略奪の略奪の略奪

文字数 4,128文字

 2.

 新総督アランド・ダーシェルナキには、星獣祭までにやらなければならない仕事ができた。メイファ・アルドロスの予言通り、最低な決断を下したのだ。日輪連盟の武装商人たちが、コブレン救援の御旗(みはた)のもとに独自に兵を募り始めたからだ。それは挑発の範囲を逸脱していた。
 アランドに疑問を抱く一部の親衛隊員たちが、日輪連盟の外交官と接触したという事実も大きかった。連盟の商会に紛れ込んだ反アランド派の将兵が、彼らの地下組織『(まが)つ炉の都解放軍』に金を流しているという噂もある。
 そうした潜入者は、穏便に金品を盗み出すのが難しいときには、案内役を装って荷を曳く馬を路地に導き、抵抗するならば御者を殺すという手段を取った。夜明け前から喧騒が始まった都の一区画で、それは行われた。
 建物と建物の間の狭い通路に流れた血は、(にび)色の雲の下、外気に触れるや温もりを失い凍りつきそうなほどとなった。マントで体型を、フードで顔を隠した一人の人物が、腰を屈めて貨幣の詰まった袋を手押し車に載せ替えていた。作業が終わると、喧騒の中で車を押し始めた。幸い道は平坦だ。重くはない。
 車を曳く人物は顎を上げた。鼻から下をストールで覆っているため、フードの下に見えるのは、大きな二重瞼の目と、(すみれ)色の前髪だけだった。
 (そり)がいるようになるわ、と、彼女は思った。彼女の名はアイオラ・コティー。反乱が起きるまで、陸軍歩兵部隊の中尉だった。

 ※

 雪が、残酷な幻影のようにつきまとい始めた。武装商人とその下請けたちが夜明け前から始めた仕事を見に来た民衆は、今や十重二十重(とえはたえ)の人垣となっていた。
 商人たちは強引に買い上げた街区を自分たちの思い通りにすべく、まず前の住人たちの生活の匂いを取り消しにかかった。不要となる種々の雑貨、彼らの目に安物と映る調度品は、破壊のうえ打ち捨てられた。端金(はしたがね)で家を追われたかつての住人たちは、顔を背けて足早に立ち去った。都の議会議員と、本来の住居の権利者たちが抗議の声をあげた。
 最初の衝突はごく小規模なものに終わった。商人たちの仕事を邪魔し、道路を塞ぐ抗議者を、作業の請負人が殴りつけたのである。抗議者は殴り返した。だが双方とも冷静さを保っていたために、それ以上のことは起きなかった。
 二時には商会側と抗議者側が、揺れ動く民衆に向けて別々のことを呼びかけた。商人たちは自分たちの土地建物の取引は法的に正当であると主張した。抗議者たちは元住人に支払われる額が少なすぎると訴えた。
 がめつい貧乏人どもめ、と誹謗の声が上がれば、駆除されるのを待つだけのドブネズミども、と中傷の声が上がった。
 民衆の間を走り回る人々は、高価な紙を撒いて日輪連盟が富裕であることを誇示した。紙には連盟がいかなる手段で都の人々の暮らしを豊かにし得るかが書き連ねられていた。それを学者風の男が捕まえて、書かれた内容について二、三尋ねた。日輪連盟の宣伝者には答えられなかった。彼は字が読めない、ただの雇われ人だった。
 三時を過ぎる頃には、民衆はどちらかといえば抗議者側に同調し始めていた。商会側に冷たい目を向ける民衆は、結果的に道を塞いで彼らを包囲する形となった。ガラクタと資材が散乱する区画に商人たちは孤立した。
 四時になると、都に駐留する日輪連盟軍の将校が、この包囲は違法であると呼びかけ始めた。彼が従える剣を手にした兵たちは、民衆を恐れさせたが、同時により多くの見物人を寄せ集めることとなった。
 同じ時刻、別の街区では、新総督に不従順であると目された貴族の家が略奪にあっていた。いつ頃からか都で存在感を帯び始めた『ゼフェルの後継』たちが、石を投げて略奪を非難した。アイオラ・コティーは煉瓦造りの修道院の裏手で、荷車に座り込んで雪雲を見上げていた。彼女の古い友人にして同僚のアウィンという元士官の青年が、彼女たちを(かくま)う修道女の手に、貨幣の入った麻袋を次々手渡していた。全ての麻袋は修道女たちの手から手へと渡り、修道院の地下の小部屋に収められた。
 五時、昼を迎える頃だった。赤毛の青年が修道院の小塔から下りてきた。痩せていて、そばかすのある童顔で、どこかまだ幼げな印象さえあった。青年は外階段を使って裏庭に降り立つと、井戸端で洗濯をしている修道女たちの後ろを走り抜けた。彼の姿を認めてか、アイオラは自ら修道院の裏口から出てきた。
 青年は軍人らしく、必要な情報だけ正確に伝えた。
「貴族街を襲った連中が数を増やしながらレスター街の騒動に合流しようとしている」
 アイオラは美しい顔立ちの女性だが、今ばかりは眉間に深い皺を刻んだ。
「何人?」
「荷運びを含めて現時点で五十から六十五。それだけじゃない」青年はアイオラの耳に囁いた。「陸軍兵舎が開門した」
 アイオラの顔が目に見えて強張った。だがさすがに冷静だった。
「ありがとう、ミズルカ」
 彼女は決まっていた通りの予定を口にした。
「信号を出しましょう」
 修道院の最上階の窓に、普段洗濯されることのない青い壁掛けが干された。壁掛けが見える位置にある建物で、誰かがギターラを弾き始めた。その楽曲の意味を知る者が、街角で歌い始めた。
 音楽が広まった。
 それが信号であった。

