け取りながら、「いや」、と応じた。
「あともう少し」
「俺も疲れた。それにこの後はイスタル一門が使う予定なんだ」
 アズは怖い。
 その強さが怖い。
 優しさまでもが怖い。
「まだ慌てる必要はないぞ」鉦を持つオーサー師が告げた。「休憩を挟まんならな。集中できんなら(しま)いにするか?」
「いいえ、オーサー師」
 テスは答えて、アズと向かい合う。向き合ったまま互いに後退し、適切な間合いを取った。
 正対。
 アズは怖い。
 緊張を()いられるテスとは反対に、アズは昼に参席した運営会議の一幕を頭から振り払えずにいた。

 ※

「市内で事実として広まっている通り」
 自警団長グザリア・フーケの硬い声が会議室に響いた。石造りの広い部屋の後ろに、七人いる武術師範の一番弟子たちが集められていた。時折こうして、七人の最優秀の門弟たちは末席につくことが許される。三十歳で特殊部門を卒業した後を見越してのことだ。
「南トレブレンを占拠する日輪連盟軍の指揮官は、中トレブレン攻略に消極的であるとして上流部隊から召喚令を受けていた。処刑を恐れた件の指揮官は月環同盟側に寝返り、中トレブレンに立てこもる南西領陸軍部隊と合流して連盟排除に乗り出した」
 皆がわかっている通りのことを、グザリアは苦々しく告げた。
「トレブレン地方の月環同盟軍は、トレブレン–コブレン間道路を奪還した。間もなくコブレンに入城する」
 この街に陸軍が駐屯するのだ。それも、現時点での陸軍本部からは反乱者と見做され、征伐の対象となった、行き場のない将兵たちの部隊が。
「月環同盟軍側の指揮官はカーラーン・ダーシェルナキ。十六歳。男性。投獄された前総督の第四子であり次男。指揮官について判明している事実は以上」
「その人物の戦績などは伝わっておりませんかな?」
「ダーシェルナキ公爵家には有名が多いがな。この弟は完全に長女と長男の日陰にいる」
「長女シルヴェリアは不用意に民衆の恨みを買うような人物ではなかったようですが」運営委員の一員が顔をしかめた。「弟にもそうであってほしいものです」
 カーラーンという若者とそれを支える将官たちが、市民に金を差し出させるために、市民をコブレン防衛に駆り立てるために、何をするつもりなのか。彼の動きは今のところ全く読めていなかった。
「戦争の落とし所が見えてくるまで月環同盟がコブレンを死守できるならそれはそれでいい」
 だが、日輪連盟軍がコブレンを奪い取ったとき。
 月環同盟に加担したとして市民と自警団にどのような裁定を下すのか。
 無駄な流血を避けるために、月環同盟軍の支配下でどのように立ち回るべきかが議題だった。
 駐留軍がコブレンの市議と市民に対しし得る要求は何か。考えられる限りのことが発言され、書記が書き留めていく。その一つ一つに対し、従順ないし非従順がどのような結果を招き得るか。逆に戦局が日輪連盟優位となったとき、従順ないし非従順の結果が何をもたらし得るか。月環同盟軍の兵士が市民に危害を及ぼすのに出くわしたら、または市民が庇護を求めてきたらどうすべきか。
 白熱し、険悪になり、団長が仲裁し、再び白熱する。意見が卓上を飛び交う様子を、アズはただ見つめていた。
 特殊部門や治安部門の仕事こそがコブレン自警団の本領であると、ともすれば当の団員でさえ思いがちだ。だが違う。一番大切で難しいのは、一つの組織を運営していくことだ。日々鍛錬し、強くあろうと務めることなど最低限の条件であり、努力の内にすら入らない。
 アズは焦燥感を押し殺した。
 俺は努力が足りていない。
 コブレンという現場を知り尽くすには特殊部門の仕事で十分だ。だが、このように広い視野が必要とされるときのための勉強は、まだ何も足りていない、と。
 左隣に座るミスリルが、指で軽く(もも)を叩いてきた。会議の内容は、いつのまにか『月』の件に移っていた。
「月環同盟軍側が『月』の一件を知らないと考えられないのだから、まずはその件を釈明し――」
『おい、今の聞いてたか?』
 ミスリルが声を出さず、口の動きだけで尋ねたら。
『すまん。考え事してた』
『俺たちは『月』をタルジェン島まで運んだところまでは正直に釈明しなきゃならんらしいぜ』
 アズは浅く頷く。ミスリルの一つ向こうに座る、垂れ目の、いかにもおっとりした感じの女が背中を傾けてアズを見た。
『だけど、姿が変わっただけで、『月』はまだこの街にありますものね』
 ミラ・イスタル。女性暗殺者の育成を専門とするイスタル師の一番弟子で、どこにでも潜入できるよう、淑女としての振る舞いを身につけている。このいかにも穏やかで優しそうな女性の姿は、本性を知らなければ、荒れがちな会議の場に似つかわしくないとさえ思えるものだ。
『マナを見て『月』だと思う奴はいないさ』
 ミスリルの目が鋭くなる。
『だけど俺たちはタルジェン島で理解できない経験をした。っていうか、マナが存在するって形でその経験は現在進行形だ。俺たちは既に何が起きるかわからない条件下に置かれてるんだ。戦争とは別の次元でさ』
『あの子のことは、取り敢えず月環同盟軍の目から隠し通せればいいわ』
『歌流民の目も欺けるか?』
『あの子が来てから星獣と星獣使いにおかしな変化は起きていないわよ。それなりの数が出入りしたはずだけど』
 そう。マナは、星獣と星獣使いの歌に対して今のところ無害だ。だがそれは、こちらに予測できる異変の一つを引き起こしていないというだけに過ぎない。
 予測不可能なことはいくらでも起こり得る。
 ミラが本当は何も楽観視していないことは、栗色の瞳に落ちる影から十分に伺えた。

