グロリアナ領
文字数 1,371文字
その日コブレンを
グロリアナ領セレテス家はこの一帯を百三十年独占した。ときに北の神官領リジェク市に兵を供給し、ときに王領や西方領へ向かう南西領陸軍の中継地点となり、かわいらしいほど小さな町グロリアナとその周辺の村々を、当たり障りなく
お家騒動が持ち上がったのは
およそ千年前に囲いの大陸から撤退した地球人によって戦力と領土の独立を保証された神官領は、概ね各地の総督や地方領主たちとの間で平和の努力を続けてきた。ところが年の改まった頃からであろう。南西領総督シグレイ・ダーシェルナキが海洋進出の意図を明確に打ち出すや、海上の聖遺物保護を掲げてそれを阻止したい神官たちの勢力との間にきな臭さが漂い始めた。
先のセレテス子爵は親総督派の地方領主であったが、昨年末に肺炎を
むろん総督シグレイは激怒したのだが、当の子爵本人が軟禁状態では減封しようにも意味がない。
「不遇だな」
一夜を明かした川辺の岩の陰で、ミスリルは
「去年の暮れから別宅に引きこもってるセレテス子爵が、俺らの知りたいことを本当に知ってればいいんだけどな」
「かと言って、子爵代行のテオ・セレテスが私たちを相手にするとは思えないわ。それに名目上とはいえソレリア民兵団の総責任者はゼラ・セレテス本人。ゼラがよほどの腑抜けでない限り、無駄足にはならないはずよ」アエリエが答えながら焚き火の後に土をかけ、入念に消火した。「話し合いにこぎつけられればね。テス、起きて」
「だな」ミスリルはアエリエに右手を伸ばし、消火用のスコップを受け取った。「そろそろ行くぞ。
「真鴨起きてる」
腕を枕にし、マントをかぶって横になっていたテスが思いがけずはっきりした声で返事をした。慣れ親しんだ土の匂いを嗅ぐのをやめ、テスは身を起こすと、座り込んだ姿勢でのびのびと両腕を伸ばした。それから口に右手を当て、あくびを一つ。真鴨の愛称の由来となった髪に適当に手櫛を入れるテスに、ミスリルは叩きつけるように言った。
「お前、俺たちだけに荷造りさせたな!?」
テスは目をこすりながら立ち上がった。
「顔洗ってくる」