終わりの前に

文字数 4,187文字

 4.

 空は晴れているが、都の方面から厚い雪雲が押し寄せてくる。風が強いから、天気が変わるのも早いだろう。
「うっずらー、うっずらー」
 ミスリルは機嫌がよかった。
「うずらんらん」
 肉にありつけるからだ。
 森の端で土を掘り、石を雑に組んで作った即席の竃に飯盒(はんごう)を設置し、中を匙でかき混ぜている。アエリエが木の枝の生皮を剥いで煮沸し、マナに刃物の使い方を教えながら作らせたものだった。
 リアンセは火に小枝を投げ込んだ。
「何その歌」
「即興!」
 川で手を洗ったが、ミスリルの手には(うずら)の血が薄くのびて残っていた。骨は埋めた。汚れた羽毛は風に散らされ、森に帰っていった。汚れていない羽毛はリアンセが袋にまとめた。詰め物に使うのだ。
「うずらのら、うずらのら、らんらんららら、らんららん……」
 ミスリルは飯盒の中身をひと掬いし、口に運んで小麦と汁をすすった。
「美味い!」
「ねえミスリル」
「短調でも歌おうか」
「いいから」
 ミスリルは無視して、今度はいかにも悲しげな調子で口ずさむ。
「うずらぁーんらら、うずらーららー」
 リアンセは自分の背嚢(はいのう)から皿を出した。一枚しか持っていないので、ミスリルは飯盒から直接食べることになる。
「貸しな。よそってやるよ。で、今何か言いかけたか?」
「ミナルタはガチョウ料理が美味しいことで有名なの。着いたら奮発してみない?」
 ミスリルは目を丸くしながら、半分に分けたスープをリアンセに渡した。
「どういう風の吹き回しだよ?」
「いいじゃない。私だって美味しいものに興味がないわけじゃないわ」
 皿を受け取ったリアンセは、肉の多さに驚いた。汁気がほとんどなく、ミスリルが獲って捌いた鶉で溢れかえっている。
「もしかしてさ」湯気と煙を挟んでミスリルが尋ねた。「今のうちに美味いもの食っておこうって魂胆か? 世界が終わるから?」
「そうかもね。でも今は鶉」
 匙を使って食べると、しっかりと火が通っており、だが固くなるほど熱せられてはおらず、ちょうど食べ頃だった。噛むと肉汁があふれた。口を火傷しないようにゆっくり噛んで、呑み込んだ。
「世界が終わる前にミナルタで仕事しないと」
 ミスリルを見る。彼は飯盒の前で瞑目し、ほとんど声を出さずに祈りを捧げていた。大地の恵みに感謝する、異端の信仰者の祈りだ。
 リアンセは見つめながら肉の二切れめを食べた。
 ミスリルは目を開けて、改めて飯盒に頭を下げた。それから匙を口に運んだ。
「そういえばあなたたち、生きていくのに余分な食料は口にしないって言ってたわね」
「飽きるほど食べるのは良くないってだけさ。どの程度守るかは人によるよ」
 ミスリルは、腰掛けた切り株から長い足を伸ばした。
「それに、満腹時に敵襲があれば空腹時より苦戦する。見習いのときにいやってほど教えられたさ。お前は好きなようにしな。俺のことなら気にするな」
「じゃ、好きにさせてもらうわ」
 そう言って、リアンセは身を乗り出して飯盒を覗きこんだ。汁気を吸って膨れた小麦と、肉の欠片が二つ三つあるだけだった。
 リアンセは自分の皿から大きな肉を飯盒に移した。
 驚いた視線を受けながら座り直す。
「これくらいじゃ満腹にならないでしょ。もっと食べなさいよ。あなたガタイがいいんだから」
 ミスリルは何か考え込んでいたが、ふと笑みを漏らすと、次は大きな肉を口に運んだ。
 食事の時は和やかに流れた。ミュゼとの戦いを経験する前よりも、ずっと和やかに。二人は当面の方針についてアエリエと同じような結論を出していた。つまり、何が起きたか今すぐ知ることはできない。ゆえに今まで通りの行動をとるが、異変には目を凝らす。
 二人が満足して口を拭くと、葉を落とした木々の枝が強風に煽られて音を鳴らした。木漏れ日が揺れる中で、火に当たりながら話をした。
「なあ、そろそろグロリアナのゼラ・セレテスが何をやらかしたか教えてくれてもよくないか?」
 リアンセは無表情になり、空になった皿を落ち葉の堆積に置いた。
「最初にやらかしたのは弟のテオ・セレテスよ」
「シオンの戦いで死んだんだっけ?」
「そう」
 始まりは六年前。
「グロリアナの浚渫工事。ゼラの領民からの支持を確たるものにして、聖遺物を川底から引き上げて、数名の行方不明者を出したクソッタレ工事」
 全てはそこからだった。
「あなたも知ってる通り、この工事でゼラは父から総指揮を、十七歳のテオは財務管理を一任されていた。健康状態に不安があった領主は、そろそろ息子たちに責任を負わせてもいい頃合いと思ったのでしょうね。
 その頃、噂を聞きつけたシオネビュラの事業家が新しく土木商会を立ち上げた」
「ああ」ミスリルは頷いた。「大体読めた」
「テオは入札手続きを経て、浚渫工事の案件をその土木商会に発注した。その会社の入札条件は常に最低価格。入札した案件は全て受注した。読みの通り?」
「ああ」
「じゃあ、これは? その商会の名はセレスティア土木技師職人商会。休暇旅行先のグロリアナで商機に飛びついたシオネビュラの事業家は、セレスタ・ペレの父親よ」
 今度は、ミスリルは首を横に振った。
「さすがに読めなかった」
「セレスティア土木技師職人商会の受注価格は全て不当に水増しされた金額。受注した工事はリジェクとグロリアナの下請けに丸投げし、何も知らない下請けの技師や職人たちは一般的な金額をセレスティア商会に請求した。水増ししたお金は全てテオとペレの懐へ」
「ありがちだな」
「どうしてバレたと思う?」
「セレテス家の家訓は質実剛健。次男の身なりが急に派手になったら親父と兄貴が気付くだろ」
「その辺りかもね。でも頼みの父親と兄はテオを止めるのが遅すぎた。
 テオとペレは共謀してありもしない技師団体による虚偽の入札書類を作成。応札したらセレスティア商会が最低価格を提示したような外観を作り、グロリアナ市議の購買承認を得ていた。
 でも、金が不正に一箇所に集まれば他のところの金がなくなる。仕事があればあるほど、働く時間が長いほど、何故か暮らしに満足感がない。それどころかグロリアナは全体的に困窮していってるみたい。それで、誰かがおかしいと思い始める……」
「やりすぎってことか」
 その後の諸々で当時のグロリアナ領主は病の床に伏し、ゼラが弟を締め上げたとて時すでに遅し。テオが不正で得た負債は、父の死後、セレテス家当主にして新しいグロリアナ領主のゼラが抱え込むことになった。
「そこに、リジェク神官団お抱えの歌流民たちがゼラを訪ねてきた」
 火が小さくなっていくのを見ていたミスリルは、鋭い目を素早くリアンセに動かした。
「歌流民?」
「殺された情報部員は取引の内容を掴んでいた。言語生命体を酩酊させ、実際に肉体に癒しや苦痛を与えうる歌……その

