愛する世界の歌

文字数 5,184文字

 雪が消え、春となった。コブレンの復興は少しずつ進んでいた。
「それでは皆さん、休憩時間が近付いてまいりました。次のお話で今日はおしまいにしたいと思います」
 再稼働した陶房の作業所で、製品の選別作業に勤む少女たちが朗読者に声をかけた。
「聞かせて!」
 少女たちと朗読者の声は、作業所の裏の通りにまで聞こえていた。
「ええ。それではこれより私がお話するのは、言葉を魔法のように操る『言葉つかい』の物語。楽土を求めさまよう死者の巡礼団と、処刑刀を手にそれを追う、言葉つかいの青年の話をいたしましょう……」
 補修され、殺戮の痕跡が跡形もなく消されたコブレンの舗道には、太陽の光が惜しみなく降り注いでいた。月も星も太陽も、滞りなく巡っていた。何事もなかったかのように。
 何事もなかったわけがあるだろうか?
 レミは作業所の裏の四つ辻に屈んで花束を置いた。こうした花束は、コブレン市街のどこにでもあった。新しいコブレンは花であふれるがいい。レミは願った。弔いの花であっても、殺し屋であふれるよりはずっと素晴らしいじゃないか。
「ここなんだな」後ろからテスが声をかけた。「アズとトビィが死んだのは」
「うん」
 黄色いミモザの花束が、そよ風を受けて揺れた。手招きしているようだった。コブレン自警団本部の庭で摘んだミモザだ。二人の頭上で昼星が鳴き、小鳥たちが逃げていった。
「この場所で」
 レミはミモザの小さな花びらに人差し指をあてた。
「この場所で、二人は、命を」
 眩しさに目を細める。
「命を……」
 歌語りが厳かな調子で続いている。レミは沈黙した。彼女は泣いたりしないことをテスはわかっていた。
 レミはコブレン自警団の新しい団長となっていた。グザリアを失ってコブレンに帰還した自警団には、新しいリーダーが必要だった。若く、将来性のある者が。レミは期待に応える。できる、とテスは思っていた。レミ自身もだ。
 ミモザから指を離し、レミは立ち上がった。
「……繋いだんだ」

 ※

 南西領は王国として独立すると『女王』は宣言した。かくて多くの批判を浴びたダーシェルナキ家の親衛連隊は、王室親衛連隊として再編成されることとなった。連隊長はマグダリス・ヨリス大佐。
 彼の妻ユヴェンサはこのところ妊娠の兆候を示していた。妻を休ませ、ヨリスは休暇をとった部下たちを自ら自宅でもてなした。
「俺の新曲聴いてくださいよ!」
 ダイニングでクラウスが目を輝かせた。
「王室親衛連隊の歌の叩き台にしようと思ってるんですけどね、歌いますよ、『輝け、希望の――』」
「黙れ」と、ユン少佐、四ヶ月前まで上級大尉だったクラウスの上官が遮った。「街頭で歌うときのためにとっとけ」そしてキッチンに声をかけた。「ヨリス大佐、新しいワインを開けてもよろしいでしょうか?」
「君は私の家で酒を飲むな」ヨリスは左腕にボウルを抱え、プリンタルトの生地を作りながらキッチンから顔を覗かせた。それから訂正した。「飲んでも構わんが、服を脱いだらつまみ出す」
 ヨリスは長かった髪をばっさり切っていた。もう伸ばすつもりはない。彼は自分の新しい顔を見つけ出しつつあった。子供が生まれたら、その顔はいよいよはっきりと現れるだろう。
「俺たちが経験したことは結局なんだったんだろう」
 ヨリスの副官ミズルカが、苺を砂糖に浸しながら上の空で呟いた。
「やめてくれ」とリーン。「散々話したぞ。根掘り葉掘り聞かれたじゃないか」
「女王陛下御自らにね」アイオラはため息をついた。「話し飽きたわ。蒸し返すのはやめましょう」
 新しいワインをボトルに注ぎながらアウィンも同意した。
「俺たち、あと百回は同じ話を繰り返さなきゃいけない気がするぜ」
「そう」ユヴェンサが頷く。「女王陛下がことの全貌を明らかにするまではね」
 彼女はどこか満足そうに自分の腹に手を当てた。キッチンではヨリスが一人、タルトの型に生地を流し込みながら嘆いていた。
「俺はあと何回プリンタルトを作ってやらねばならんのだ……」

