自壊せよ

文字数 4,513文字

 5.

 ケイン・アナテス少佐はこの防衛戦の真っ最中に、副官もろとも憲兵隊司令部に呼び出された。憲兵隊員たちの反乱の責任追及、有り体に言えばトカゲの尻尾切りだ。
「かくかくしかじかの経緯で君は部下たちの反乱を防げなかったわけだが、どう処罰してくれようかね?」
 すると同席する他の将校たちが一斉に「減俸! 減俸!」
「やめろ」アナテスは懇願する。「そういう心にくるのはやめてくれ」
「では代わりに前線送りというのはどうかね」
 というやり取りがあったかどうかは知らないが(この通りのやりとりではなかったはずだ)、アナテスは前線に更迭され、裏切りの密告者には報酬を支払うという約束が日輪連盟の全ての将兵及び軍属になされた。
 ところでヴァンは、かつて歌流民の少女から不審なハンドバッグを受け取るところを同僚に目撃されており、ハルジェニクがプリスの部屋から逃走した際には歌流民の少女が同行したこともヴァンが非番だったことも知れ渡っており、さらに今、ヴァンが属する強攻大隊は大した働きもせずに金獅子門の防衛から引き上げたことで面目を失っていた。強攻大隊を擁する第一歩兵連隊の指揮官コーネルピン大佐は、なんとしても失地を挽回しなければならなかった。精強無比で知られる強攻大隊がなんの手柄も立てられず、撤退から集合までに時間がかかりすぎ、その間に少なからぬ犠牲を出したのは何故か? 新しい指揮官が馴染んでいないせいか?
 それとも裏切り者がいるのか?
「リンセル少尉」
 煤にまみれ、精気を失った表情で、中隊長によって半ば引きずられるように議事堂前広場に辿り着いたヴァンを、コーネルピン大佐は今か今かと待ち構えていた。都解放軍と合流しそびれ、自身の小隊の兵を多く見失ったヴァンは、ようやく目に力を込めて背筋を伸ばした。
「はっ! 連隊長殿――」
「君の兵士はどうしたね?」
「前線の火災と避難する民衆の流れにのまれ、散り散りとなりました。議事堂前広場に集まるようにとの命令は行き届いておりますので、順次到着するはずです」
「それは結構」コーネルピン大佐は気のない様子で頷いた。「それより少しこちらに来て話をしないか?」
「ですが……」
「連隊長である私が、君から直々に話を聞きたいのだ」
 同じ大隊の将兵たちにちらちらと視線を送られながら、ヴァンは臨時の指揮所となった議事堂へ、連隊指揮部隊の兵士に取り囲まれて連れられていく。
「前線について、少し聞かせてもらおうじゃないか」

