卑劣

文字数 4,799文字

 2.

 プリスはハルジェニクにクッションを投げつけた。こう言われたからだ。
「お前馬鹿だろ」
 顔面に飛んできたクッションを両手で受け止め、それを腹に抱え込んで、ハルジェニクはソファから身を乗り出した。
「あのなあ。確かに俺は『陸軍司令部の仕業かもな』とは言った。言ったぜ? 失言だったことは認める。でもな、被害者が陸軍人だけかどうか調べたか? 一般人にも被害が出てるんじゃないのか? 何もわからないのにふらふらほっつき歩いて余計なことに首突っ込むなよ」
「でもゼフェルの後継軍の尻尾を掴んだんだよ? みんな誉めてくれたし。お手柄だって」
 実際に今日、通常通り徴募事務所に出勤したプリスは、同じ場所で働く先輩の士官たちから拍手で迎えられた。昼には徴募部隊の大佐がわざわざ本部から事務所へと激励に来たほどだった。プリスは事務仕事と照れ笑いの一日を過ごし、家に帰って浴びせられたのがハルジェニクのこの言葉だった。
「ハルはさあ、一言も二言も多いんだよ。別に誉めろなんて言ってないんだから人に向かって馬鹿とか言わなきゃいいじゃん」
「お前は人に向かって物を投げるな」
 言われた(はし)から向かいのソファに座るハルジェニクにもう一個クッションを投げつけた。ハルジェニクは猫背になって身を乗り出していたので、今度は顔面に当たった。
「絶対に謝らないんだから!」
 結局、この二人はどこか似ているのだった。
 ところで広報部の上層は、帰宅したプリスとハルジェニクが毎日恒例の口喧嘩を始める頃にはもう、この顔が良い新任少尉をもっと人目につくところに置いたらどうかと考え始めていた。
「歌でも歌わせてはどうかね。頭のほうも顔と同じくらいよければ、きな臭いところに送り込んで味方を作らせよう。最悪でも分析の仕事はできるわけだ」
 天籃石のシャンデリアがきらめく執務室で一人の佐官が提案すれば、その副官が否定する。
「誠に残念ながら、南部方面の新しい広報官には北ルナリア副市長の姪が選任される手筈となっております」
 陸軍内の人事の置き換えは着々と進んでいた。
「美人かね?」
「カマキリに比べれば、はい」
 昼にプリスを激励した大佐は、美しいガラスの杯を磨きながら半笑いで尋ねた。
「南部の新しい広報官には他に三、四人ばかし立候補していたね」
「はい。司令部は実際に優秀で経験の豊富な人材を立ててきています。日輪連盟の軍への浸透を食い止めようと必死です」
「今は実際に優秀なのは要らんよ。広報部からも立候補させないわけにはいかないが、若くて素直でさえあればいい。当面はな。
 で、北ルナリアの副市長の姪とやらの評判はどうかね?」
「それが、広報の仕事どころか働いた経験さえないと。選任されたところで納得する者はいないでしょう」
 どうせお飾りにするだけならプリシラ・ホーリーバーチ少尉のほうがまだマシだと誰もが口を揃えて言うだろう。
「それじゃいかん」
 杯が机に置かれ、重い音を立てた。
「司令部には、誰が新しいご主人様か思い知らせてやらねばなるまいね」
 テーブル越しに、副官は恐れと期待の入り混じった目を向けた。佐官はそれに応えた。
「プリシラ・ホーリーバーチ少尉を逮捕しよう」
 翌朝プリスが目を覚ますと、既に日が高かった。遅刻かと思って配属先の徴募事務所に駆け込むも、出勤して来ている兵や士官は少なかった。道すがら、路傍で人々は、困ったように晴れた空を見上げていた。とにかく遅刻ではなかった。
 どうにも時間の感覚がおかしいが、始業からしばらく経つと、都の中心部からプリスの上官を乗せた馬車が事務所にやって来た。二日連続の訪問だ。戸惑うプリスに、その佐官は父親のような温かい笑顔を向けて言った。
「ホーリーバーチ少尉、陸軍の新しい広報官に立候補しないかね。なに、仕事は順次覚えていけばいい。君のようなやる気に溢れた優秀な若者のためなら、喜んで推薦状を書こう」