 ※

 テスの体に当たる直前、アズはレプリカの剣を止めた。鉦の音。どきりとしたが、どうにかテスの体に剣を当てずに済んだようだ。訓練に怪我は付きものだが、相手に絶対に怪我をさせないのがアズの信条だった。
 だというのに、あろうことか手合わせの最中に他ごとを考えてしまった。
 アズはゆっくり息を吐き出しながら、切っ先を床に下ろした。
 彼が心ここにあらずの状態だったことを、テスは知る(よし)もない。ただ、剣の切っ先が喉もとから離れていくのを感じながら、勝てなかったという事実を噛み締めていた。
 手合わせをすれば、アズは最初と最後に一回ずつ勝たせてくれるのだが、実力で勝てたことは数えるほどしかない。
 一番弟子の座を勝ち取るのは、訓練で勝率六割に達しなければいけない。
 アズには勝てないと、テスは思っている。
 勝ち取りに来て欲しいと、アズは思っていた。テスがアズを慕うように、アズも兄弟子のテセルを慕っていた。憧れていた。背中を追っていた。だからいつも本気で挑んでいた。
 そして、テセルに勝てぬまま、あの事件が起きてしまった。
 誰が実力を認めようとも、どんな言葉で慰められようとも、一番弟子の座を実力で勝ち取ったわけではないという事実は変わらない。テセルが廃人にされたから、序列二位だったアズが自動的に椅子を引き継いだだけだ。
「オーサー師、時間は大丈夫ですか?」
 鉦を持つ師を振り返れば、オーサー師は白い口髭の中で唇を動かした。
「あと一回にしておけ」
 オーサー師の向こう、壁際に、ミラとレミが並んで立っていた。
「テス」
 ただならぬものを感じ取ったのだろう。弟弟子の顔の表面を緊張が覆った。
「聞いただろう、あと一回だけだ」返事をする間を与えなかった。「全力で来い」
 テスにはそんな思いをさせたくない。
 アズがトビィと共に弟子を卒業するまで、あと二年と一ヶ月。自動的に一番弟子の椅子に上がる前に、勝ち取ってほしい。勝ち取りに来てほしい。その一心だった。
 その日の手合わせの最後、アズはテスに勝たせてやらなかった。


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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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