起爆

文字数 4,109文字

 3.

「聞き返しはするまい」
 それが、しばし黙り込んだのちのレグロの第一声。
 足の下では歯車装置が音をたて続けていた。床が完全に上りきっておらず、わずかに残る隙間から音が漏れてくるのだ。
 マナは目を閉じた。
「……懐かしい歌」
 アエリエにはどうしても、それは歌に聞こえなかった。
「ここで一つ、フーケ殿が知らない話をしよう」
 海風が吹いた。レグロの姿の向こうでは、港に次々と船が入り、カモメたちが鳴き騒いでいた。
「タルジェン島はそもそも地球人のための療養施設であり、ヨリスタルジェニカ神官団は本島及び離島に散るそれらの施設を聖遺物として守護する役目を負っていた。その設備には島と本土の間で人や物を転送する装置も含まれているのだが、フーケ殿、あなた方がタルジェン島から姿を消したその日から、南西領言語の塔の聖遺物である『砂の書記官』が機能を停止している」
 はっ、と息を吸って、マナが目を開いた。
「このことは南西領守護神殿からの通達でわかった。聖遺物『砂の書記官』の役目は大気や水中に含まれる物質のデータを取りまとめ、宇宙艦隊に送信すること。それとも解説はご無用か」

は言語生命体たちの文明退化が順調に進んでいることを、宇宙空間に向けて千年報告し続けてきました。それは記憶の彼方」
「記憶の彼方とは()なことを。機能停止からさほどの時は経っていないが」
「人間の体を得るにあたり」マナはこめかみに指を当てた。「必要のない膨大な過去のデータは引き継ぎませんでした。記憶の彼方という表現も、感覚的には正しくても事実としては不正確です。マナとして、人であるこの私として、地球人と交信を行ったことは一度もありません」
「では、(いにしえ)の都で何百万もの人を皆殺しにした覚えもない、と?」
 マナはレグロを見つめ返しながら黙っている。アエリエは迷ったが、結局助け船は必要なかった。
「そういう事件があったという知識はあります」
「罪悪感も引き継いだ」レグロは断言した。「……ほう、図星のようだ」
 静かに目を伏せるマナの顔を鳥の影が(かす)めた。灰色の羽根が落ちてきた。三人の足の間を風に吹かれて転がっていく。
「償いをしたかったの」
 目を上げず、呟いた。
「代理戦争の償いを。深い砂の中で、千年願っていた」
「もし可能であれば、あなたの発言が誇大妄想ではない証拠を見せていただきたい」
 レグロが明朗な声で仕切り直す。
「南西領守護神殿はアースフィアに現存する聖遺物及び『月』の素性について『砂の書記官』に問い合わせた。あなたが『砂の書記官』であれば、その回答がどのようなものかご存知であろう」
「“『月』にまつわる記録は過去四千年にわたって存在しない。
 私は太古歌の領域を探そう。
 母なる地球(テラ・マーテル)にありし日々より積み上げられた集合無意識の層にその元型があるのなら、私は潜り、見つける”」
 ここに至り、やっとレグロの顔から笑みが消えた。
 沈黙。
 アエリエの耳に、はっきりと歌と音楽が聞こえた。
 シオネビュラの市民たちの口から歌が湧き出たのだ。
 楽団までついている。
 アエリエは振り向き、市街の様子を確かめた。
 この北神殿へ至る大通りに、市民たちの頭が見えた。黒い髪、赤い髪、黄色い髪。音楽の発生源を覗き込んでいる。
「ああ……」
 パレードが来ていた。マナが目を細めた。
「壊れた太陽の歌だ」
「いえ」アエリエは耳を澄まして否定する。「星獣奏の語歌(かたりうた)よ」
「アエリエにはわからないの?」
 戸惑いを押し隠す。わからない。レグロが尋ねた。
「して、見つけられたのか」
 マナは答えず、体の向きを変えてアエリエのほうに来た。レグロに見つめられながらアエリエの手を取る。
「コブレンを出る直前に、アズたちと庭で話したことを覚えてる?」
 腰を屈め、聞き返す。
「どんな話だったかしら」
「『月』が原因なく存在することはよくない。ゆえに私は『月』を取り込み、『月』の管理者として人間になった。人間には存在する原因があるから。親が産んだという原因が」
「ええ」
「ミスリルは親になってくれた」
 パレードの風が吹き、マナの顔を赤茶の髪で半分隠す。
「だけど、やっぱり無理がある」
 ミスリルと同じ色の髪を左手で払い、マナは繋いだ手をほどこうとした。
 反射的に、アエリエは手に力を込めた。
「リレーネという名の少女が語る通り、『月』が永遠(とわ)なる真昼の王国……外宇宙、並行世界、鏡像の世界からもたらされたものなら、やっぱり『月』はこの時空のアースフィアにあるべきじゃない異物。その異物が綻びとなってアースフィア全体に波及する。この懸念(けねん)について私はあの日『論理崩壊』という言葉を作ったけど」
 予期せず少女らしい笑いかたをした。
「止めたかったな」
「何をするつもりなの」
「レグロ・ヒューム二位神官将」
 マナが強くアエリエの手を振りほどいた。幼さの残る顔は今や強張り、口許(くちもと)は引きつり、目尻は微かに震え、目に湛える光は張り詰めていた。
「歌を止めていただけますか?」
 レグロはただ訝しみ、「歌など――」
「いいから!」
 金切り声。

