終末の光景(祈り)

文字数 4,438文字

 4.

 エルーシヤは幼かった。
 エルーシヤは十七歳だった。にも関わらず幼かった。世話人に面倒を見てもらいながら生きてきた。人の痛みを想像することも、その機会もあまりなかった。
 都ではあまりに多くの人が傷つき打ちひしがれていた。
 保安局本部であがる煙も、この地区では雪雲と同化して見えなかった。兵士たちがやってきて、街路を封鎖し始めても、何が起きているのか知っている市民はいなかった。エルーシヤも、戦闘について知らなかった。
「私は長く生きすぎたよ」
 戸口に杖をついて立つ老婆が、卵を届けにきた青年相手に嘆いていた。
「この世の終わりを見るくらいなら、三年前の肺炎で死んでいればよかったのさ。あたしはもう一日だって生きていたくない。かといって死ぬのも恐いのさ」
「そんなこと言うなよ、婆ちゃん。世界が終わるなんて決まったわけじゃないだろう? みんなが勝手に言ってるだけさ。俺もお袋も、婆ちゃんには長生きしてほしいって思ってるよ」
「静かに死なせてほしい」老婆は首を振った。「諦めたいんだ。恐くないっていうのなら、あんたにはわからんよ」
 (たたず)むエルーシヤは、騙すことしか知らなかった。ヴァンたちと別れてこのかた、服も、食料も、寝床も、騙して手に入れてきた。歌うことで、惑わし(たぶら)かしてきた。他に生き方を知らなかった。
 そして今、猛烈に腹を空かせていた。
 さまよい歩く街角で、ある民家の扉に両手で爪を立て、引っかきながら膝をつく男が一人いた。
「どうか最後に一度だけ会わせてくれ! お願いだ!」
 ふらつく足取りで、エルーシヤは角を曲がる。
 曲がり角には、膝をついて背を丸め、両手を合わせて祈っている老人がいた。老人が向き合う石壁には、古い血の跡があった。
 その後ろを通り過ぎれば、そこは椅子屋の裏口で、エルーシヤと同じく空きっ腹を抱えた幼い丁稚が主人の目を盗んですすり泣いていた。お母さんに会いたい!
 エルーシヤは歌うことができた。
 ただそれだけができた。

 ※

 目尻から溢れる生ぬるいものが涙だと、エルーシヤはしばらく気付かなかった。泣けるほどに惨めなのか、自分は、または人間たちは。それとも憐んでいるのだろうか、どのような目線で? エルーシヤには自分の心がわからない。道なりに進むと、階段坂の上に出た。
 薄く白く雪が積もる煉瓦の階段の下を、陸軍の騎兵隊が駆歩(くほ)で通り過ぎる。蹄の音が響き、視界が甲冑の銀色でそまった。エルーシヤは見とれた。騎兵の列が過ぎ去っても、涙は絶えていなかった。
 兵士たちは生きて帰ってこない。そんな気がした。世界の明らかな異変が始まったとき、戦争は終わるかもしれないと思った。人々は手を取りあい、異変に立ち向かうと。違う。戦争にのめり込んでいれば、異変を目の当たりにせずにいられると思っているようだ。
 でなければ、生き急いでいるのだろう。勝利を収めてから死にたいのだ。他にどんな――納得のいく死がある? ――死を意味づけできる? ――自分の死について気持ちの落とし所がないことに気がついて、エルーシヤは慄然とした。
 死なら見たことがある。戦いの跡地で。だがあれは自分の死ではなかった。歌を覆いかぶせることでどのようにも意味づけできる、他人の死だった。
 自分の死が自分にとって何になるという?
 ああ、だから泣いたのだと、エルーシヤは思うことにした。恐いのだ。死を迎えるときに抱くであろう無意味さと虚しさが。無意味さと虚しさを抱えて死ななければならないことが。その後に何も残らないことが。
 もし長く生きられるなら、生きた意味を感じながら死ねるだろうか? だが時間がない。私は長く生きられない。それはもはやエルーシヤの中で確信となっていた。耐えきれず口を開く。
 泣く歌姫の口から(はし)り出たのは、教えられたいかなる旋律でもなく、いかなる詞でもなかった。