 ※

 あの戦いと月を巡る一連の現象の全貌を解き明かすことは、いかにも南西領の新しい『女王』の使命だった。重要な証人であるリレーネ・リリクレストをいつまでも南西領に留めおくことはできず、春の訪れと同時に護衛武官パンジェニー・ロクシもろとも北方領へ送り返さなければならなかったのだが、急ぐことはない。ことの究明にはどのみち時間がかかる。
 それに、大陸全土を覆う戦いは新たな局面に差し掛かっていた。王領を中心として大陸を一つの王国にまとめ上げるやり方は、とうの昔に限界を迎えている。南西領の独立宣言は大陸全土に衝撃を与えた。既にいくつかの地方があとに続こうとしている。対立の構図を月環同盟軍と日輪連盟軍という枠に収めることはもはや不可能だ。
「陛下、よろしいですか?」
 控えの間に侍従長が姿を現したとき、『女王』は口角を上げて頷いた。戴冠式のこの日に放つ第一声は、民衆に向ける演説に取っておくと前日から宣言しているのだ。
「では、参りましょう」
 侍従長は『女王』の手を取った。
 二人は暗い廊下を進む。王宮となった総督府の二階のバルコニー、演説台へ。
 旧南西領、レライヤ王国独立の日は、天候に恵まれていた。まだ春先だというのに初夏のような陽射しだ。素晴らしい日光の中へ、『女王』は姿を現した。
 侍従長ララセルが声を張り上げる。
「我らが王国の女王、エーリカ・ダーシェルナキ陛下に万歳!」
 広場を埋め尽くす民衆から歓声が湧き上がった。さまざまな帽子と旗が自分のために振られる光景を、戴冠演説を始めるまで、ドレスに身を包んだエーリカは、満ち足りた気分で見下ろしていた。

 ※

「本当によろしかったのですか?」
 シオネビュラの港でフェンはシルヴェリアに尋ねた。
「あなたは新しい王国の女王になれる人物だったのですよ?」
「権力が惜しいなら、フェンよ、大陸に残るか?」
 その意地の悪い質問に、フェンは嫣然たる微笑みで答えた。
「いいえ」
「こんな古くさくてくたびれきった王国などくれてやるわ」
「古くさい? 今日は新生王国の女王の戴冠式の日ですのに」
 戴冠式の日は、新大陸へ向かう最初の船団がシオネビュラから出発する日でもあった。途中でヨリスタルジェニカ神官団の艦隊と合流し、シンクルスとその妻ロザリアが所有する古の海図を頼りに新天地を目指すのだ。
 そこに地球兵器があれば、使うことができるなら、そしてここ囲いの大陸に送ることができるなら、戦争は予想もつかない様相となるだろう。
 だがそんなことは、新大陸についてから考えればいい。エーリカはまるで追い出すように、出航の日を戴冠式の日と重ねたのだ。
 シオネビュラの港では神官団自慢の艦隊が勇姿を見せつけていた。市民たちは都を見下ろすあらゆる建物によじ登ってまで、新世界へ向かう船と人々とを一目見ようと押し寄せていた。
「じゃ、私は行くから」
 リアンセ・ホーリーバーチは見送りに来たミスリルとマナ、そしてアエリエに、親しみを込めて手を振った。
「元気でね」
「ああ、お前こそな」
 ミスリルも微笑み返す。
「お姉ちゃん、クレープ買ってきたよ!」
 そこへ、共に旅立つ妹のプリスがクレープを両手に駆けてきた。
「この大陸で食べるで最後のクレープだよ。船に乗る前に、はい!」
「そんなこと言わないで、戻って来ればいいじゃない」
 アエリエ言葉に、クレープを受け取りながらリアンセは目を細めた。
「いつになるかわからないわ。私たち、ここには一生戻ってこれない覚悟があるの。まず新大陸に辿り着けるかどうかさえわからないし」
「そうね」
「無事を祈るね」マナが、ミスリルに作ってもらった陶片の護符に手を当てて言った。「ときどきでいいから私を思い出してね、