「止めて!!」

 絶叫がシオネビュラの空に響き渡った。アエリエは少女の細い肩に手を置いた。
「マナ?」
 揺さぶった、そのときに、パレードの喧騒が群集の悲鳴に変わってマナの声に乗った。
 混乱の合唱。
 始めたときと同じくらい唐突にマナは叫ぶのをやめ、頭を抱えて蹲った。
「ここで待たれたし」
 レグロが言い、視界から消えた。床が四つに分割され、彼の乗った部分が屋内へ降下したのだ。
 マナが黙っても、群集は黙らなかった。取り残されたアエリエは、通りに集まっていた人々が、毛細血管のように入り組んだ細い道に広がっていくのが見えた。
 大通りでは、色彩が暴れている。
「アエリエ」
 星獣が後ろ脚を蹴り上げ、街灯を一撃でひん曲げるのが見えた。その御者(ぎょしゃ)は路上に伏し、胸を押さえながら這って逃げようとしている。
「ごめんね」
 制御を失った星獣は一頭だけではない。アエリエは市街を見るのをやめた。足許ではマナがまだ蹲っていた。
「マナ」アエリエは屈み、背中に手を置いた。「どこか痛む? 吐き気は?」
「……例えば」
 青ざめるマナは、吐き気を堪えるかのように、右手を口に、左手を喉に当てる。
「『言葉つかいの語歌』というのがあるけれど、一連の語歌の世界では、言葉が魔法のような力に変容する。
 太古歌が変容すれば世界が変容するの。平行宇宙のいくつものアースフィアに生きるいくつもの魂が、太古歌の領域で、鏡のように互いを映しあう」
「待って、マナ。悪いけど理解が追いつかないわ」
 眼前の少女が、急に知らない人になってしまった気がした。
「まずあなたは、太陽の王国や言葉つかいの語歌の世界が本当にあるという前提で話しているの? 言葉つかいが本当にいて、おとぎ話の世界から『月』がやって来たって」
「言葉つかいは一つの例。彼らはいない。このアースフィアには。だけど私たちは歌を通して言葉つかいを知っている」
「ただの物語じゃないの?」
「人に作られた物語じゃない。語歌(かたりうた)に作者はいない。それは太古歌の領域から浮かび上がり、しばしば同時多発的に、感性の鋭い人たちの意識に現れる。
 アエリエ、さっき私はヒューム神官将に答えなかった。でもわかったの。『月』がどこを通って来たのか」
 マナの背中から肩へ、アエリエは両手を動かす。優しく力を込めた。
「教えて」
「語歌、『壊れた太陽の王国』の世界。そこは外宇宙を繋ぐ私たちの集合無意識の接点。
 太古歌の領域。
 こことは違う時空のアースフィアに繋がる通路だよ」

 ※

 問題は、タルジェン島に帰るべきか否かだ。
 居留地の住人たちの浮かれた様子が目に焼き付いて離れない。あり得ない。馬鹿な。そんな。
 ゾレアが立ち止まる。
 居留地から急ぎ足で遠ざかっていたミサヤは、ゾレアに後ろから腕を引っ張られ、彼女が足を止めたことに初めて気がついた。
 振り向けば、歌流民の少女の顔色は蒼白。民家が路地に影を落とすので、なおのこと精彩を欠いて見えた。
「どうしたんだ?」
 ゾレアの凝視の対象が、ミサヤの顔から北神殿がある方角へ移る。
 その方角で悲鳴が湧き起こった。

 ※

「どうしてわかったの?」
「装置」
 短く答え、マナが立ち上がる。ふらついてはいない。レグロが消えた空間、眼下の、北神殿の最上階の部屋を指さした。
「この装置は聖遺物。地球人の耳や、歌に関する特別に鋭い感性を持つ言語生命体には、あの装置のたてる音が歌に聞こえるの。
 流れていたのは壊れた太陽の歌だった。
 それでわかった」
 アエリエの耳は、マナの言葉と同時に星獣がたてる破壊の音も拾い続けていた。
 喇叭(ラッパ)の音も。
 兵を率いて二位神官将が出動したのだ。
『月』は星獣に作用し、化生に堕とす力を秘めていた。これまで二つの聖遺物、『月』と『砂の書記官』の融合物であるマナが星獣に作用を及ぼしたことはない。
 今になってそれが起きたのは……もしも市街の騒乱にマナの存在が関与しているのなら……マナという人間、現に人体が存在するという事実を()ってしても『月』を抑えきれなくなっている、ということか。
「因果を持たずに存在――」
 言いかけたマナに両手を伸ばし、アエリエは強く抱きしめた。
 胸の中でマナの言葉が途切れる。
「大丈夫」
 マナは息をしていた。
 体温があった。
 鼓動が感じられた。
「何があっても大丈夫」
 人間だった。
「必ず守るから」
 マナの驚きと緊張が、その体の固さから伝わってくる。アエリエはマナの頭頂に頬をつけた。目線はシオネビュラ市街の果て、北の城壁まで飛んだ。
 緊迫した声で囁く。
「逃げるわよ」



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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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