『意味を、意味をください』

 掠れた声は、お世辞にも歌と呼べぬものであった。
 エルーシヤはほとんど驚いていた。
 自分の言葉があることに。

『生まれた意味をください』

 今度は少しだけ、声に力が入った。

『生きた意味をください』

 周囲にいる何人かが動きを止め、エルーシヤを見た。ここにいる何人が、自分の死に納得できるだろう。いいや、それは正しい問いではない。死に納得するには、死んだ自分を認識できなければならない。それはできない。
 生きる意味は、きっと自分で見つけられる。善く生きられるのなら。だが、死ぬ意味は?

『死ぬことの意味をください』

 自分の死に意味を与えてくれるのは誰だ? 生きている間、関わりのあった人間か? それでは全く孤独な人間はどうなる、エルーシヤのような人間は?
 生まれ育ったコミュニティを出るべきではなかったのかもしれない。ずっと田舎に引きこもり、要事にのみ引っ張りだされる存在に甘んじていれば。それでは生きる意味を見出し得ないかもしれない。だが、死については、氏族の者たちが意味を見出してくれたかもしれない。あるいはヴァンに背を向けていなければ、自分の罪を恥じて逃げ出していなければ、今こんなにも孤独であるはずはなかった。

『死ぬことの意味をください!』

 即興の旋律で、かろうじて歌として成立しているそれに、誰もが打たれたように動きを止めた。エルーシヤの目が届かない、屋内や裏道にいる人もそうだろう。声が届いているのなら。
 誰がこの叫びを聞き届け得るだろうか? 死に意味を与え得る他人もまた死に絶えたのなら?
 人間とはそういう運命の生き物かもしれないと、エルーシヤは思った。人間という種族が滅ぶとき、死を迎える最後の一人が誰かいる。その一人の死に意味を与えることは誰にもできない。
 あるいは、誰か何か、高く遠いところから人間を、この自分を見てくれている者がいるとしたら?
 生きたことを、罪も過ちも、成長も、見ていてくれている者がいると仮定したら?
 意味を与え得るものとは、そのような者に他ならないのではないか。そしてエルーシヤはその存在を知識として知っている。
 かつて地球人が信じたもの、そして一時(いっとき)とはいえ言語生命体にも信仰を許されていたもの。

『神様!』

 エルーシヤは胸に両手を当て、雪雲を仰いだ。

『我ら死にゆくさだめとしても、生きてきた意味をください!』

 その歌声を聞こうと、人々が集いくる。

『犯した過ちにも、意味をください!』

 石壁に向き合って祈っていた老人が呟いた。
「犯した過ちにも意味を……」
 彼はあの石壁の前で、息子を殺したのだ。

『ああ、そうであれば、死に立ち向かう勇気を得られます』

 誰か、感性の鋭い人が、対旋律を重ねた。女の声だった。

『神様、私に勇気をください!』

 群衆が色めき立つ。
 エルーシヤは間髪入れずに主旋律をかぶせる。

『神様、私が生まれたことに意味がありますように!』

『より善く生きられますように』対旋律。『神様、私に善意をください!』

 エルーシヤは呼応する。

『神様、勇気と善意を私にください。生きて死ぬ意味のために!』

 歌に魅入られた群衆が答唱する。

『神様、勇気と善意を私にください!』

 男も女も、子供も大人も老人も、同じ旋律を繰り返す。その中で、歌姫の体は舞い踊り始めた。もはやエルーシヤは泣いていなかった。舞い踊りながら歌い、通りを東へ進んでいく。