「この子ったら!」
 そのとき、乗船開始を告げる喇叭が高らかに鳴り響いた。
 私は行くんだ。プリスの胸は高鳴っていた。怖くないと言ったら嘘になる。でも、ヴァンが与えてくれた勇気がある。この胸に燃えている。ヴァン、エルーシヤ、ハルジェニク。三人のことを思うと胸が締め付けられる。立ち直ったとはとても言えない。でも、前に進める。
「共に行けぬのが残念だ」
 シオネビュラ神官団正位神官将ヤン・メリクルが、ソラートから使節として派遣されたミサヤの隣で呟いた。
「新大陸を目指すことを私も考えました」ミサヤは答えた。「ですが、やはり私はソラートの大地を愛しています。そこで息子を育てたい」
「私もだ」と、メリクル。「新天地を目指すには、歳をとり過ぎたらしい」
 正位神官将の座をレグロに譲るとは言ったものの、当のレグロは二位神官将補メイファを伴って新大陸に行ってしまう。夢の隠居生活は当分お預けだ。
「私がお支えします」繰り上げで二位神官将に就任したニコシア・コールディーが言った。「我が補佐官ミオン・ジェイルと共に」
 ミオンは密かに皮肉な笑みを浮かべた。彼は、この大陸を発つ船団の第一波が新大陸に到達したら、第二波に乗って行ってやろうと心に決めているのだった。
「お姉さん! みんなが行っちゃうよ!」
 夜明けとともに新しい歌を高らかに歌ったゾレア、役目を終えて歌流民であることをやめたゾレアがミサヤの手を引っ張った。
「ゾレア、そう興奮するな」
 船の甲板で、船乗りたちが太鼓を打ち鳴らし始めた。そのリズムにあわせてシオネビュラの民衆が手を叩き、踊り、それぞれが好きな歌を歌い始めた。
「……それじゃ」
 いよいよリアンセはミスリルたちに手を振った。
「ああ」ミスリルは笑顔で顔の高さに拳を掲げた。「頑張れよ!」
 リアンセはクレープを左手に持ち変えて、右手で拳を掲げ返し、ウィンクした。
 マナは首にかけた護符を握りしめる。
 祝福がありますように。
 神がいるのかどうかはわからない。地球人たちさえ、一人としてそれは知らなかった。けれど、どうか、どうか、人々の間に勇気と希望の絶えることがありませんように。

 ※

 リアンセたちが去ってから五日後の朝だった。シオネビュラ近郊の村外れの一軒家で、ミスリルはアエリエに叩き起こされた。
「ミスリル、起きて! すぐに!」
 かぶっていた毛布をひっぺがされ、寝癖がついた琥珀色の髪をかきながらミスリルは不機嫌に起き上がった。
「なんだよ……」
「これ」
 鼻先に紙を突きつけられる。
 ミスリルは紙をひったくり、文面に目を走らせた。みるみる眠気が飛んでいき、不機嫌どころではなくなった。
 マナの筆跡だった。

『親愛なるミスリル、アエリエ

 世界に私がいることを認めてくれてありがとう。それと、身の回りのいろいろなことを教えてくれたことも。
 ずっと心に決めていたことなのだけど、私はあなたたちから自立します。
 月とも砂の書記官とも関係のない、ごく普通の人間に私はなりたかった。
 それはできると信じています。それが、私が私になる唯一の方法なのだと確信しています。
 だから、私は行きます。
 普通の人々の中で働いて、普通の人として生きていきます。
 これまでにくれたお小遣いを持っていきますね。
 あなたたちには感謝してもしきれません。
 愛を込めて。

 マナ』

「どうする?」
 呆然としながら、ミスリルはアエリエに聞き返した。
「どうするって言ったって……」
「朝方に外に出る物音を聞いたの。トイレに行ったと思ったんだけど……仕事を探すならシオネビュラに向かったんじゃないかしら」
 マナの自立を阻む口実はいくらでもあった。だって、あいつはまだ世間知らずで、人間を善良なものだと思っているし、一人で買い物に行かせれば散々カモにされて帰ってくるし、大した小遣いを持ってるわけじゃないし、火を起こさせれば火傷するし、自炊なんてもってのほか、針で指を突き刺さずに服のほつれを直すことすらできなくて……。
 ミスリルは頭を抱えた。
「急いで追いかければ間に合うわよ」
 アエリエのその言葉にミスリルは頭を抱えるのをやめる。
 そして決心する。

 ※

 なだらかに下るシオン丘陵から大都市シオネビュラを見下ろすことができた。都市の数えきれない尖塔の間に太陽が照っている。都市はすっかり目覚めて、工業地帯からはいく筋もの煙が上っていた。
 マナは明け方から二時間かけてこの丘の頂きにたどり着いた。だがもしミスリルが本気を出せば、三十分とかからずにマナに追いつくだろう。
 爽やかな風吹き抜ける草原で、マナは一本道を振り向いた。
 視野一面に広がる、羊たちが草を()む牧草地。
 誰も追ってきてはいなかった。
 首から下げた護符を指でつまみ、マナはミスリルとアエリエの家がある方角にそれを掲げた。
 誰にともなく微笑んで、体を前に向ける。
 もう振り向かない。
 燦々と降り注ぐ陽射しの中、都市へ、人々の暮らしの中へと、マナは大きく一歩を踏み出した。









〈完〉




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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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