を流通させる手助けをしてほしい、と」
「さぞお高い報酬だっただろうな」
「ゼラがやらかすのはここからよ。彼は詳細がわからずとも

がヤバいものだと察していた。だからだと思うけど、それを極力手許(てもと)に回収しようとしたの。そこでご登場いただくのが南部ルナリア独立騎兵大隊。覚えてる?」
「カルナデル・ロックハート大尉だ」ミスリルは即答した。「俺とお前が再会した時、お前はその大尉に用があって関所にいた」
「さすがね」
 リアンセは唇を吊り上げたが、目は暗かった。
「ゼラは南部ルナリア独立騎兵大隊ギルモア中佐の協力を得て、

を実際には存在しない軍事関係の団体に直送」
「要は循環取引か」
 リアンセは頷いた。
「ギルモア中佐は注意義務を怠ったけど、循環取引であると認識していたことを示す直接的な証拠は発見されていないの」
「その中佐は公女殿下のリストに載ってるのか?」
「要注意人物として載ってるわ。殺害の必要は様子見」
「でも、そんな取引絶対バレるだろ」
「だからでしょ? ゼラが領地から姿をくらまして、南部ルナリア独立騎兵大隊が急いで駐屯地から逃げたのは」
 ミスリルは黙り込み、話を咀嚼した。二度三度と頷く。
「なるほどな」
 石組みの中で、火は小枝と松葉をわずかに覆う程度の小ささになっていた。
「でも、どちらかと言えばゼラは薬を流通させないためにそれをしたんだろ? 殺さなきゃいけないのか? それに、セレスタ・ペレは?」
 木立の外から風が吹き込んだ。ミスリルは火にくべようと思って近くの松葉を一つかみしたが、思い直して手放した。
「蒸し返すようで悪いけど、セレスタは本当に殺さなきゃいけない奴だったのか?」
「殿下の敵であらば」
 頭上から小さな物が落ちてきた。それはミスリルとリアンセの視界を縦に突っ切り、石組みで守られた火の中に落下した。オレンジ色の火花が()ぜた。
 松かさだった。
 見上げたミスリルは、目を見開き、息をのんで立ち上がった。
「なに?」
 答えず、頭上を覆う裸の枝々に目を凝らす。それから自分の足許に目を落とした。
 リアンセが待っていると、彼は慎重に口を開いた。
「俺が竃を組んだ時と木漏れ日の角度が変わってない」
 自分で言いながら、疑っているような口ぶりだった。
「俺たちの影の長さ、食事を始める前から変わってなくないか?」
 言われてリアンセも腰を上げたが、ミスリルの言う通りかどうか確信は持てなかった。
 もし言う通りなら。
 太陽が動いていないことを意味する。
 疑いに満ちた目を天に向けた。木の枝を透かして、半透明の天球儀が空を覆っていた。
 暗雲が流れてくる。
 今は遠い。だが、確実にここに来る。
 二人はまだ晴れている空を仰ぎ続けた。先にやめたのはミスリルのほうで、彼は気持ちを切り替えて疑問を口にした。
「さっき、ゼラは薬を

回収しようとしたって言ったよな」
 二人は目を合わせた。瞬きもしない。
「回収できなかった分はどこに行った?」
「怪しいのは南部ルナリア独立騎兵大隊のギルモア中佐。抜き取る機会はいくらでもあった」
「どれくらいの量を?」
「薬といっても、私たちが想像するような形のものじゃない。それが歌であり、かつ物理的に存在するものなら譜面じゃないかしら。だとしたら一部あれば十分だと思うけど」
 歌流民たちは門外不出の、暗号化した譜面を使うと聞く。
「欲しいわ」
 リアンセが唸った。
「ぜひとも手に入れたい」
 ミスリルは薄々わかっていた。
 唸るように望みを口にしたならば、リアンセはそれを叶えることを。


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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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