『生まれ生きたことが、無意味ではありませんように!』

 答唱。

『神様、勇気と善意を私にください!』

 生まれてきた。
 必ず死ぬとしても、生まれ、生きてきた。無邪気なお喋りすら許されなかった子供時代、エルーシヤは深い山で歌った。きらめく草原で。光る丘を見下ろす頂きで。小鳥たちが鳴き交わしていた。夏雲は爽やかで、風は澄み渡っていた。
 あの日、生きていた。
 生きている、今も。

『神様、世界は今も美しいままでしょうか? 子供の頃信じていたみたいに?』

 雪雲が寒々しい濃淡をつけるだけの空に向かって、誰かが新しい旋律をつけ加える。

『世界が美しくありますように!』

 今や答唱する群衆の中には、保安局本部へ向かう途中だった陸軍の歩兵たちもいた。
 エルーシヤが戦いの跡地を見たのは一度だけだった。当時十三歳で、脱走した南東領の捕虜が略奪を働き、そして殺し尽くされた場所で、出動した南西領の陸軍部隊の慰問に訪れたときのことだ。その光景を今も覚えている。
 歌が変転する。

『屍肉漁りの犬たちに 食い破られる人々の
 叫びが聞こえます
 どうかその口を閉ざし お眠りください』

 ひらり、ドレスが翻る。

『開かれたままの 虚ろな目に映る
 野原の全ての色が見えます
 どうかその目を閉ざし お眠りください』

 答唱。

『世界が今も美しくありますように!』

 エルーシヤは進む。歌うために。
 椅子屋の丁稚は声が聞こえてくるほうを見ながら、その声のもとに行きたいという欲求に(あらが)っていた。勝手に工房から離れたら、主人からどれほど殴られるかわからない。
 彼女が座り込む裏口に、ふと空の光がさした。雪雲が一部、裂けたのだ。雪がきらめく。丁稚はそのきらめきを、美しいと思った。
「エルーシヤ!」
 歌の力に抗っているのはヴァンも同じだった。彼は非番で、都解放軍の諜報員として活動するはずが、急遽強攻大隊の本部に戻る羽目になったところだった。
 エルーシヤが金を巻き上げたときと同じように、今や歌が歌を呼び、その波紋が円のように広がっていくところだった。円の中心にはエルーシヤがいるはずだった。
「エルーシヤ!」
 ここで彼女を見失えば、きっともう会えない。
「お願い、通して!」
 だが歌に魅了された民衆は、すっかり街路を塞いでいた。

『神様、勇気と善意を私にください!』

 丁稚は背後の気配に気がついて、怯えながら振り向いた。そこに椅子屋の次男がいた。さぼっているのを見つかった。殴られる。木屑を太腿につけ、大股で歩み寄ってくる次男から、逃げることもできずに体を強張らせる。
 長男は丁稚の前で屈むと、背中に回していた手を前に持ってきて、父親の目を盗んで持ち出した星獣祭の焼き菓子を差し出した。
「これ、やるよ」
 保安局本部の生け垣に業を煮やして焼き払っていた陸軍部隊のもとにも、運河を越えて歌の波動がたどり着こうとしていた。その保安局へは、即時停戦を命じるエーリカの使いが馬を飛ばしているところだった。

『勇気はありますか?』

 エルーシヤは今や運河の橋のたもとにいた。

『私たちに より善く生きることはできますか?
 正しいことができるでしょうか?
 死を迎える前に その時間は残されていますか?』

『勇気はあるか』

 人は歌う。橋を封鎖する兵士たちさえも。

『勇気はあるか
 優しさは
 正義への意志はあるか』

 頭上では、鳥たちが運河を渡っていく。歌いながら。ああ、人も鳥も、大して変わりはない。生まれ、生き、歌い、死ぬ――。
 ふと、急激に、周囲が暗くなった。
 夜だ。
 老いて死にかけた空の容態が、朝から夜へと急激に傾いたのだった。


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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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