 ※

 プリスは数日浮かれて過ごし、都にはエーリカ・ダーシェルナキが帰って来た。エーリカを乗せた馬車が通り過ぎたあとの街路では、兵士が四人がかりで一人の主婦に詰め寄っていた。
 たまたま近くを憲兵部隊のケイン・アナテス少佐が騎馬で通行中だった。少佐は同行する副官に話しかけた。イルメという名の、黒い肌に垂れる深紅の髪が美しい、聡明な女性士官だ。
「不気味だな」
 三十代の少佐は若い副官に視線で問いかけた。君はどう思う?
 意を汲んだ答えが返ってきた。
「はい。静かすぎますね」
 理由はあまりにも明白だ。
 このところ、一日の感覚がおかしい。昼が長かったり、夜明けが早かったり遅かったりする。
 時計は、地球人たちが遺した(ゼロ)から二十三までの数字が並ぶ文字盤のものが街の各所に掲げられている。毎年六月に、神官たちが聖地『言語の塔』を訪れて、宇宙空間から謎の技術で送り届けられる神託――それが実際に何であるかは、退化した文明を生きる言語生命体の知るところではない――によって正確な時刻を知り、時合わせの儀式が各都市で行われる。
 だが、六月に合わせられた都じゅうの時計の針の位置と太陽の位置がどうにも一致しない。
「リエルト中尉。君は最近、朝『寝過ごした』と思って慌てたことはないか?」
「ございます」
「私もだ」
 堅物(かたぶつ)で笑顔の少ないアナテス少佐は面白みのない人物だと思われがちだが、そんなことはない。彼は笑うに笑えない冗談が好きだった。
「幸いにして、やらかしたのは私ではなく朝のほうだったがな。そのうち遅刻という概念が消えてなくなるだろう」
 イルメが咎めるような愛想笑いをしたとき、行く手の曲がり角の左側から男女の喚き声が聞こえてきた。アナテスとイルメは視線を交わすと、馬の脇腹を軽く蹴り、駆歩で声のもとに向かった。
 大通りの端で、一人の主婦が兵士四人がかりで連行されようとしていた。左右の腕を両側から掴まれ、後ろ向きに引きずられていく。踏ん張ろうとする踵が薄く積もった雪を引っ掻いていた。靴は擦り切れてぼろぼろ。髪は伸びっぱなしで、継ぎ当てだらけの薄い服にはフケが落ちていた。
「離して! 娘が――娘が――」
 四人のうち三人は兵士で、一人は下士官だった。手が空いている兵士に下士官が耳打ちすると、その兵士は腰を屈め、両手で主婦の踵を掴んで持ち上げた。
 主婦はアナテスとイルメを見つけ、声で縋り付いた。
「助けて!」
 みすぼらしい女が荷物のように運ばれていくのを見て、アナテスはため息をついた。白い息はすぐに後方に運ばれた。
「待ちなさい」
 馬を主婦の隣に並べると、兵士たちは足を止めた。
「その人が何をしたんだ?」
 下士官は、少佐の肩章(けんしょう)をつけたアナテスに、敵意に満ちた目を向けた。
「少佐殿。この者は先ほど都にお戻りになられた公女殿下のご通行を妨害した『ゼフェルの後継』の一味です。よって、不敬罪にて連行するところでございます」
「そうか。殿下にお怪我は?」
「お怪我はございません。ですが、この女が殿下にかけた妄言は聞き捨てなりません」
 肩を竦め、アナテスは(なだ)めるように言った。
「離してやったらどうだ? 妄言なら捨ておけばいいだろう」
「お言葉ではございますが、それを判断するのは我々ではございません。私の務めは司直の手にこの女を委ねることでございます。公務を妨げるのであれば、少佐殿といえども憲兵隊に報告しなければなりません」
 下士官は胸をそらして歩み出た。
「少佐殿、所属とお名前を願います」
「私が憲兵だ。仕事を楽にしてやろう」
 それを聞き、兵士たちは諦めて去っていった。後には主婦とアナテス少佐、副官のイルメ・リエルト中尉が残った。
 主婦は道端にうずくまり、ぐずぐずと泣きながら礼を言い続けた。
「これで家族のもとに帰れます……なんとお礼を申し上げたらいいか……」
直訴(じきそ)とは思い切ったことを」
 アナテスは馬から降り、主婦に言葉をかけた。
「礼などいい。本来あなた方はただ平和を望むだけの無害な人々と聞く」
 二の腕を取り、立ち上がらせた。
「帰りなさい。『ゼフェルの後継』についてはいろいろな噂があるが、あなたは武器を握りしめてはいけない。娘がいるのだろう」
 これが憲兵部隊ケイン・アナテス少佐の人となりであり、彼は今、プリスを乗せる護送用馬車との合流地点に向かっているのだった。