 ※

 月を見るために、雪積もる屋根に上った。
 日輪連盟軍は既に城壁の防衛を放棄していた。都内部を複雑に分断する河川を利用して、ほぼ全ての主要な橋を上げ、各区画ごとに守りを固めている。これを月環同盟軍がどう攻略するかは、都解放軍との連携次第だろう。
 火災は貧しい区画の木造の家々を焼き尽くしたところで自然と鎮火していた。
 まだ、火がくすぶっている。区画全体を走る赤い熾火(おきび)が見える。
 城壁には篝火が焚かれ、月環同盟の勝利の御旗(みはた)が翻っていた。
 ミスリルは顔を上げた。
 わずかな雲の切れ間に見上げる天球儀の白色光の網目と遠い星の海、その中間に月はいた。欠けることのない月が。
「ミスリル」
 気配を殺して、誰かが同じ屋根に上がってきていた。拳を握りしめていたミスリルは、目線を前に戻し、凍る雪を踏みしめて歩み寄ってくる声の主と向き合った。
「テス」
 テスは警戒するように、十分な距離を挟んでミスリルと向き合い、立ち止まる。
 ミスリルは尋ねた。
「どうして自警団に戻らないんだ?」
「アズとトビアスの安否がわかるまで戻るつもりはない」
「それこそ自警団に戻ればわかるじゃないか」
「団長は俺の、二人を気遣う気持ちを利用している。それが気に入らない」
「あの二人は死んだ」ミスリルは自分の見解を口にした。「死んだから、それをはっきり言わずにいることでお前を利用できると考えたのさ」
「生きている」
 感情を剥き出しに、テスは否定した。
「生きていると俺は信じる。もし死んでいるのなら、信仰なんて捨ててやる」
「……天球も、大地がもたらす恵みもか」
「アズとトビアスが生きてるほうがいい」
「何がお前にそこまで言わせるんだ?」
「謝らないといけないんだ。アズに」
「何があったか知らないけど」ミスリルの拳に、自然と力が入る。「その想いは、天球の恵みとそれを作りたもうた神を否定するほど大きいのか?」
「神がなんだ。あの二人が死んだなら、そんな奴はいない。いたとしても俺たちの神じゃない。地球人の神だ。そいつは俺たちを愛してなんかいない」
「そいつって……」
 ミスリルはちらりと火災の跡を一瞥し、息をついた。周囲は焦げ臭かった。
「少し冷静になれよ。失いたくないものぐらい俺にだってあるさ」
「マナ、か?」テスの瞳が冷たく光る。「可能態の奥行きの軸の中から、マナがここにいる可能性を選択するつもりか?」
「それができるなら――」
 言い切るまでもなく、空間が変転した。
 火災の燃え残りの熾火も城壁の篝火も消えた。地上も城壁も屋根も雪も消滅した。
 一面灰色の空間に二人は立っていた。ミスリルとテスの間、目の高さに、一抱えもある月が浮遊していた。白く輝く、月。
『可能性は慎重に選択しろと言ったはずだが?』
「お出向きいただいて、どうも」
 ミスリルは口を歪めて不機嫌に挨拶した。
「『砂の書記官』とは分離したのか?」
「聞くだけ無駄だろう」と、テス。「これが現状マナじゃないというのが答えだ」
 一歩、ミスリルは月に歩み寄る。
「それで、結局あんたは何なんだ?」
『ただの地球人だ。誰にも愛されることのなかった』
「へぇ、そりゃ驚いたな。だったらアースフィアに現存する唯一の地球人ってわけか」
『……語弊があった。私の本体はとうに死んでいる。私の生涯に関する記録が、語歌(かたりうた)として知られる平行宇宙、壊れた太陽の王国において、少女リレーネの望みに応じて結実したものがこの姿だ。いわば地球人の亡霊が、少女の願いと融合した姿だ』
「月が欲しいとでも願ったのか? リリクレストお嬢様は」
 月は答えなかった。
「わからないな」今度はテスが質問する。「どうしてお前に関する情報の中から、『誰にも愛されることのなかった』という情報を選んで自己紹介したんだ? それが今のお前の姿や世界の危機と関係しているのか?」
『誰にも愛されなかった、これほど私を表現するのに相応しい言葉はない。それだけのことだ。父も母も私に興味はなく、友もなく、生涯ただ一人愛した女は実在しないものだった。わかるか。誰にも愛されぬということは、他人にとって己は何者でもない、自分が誰でもないということだ』
「他人にとってどうだろうと、お前はお前だろ? 俺にはわからないな」
『お前がわからぬまま一生を終えられることを私は望む、ミスリルとやらよ。お前は孤独が似合う人間ではない』
「へぇ、地球人サマが言語生命体を人間だと認めてくれるのか?」
『地球人にとってお前たちは人間ではないが、人間だと思わなければ愛することはできなかった。お前たちをお前たちのまま愛することができなかったのだ。それは愛という観念への不信を、地球人という種族の意識にはびこらせた』
「無様だな。神を僭称(せんしょう)するお前たちが愛を見失ったってか」
『笑うがいい。結局のところ、愛への不信が地球人全体を孤立させ、この宇宙のアースフィアにおいて時空漂流へと向かわせたと言っても過言ではないのだから』
「壮大な連中だな。愛を見失ったがために時空漂流をするなんて。それでどこかの時空間の通路からお前が呼び出されて俺たちの世界を壊すって?」
「なあ」
 ミスリルの反対側から、テスもまた月に歩み寄る。
「こことは違うアースフィアでは、俺の二人の兄弟子も生きているだろうか?」
「よせ、テス」
「勘違いしないでほしい」
 テスは首を横に振った。
「平行宇宙とやらが実在して、他の時空のアースフィアの俺が、同じ姿で……いや、俺の百倍優れた奴でも、そいつにこの俺となり変わってほしくはない。同じように、どこか別の宇宙にアズとトビアスが生きていても、あのアズとトビアスでなければ俺の兄じゃない」
『いかにもそうであろう。平行宇宙をさまようということは、愛する人を、自分自身をも他人にするということだ』
「お前たちに愛がないのは当然だ」テスは月を睨みつけた。「俺はお前が気に食わない」
『何故だ?』
「ここまで自分で言っておいて、俺が解説しなければわからないのか? 平行宇宙という観念を証明するお前の存在が、全ての愛する人を他人に変えてしまう潜在的危険を秘めているからだ。地球人、お前は俺たちの神だった」
『いかにも』
「ならば一つ、言語生命体の願いを叶えてくれ。お前が誰でもない存在なら、叶えられる願いだ」
『言ってみろ』
 テスが息を吸い込む。ミスリルは本能的な危機を感じて叫んだ。
「やめろ!」
 遅かった。
 テスもまた叫んだ。
「自壊しろ!」
 灰色の時空に一瞬、戦争が行われる都の光景が二重写しになった。月が消える。気配を感じて顔を上げたとき、月は、ぎりぎり手が届かない高さに浮いていた。

