市街戦/コブレンの戦い(1)

文字数 4,382文字

 3.

 星獣が第一城壁の門の一つを内側から開けた。日輪連盟軍が雪崩を打って押し寄せる。防御側の月環同盟軍は、その区画の防戦に集おうとはせず、残る四つの区画に避難して橋を焼き払おうとした。だが、第一城壁の落とし戸を閉ざしたときのように、敵味方が()()ぜになって押し寄せたがために機会は失われた。
 一つ、また一つと街区が陥落していく間に、第二城壁の上の兵士たちは、空堀に投げ落とした柴の束に火矢を射かけ始めた。
「市民兵! 市民兵!」第二城壁の内側の通りを、下士官たちが呼びかけて回る。「市民兵、配置につけ!」
「本当に戦わせるつもりなの?」
 声をあげたミラをグザリアが宥める。
「どうせ虚仮威(こけおど)しだ。ミラ、お前に二人貸す。市民が星獣を見たらパニックを起こす。第二城壁のそばに行け。動きを見張るんだ」
 ミラは青ざめながら「はい」と返事をし、屋根を滑り降りていった。
「アズ」
「はい」
「鏡の広場は戦場になる。お前も二人選んで、そこにいる人たちを中央病院に避難させろ」
「病院は既にいっぱいです」
「押し込むんだ! 庭がいっぱいなら職員宿舎も風呂も開放させろ! 便所もだ!」
 第一城壁から第二城壁に向かって、日輪連盟軍の旗の(ひるがえ)る区域が増えていく。運河と空堀で守られた第二城壁の真下の通りは兵士たちでごった返し、跳ね橋は彼らの重みで抜け落ちそうなほどだった。最前線の部隊の時間稼ぎで、月環同盟軍の第二城壁内への避難は進んだ。空堀から立ち上る火の壁は、しかし、所詮は人と馬をたじろがせるためのものでしかなかった。兵士たちの頭上を掠め、二頭の蛾の星獣が悠々と第二城壁の内側に入り込んできた。
「待って!」
 屋根を降りたアズが振り返ると、優しく光る赤い翅の光がパンジェニーの顔を照らし、通り過ぎて消えた。
「私も手伝う」
 自警団が活気付き、戦いの舞台は第二城壁に移った。二重城壁を有する鉱山街コブレンは、一夜にして陥落しようとしていた。街路で男が矢文を手に騒ぎ始めた。
「市民は家にこもれだと! おい! 無抵抗の市民の安全は約束するってここに!」
 この男は、あらかじめ攻囲側が忍び込ませた間諜だろう。だが、内容は口々に広められた。
 燃え盛る柴は、第二城壁に梯子を立てかけんとする日輪連盟軍の努力を妨げた。可動式の攻城櫓や投石機もすぐにはここに到達しない。だがこれが時間稼ぎになるだろうか? アズは中央病院の門戸(もんこ)をしつこく叩きながら、夜明けまで()てばいいほうだと自答した。第一城壁を突破するのにも、日輪連盟軍は、常套的な攻城兵器を補佐的にしか使わなかったのだから。
 ミラは任務を果たすのに苦労した。既に第二城壁に入り込んでいる二体の星獣が、攻撃も威嚇もせず、町中を悠々と飛び回るからだった。市民たちは口を開けて星獣を見上げた。やがて星獣は、それぞれ褐炭道路と果樹街道、市を横断する東と西の大通りの端に飛んで行った。そして、市の南側では激戦が繰り広げられている。
「戻って団長に伝えて」ミラは、選んだ二人の仲間のうちの一人に頼んだ。「星獣を除かない限り、退路は北の通りしかないわ」
 褐炭道路の先は露天掘り場、果樹街道の先は農場、そして北の大通りの先は、山中の石切り場への入口だった。