 ※

 憲兵隊が徴募事務所に来たとき、プリスは先輩の士官と昼食をとっていた。事務所の奥の部屋が開き、チーズとハムを挟んだパンにありついていたプリスは、このところ急に愛想が良くなった先輩もろとも戸口に顔を向けた。六人の男女が入って来た。先頭の男は少佐だった。パンを咀嚼しながら何の用事だろうと呑気(のんき)に考えていたが、彼らがプリスたちのいる丸い机を取り囲むと、先輩は青ざめた。チーズが美味しかった。プリスの大好物だ。
「どういったご用件ですか?」
 口の周りにパン屑をつけたまま立ち上がったプリスに、アナテスは同情に満ちた目を向けた。
「プリシラ・ホーリーバーチ少尉は君か」
「はい、少佐殿」
「私は憲兵部隊のケイン・アナテス少佐だ」
 プリスは無意識に小首を傾げた。こんな来客の予定あったっけ。
 アナテスはため息まじりに告げた。
「ホーリーバーチ少尉、君に逮捕状が出ている。大人しくついてくるように」
「はっ、逮捕?」
 プリスはにっこりした。
「誰がでしょうか?」
「君だ!!」
 まだニコニコしているプリスの両側から、二人の兵士が二の腕を押さえた。
「えっ? うわっ、痛たたたたたたたっ、ちょっと」
 腕を掴まれる痛みと、イルメの声「抵抗はおやめなさい」、実際に前に歩かされたことによって、ようやくプリスは我が身の出来事を理解し始めた。
「いや、待って? 逮捕? 逮捕って」
 まだ食べ終わってないのに!
 先輩はあんぐり開けた口から玉ねぎの細い繊維を垂らして様子を見つめていた。
「少佐殿! 身に覚えがないのですが!?」
 実際のところ、アナテスもその副官も、最近つとに有名なこの若い立候補者を不憫に思っていた。身に覚え? そりゃあないだろうな。
 アナテスは幼少より正義感が強かったし行動も伴っていた。一例として、士官学生時代には狂犬のような同級生がいたのだが、その狂犬が上級生と問題を起こすのを腕づくで止めようとしたことがある。すぐにボコボコにされたのだが、ケイン少年は英雄のように祭り上げられた。狂犬(マグダリス・ヨリスという名前だった)に立ち向かったからだ。祭り上げられた結果、五年間も学年委員をさせられた。貧乏くじを引かされたのだ。
 これが俺の立ち位置か? 二十年経ってアナテスは思った。時間が壊れても、俺はこういうことをし続けるのか?
「君があの日取り逃した二人組は、既知の通り都で武装蜂起の準備を進めるゼフェルの後継軍の指導者と幹部だ。君は居合わせた警邏の騎兵に対し、蒸留所の経営者に(かかずら)わせることによって、二人の大物の逃亡を幇助した疑いが持たれている」
「市街で騒動に居合わせた場合の規則がちゃんと定められています!」
 半ば引きずられながらプリスは抗弁した。
「どうして軍規に従ったら逮捕されなければいけないんですか!」
「さっさと歩きなさい!」
 イルメに一喝され、プリスはようやく同室の先輩の存在を思い出して顔を向けた。
「中尉、助けてくださいよ」
 先輩の女性士官は固まっていたが、憲兵たちの視線に刺されて我にかえると、口の周りをぺろりと舐めて瞬いた。玉ねぎの繊維は口に消えた。
「……あっ。私よくわからないので」
 先輩の士官が昼食をその場に残して去ると、アナテスはプリスの顔にありありと浮かぶ青黒い憤怒(ふんぬ)と絶望を見た。彼女には未来が見えないのだろうが、アナテスには見えた。罪状が書面で提示される頃には、彼女は重罪人になっている。犯罪の証拠? 今から出てくるのだ。
 それを受け、他の立候補者たちも考えを変えるだろう。


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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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