『砂の書記官、応答せよ。私はお前やマナとの完全なる分離を要請する』

「何をするつもりだ!」
 ミスリルに構わず、どことも知れぬ時空に月の声が無慈悲に響く。

『マナの人格のバックアップデータの破壊を要請する』
『砂の書記官によるマナの代理人格の上書きを許可し、意思出力及び入力経路の遮断を要請』

「マナはどうなる!」
 周囲が暗くなっていく――

『消滅するか、さもなくば自我を抱えて宇宙をさまようことになる。マナという存在を記憶する人間が死に絶え、マナの存在によって引き起こされた事象への波及が可能態の微小なノイズの範囲に収束するまで』

「させるか!」
 暗闇。
 ミスリルは都、民家の屋根の上にいた。城壁には篝火が焚かれ、地上には火災の残り火。
 眼前にはテス。
「この野郎!」
 殴りかかるミスリルの手首を、誰かが握りしめた。テスはマントを翻し、屋根から飛び降りて去っていく。どことも知れぬ夜の闇の中へ。
 ミスリルの手首を握るのは、華奢な少女の手。
 少女は空中に浮いていた。
 月があった場所。
 そこにマナがいた。
『ミスリル』
 浮遊する少女は、言葉を失うミスリルに語りかけた。
(わたし)の心を見ても蔑まないで。この孤独と自己愛は、私が最後の一滴まで飲み干さなければならない苦杯なの』
 ミスリルは混乱する頭で必死に考える。
 マナ、お前は月なのか? あの空虚な心から生まれたのか?
 問いかけは、しかし、声にならなかった。
『私に祈る神はいない。だけど、あなたに会いたい』
 名前を呼ぶのが精一杯。
「マナ」
『覚えていて』
 マナの姿がかき消える。手首に感じていた温もりがなくなった。マナの声もまた、かつて言語の塔で聞いた声、砂の書記官の中性的で無機質な声になりかわる。

『私たちは誰も』
『永遠に生きられない/永遠を生きている』

 気配が霧散した。
 ミスリルは一人、夜闇の中に立っていた。
「マナ」
 空を見上げる。
 風が雲を消していく。
 燦然たる月。赤の他人の月。
「――マナ!」
 返事はない。
 闇。


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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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