 ※

 月環同盟軍は持ちこたえ、攻撃の第一波は二十一時に収束した。日付が変わる零刻まであと三時間。夜明けはそれよりもう少しだけ早い。
 緊張は寒気を鋭くさせ、沈黙を深くさせた。兵士たちは荷車を押し、弓矢と油を前線に補充させた。だが、柴は残り少ないようだ。
 自警団本部の屋根裏で、アズとトビィ、レミとパンジェニーは交代で仮眠を取った。アズが部屋の片隅で膝を立てて座り込み、床に直接横たわるパンジェニーとレミの寝息を聞いていると、トビィが窓の鎧戸の上のほうを叩いた。
 鎧戸を開けると、屋根に伏せたトビィの顔が、舞う粉雪と一緒に入って来た。この世で最もアズを安心させる双子の兄弟の顔は、寒風にさらされていても、生気と温もりがあった。彼は短く尋ねた。
「聞こえる?」
 答えずにいると、上がってくるよう合図された。
 アズは窓框(まどがまち)に立って、屋根の縁に両手をかけて上った。
 体の周囲で雪混じりの風が渦を巻いた。屋根の上で振り向くと、炎の川が見えた。火のはぜる音、呻き声。徴発された市民兵の居所がわかった。第二城壁のすぐ内側だ。彼らの声が聞こえるか、と尋ねられたのかと思った。だが違った。市民兵たちは誰も騒いでいない。正規兵たちからも捨て置かれているようだ。
 アズはもっとよく耳をすます。
 すると、チャイムと鉄琴の中間のような音色が聞こえてきた。それは歌であった。
 疼痛に見舞われ、反射的に腹に左手を当てた。痛みは脈打つ熱さに変わった。
「どうしたの」
 トビィが顔色を変える。
 腹から胸へかけて広がる変色が、歌に反応している。
 その歌の主、吸盤を持つ脚と、象牙、長い鼻、厚く平たい耳、硬い額と真紅の目が、第二城壁の天辺(てっぺん)に姿を現した。

 ※

 カーラーンの兵士たちに脅されて、市民兵は弩を撃った。市民に抵抗の意志ありと見做された。殺戮が始まった。
「違う! 違う!!」
 弩を投げ捨てた女の声が悲鳴に変わり、途絶えた。怒りに駆られた別の市民が火かき棒を振りかざし、隙をついて別の市民を逃がそうとした。逃がされたほうは角を曲がったところで、逃亡兵として月環同盟軍の兵士に斬り殺された。逃がしたほうは、日輪連盟軍の兵にその場で殺された。
 兵が道を走り、矢が(くう)を走った。大通りを、微かに光る星獣たちが縦横に走った。
「撃て! 撃て!」
 街角のどこかで、指揮官が声を張り上げていた。
「カーラーン殿下が安全なところに避難されるまで持ち堪えるんだ!」
「避難? 避難だって?」
 最前線から少し離れた持ち場の兵士たちが、動揺し、囁き交わした。
「コブレン司令官は俺たちを置いて逃げる気か!?」
 夜明けが近づくほどに、戦線は第二城壁の奥へ、街の北へと動いていく。日輪連盟軍を押しとどめようと奮闘する部隊があれば、星獣たちが彼らを舐め、噛み砕き、蹴り、刺し、潰した。連盟軍の兵士たちは、街路を動くもの全てに剣を振り上げた。身を守るために、市民兵と見分けのつかぬ全ての市民を斬り伏せようとした。
 戦わなければならないのは、両軍の兵士だけではなかった。市民の誘導は難航していた。自警団員の同行と陳情があっても、連盟軍の新兵は、ジェスティの前で剣を振りかぶった。その餌食となる直前、ジェスティは黒いマントの内側に右手を入れた。
 銀髪が翻り、篝火の火の粉を弾いた。
 腰帯の上に巻きつけた、柔らかい金属の留め金を外す。ウルミと呼ばれる鞭状の長剣だ。ウルミを腰からほどきながら、背後に避難者を庇い、しなる刃を前方へと繰り出した。
 そのときジェスティは、何故ミスリルが自警団を裏切ってあの軍属を殺したか、はっきりと理解した。
 背後に守るもののためだったのだと。
 だが仲間たちからはぐれたジェスティは、散り散りになった人々をどこへ避難させればいいか、皆目見当もつかなかった。
 ジェスティは逃げ道を算段する。
 まだ安全なところがあるとしたら、ただ一つ。月環同盟軍の本陣がある北の一角だ。そこに至る北の大通りが通れるか――星獣たちに蹂躙されていないか――賭けるしかない。
 その頃、見習いの少女レンヌ・オーサーは、他の見習いの少年らと共に、背後に十数人を連れて辻を曲がろうとしていた。彼女たちも北の大通りに逃れようとしたのだ。だが、辻を曲がったところで一人ずつ足を止めた。
 長い上りの階段坂が、黒く重みのある質感で埋め尽くされ、雪灯りに目を凝らせば、立ちはだかる塊のそこかしこから、折れた腕や足が飛び出ていた。
 それらは全て人だった。
 助けを求める呻きが、水のように流れ落ちてくる。
 群衆雪崩が、この避難路を塞いだのだ。

 ※

 残る二本の大通り、西の褐炭道路と東の果樹街道のいる星獣を排除すれば、市外へ避難できる。
「星獣の排除を」レミが顔を赤くし、息を弾ませながらアズの居場所まで戻ってきた。「しろって。命令だ。団長は本気だよ」
 アズは頷き、同じ屋根に立つトビィの目の中に覚悟を見出そうとした。だがトビィはアズではなく、市街へ目を向けた。あらゆる辻とあらゆる庭で火が焚かれていた。屋根屋根に積もる雪は厚みを増している。街路の雪は血の混じった泥と化し、点々と人が倒れている。
 トビィは火事が起きている場所を確かめていた。間違いなく、十を超す火災の現場はコブレンのいくつかの暗殺組織の拠点。その近くには星獣の光が見え隠れしている。
「最初からこのつもりだったんだね」
 トビィの声は穏やかで、何故か微笑んでいた。レミはその微笑みに、沈黙のまま見入っていた。
「今燃えてる

が日輪連盟軍に協力したんだ」

協力したのかも。北ルナリアの副市長か……」
「同じだよ、レミ。星獣の性能試験のついでに彼らは粛清されたんだ。同情はしないけど」
「さっき」レミが、南のほうを顎で差した。「見たことない商会の旗が立ってたんだ。日輪連盟旗と一緒に」
 微笑んだままトビィは頷き、今度はアズと目を合わせた。
 商人たちは強い。当然のことだ。船や隊商が軍に接収されれば彼らはそのまま従軍し、しかもそういったことはしばしばある。死ねばせっかくの仕入れが無駄になるのだから、彼らを鍛えるための訓練場を、実に多くの商会が備えている。
「専売権くらいは約束されてるのかな」
 軽い口調でトビィは言った。
「星獣を(きず)ものにされたら彼らは怒るだろうね。アズ」
「ああ」
「いいこと考えたんだ」
「何だ?」
「あの人たちの事業を台無しにしてあげようよ」
 武装商会が略奪を済ませ、殺し屋たちの隠れ家に火を放つ。レンガの家は内側から火を噴いた。その光と熱を浴び、星獣が、牙に実る銀の珠を打ち震わせ、象牙の歌を歌っていた。
 珠についた口とは別に、菱形に大きく開く口が長い鼻の下にあった。その口から声は出ないが、火を噴く窓の向こうで木製の家具がはぜる音を食った。体内に通じていない空洞で、パチパチと火の音が反響する。その音も食った。
 象牙の実が食い覚えた音で拍子を打つ。
 パチ、パチ、パッ、パパン。
 星獣は、今度は長い鼻を近くの血だまりに突っ込んだ。よくしなる鼻を頭の上に持ち上げて、拍子に合わせて血を噴き上げた。
 ビュ、ビュ、ビュッ、ビュビュ。


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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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