 ※

 陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ中尉は陸軍の派出事務所に詰めていた。そこは新兵の受付所で、徴募された若者たちの身体検査が朝から行われていた。事務所は武装商人と抗議者たちが騒動を起こしている区画のすぐそばにあった。そろそろ休憩のために受付を締め切ろうかというとき、一人の若者が検査を受けるべくやってきた。開いたドア。若者。その向こう側から、これまでとは明らかに違う恐怖と混乱の悲鳴が聞こえてきた。
 受付から顔を上げたプリス、入ってきた若者、離れた場所で事務処理を続けるもう一人の女性士官が、目つきを変えて通りに顔を向けた。民衆が散っていく気配が感じられた。プリスの教育係の女性士官が呟いた。
「何が起きているの」
 立ち上がったのは彼女ではなく、プリスのほうだった。戸口の若者を押しのけるプリスに、
「勝手な行動は――」
 ――だが、プリスの姿がもう見えなかったので口をつぐんだ。
 武装商人たちが民衆に牙を剥いたのかとプリスは思った。子供や老人の手を引いて、民間人たちが騒動の現場から逃げてくる。陸軍の制服姿のプリスが人混みを遡ると、誰もが率先して道を開けた。
 人が散り散りになった後のレスター街の入り口でプリスが見たものは、歩兵一個小隊、それを指揮する人物は、奇遇にもヴァンスベール・リンセルだった。

 ※

 命令に従いレスター街への突入を指揮するヴァンは、駆けつけて来たプリスに気付いていた。胸に痛みが走り、彼は必死に気づいていないふりをした。
「プリス、ごめん……」
 兵士たちは分隊ごとに通りに散り、戸惑い恐怖する商人たちに剣を振り上げた。商人たちは、陸軍の仕打ちが威嚇ではないことに気付き、応戦を余儀なくされた。だがどうしようもなく数が不利で、土地勘もなく、雇った人夫(にんぷ)たちには戦意などなかった。
 突入は隣りあう街区の西側と、中央南側から始まった。東側は事態にまだ気付いていない民衆が包囲を続けていた。中央北の通りには、星獣と、雇われの歌流民がいた。
 歌流民の女は長身長髪で、雰囲気からして三十代の半ばと思われた。(ひざまず)き、孔雀の星獣の首を抱き、戦闘にも殺戮にも関心を寄せず、星獣の耳に歌いかけていた。星獣が歌に(こた)えて扇状の尾羽を広げきると、ちょうど逃亡者たちの第一波が建物の間から現れた。
 彼らは尾羽(おばね)に描かれたの無数の目玉の一つと視線をあわせるや、背筋から硬直した。奇妙に体を仰け反らせ、前に彷徨い出ようとするが、すぐに足をもつれさせ倒れた。それでも首を上げたまま、動く模様の凝視をやめなかった。精神の溶融が始まった。口から泡を吹いて倒れる男たちは、次第に数を増やしていった。
 孔雀が道を歩き、女がついていった。陸軍の兵士は商人を襲い、彼らの略奪品を略奪していた。女の歌が倒れ臥す者たちの苦痛を嘲った。
 一人の老いた人夫がよろめきながら逃げ去った。彼は、辻の横手から近付いてくる孔雀の尾羽を見なかった。追われていて、それどころではなかったからである。人夫は両腕に抱えていた織物を投げ捨てたが、慈悲は得られなかった。
 つんのめって転ぶ人夫の姿を、街区に入り込んだプリスが狭い路地から見つけた。言葉もなく、思わず駆け寄り、飛び出した。そのときになって、初めて彼を追い回していた者の気配に気がついた。
 仲間であるはずの、陸軍の兵士。
 剣を両手で持ち、今にも人夫に突き立てんとし、頭上に振りかぶっていた。だが兵士は、飛び出して来たプリスが陸軍の士官であることにすぐに気がついた。
 目が合う。
 困惑と躊躇い――。
 兵士が倒れた。
 後ろから斬られたのだ。
「駄目!」
 プリスは叫んだが、何に対してかは、自分でもわからなかった。ただ、ほとんど意識せぬままに、倒れたままの弱き者に覆いかぶさり、庇おうとした。考えてやったわけではなかった。脇の下に手を入れられ、強引に引き離されたとき、私は何をしてたんだろう、と妙に冷静に考えた。
 そのまま街路を引きずられ、近くの家に連れ込まれた。視界が暗くなり、少しだけ物音が遠ざかる。誰かが入って来て、床に体を打ち付けたままのプリスの見ている前で、戸を閉めた。コバルトブルーの髪の若者。解放軍のアウィンだ。
「お前何やってたんだ?」
 見知らぬ青年に、プリスは返事ができなかった。事態を把握できかねたからだ。色々な意味で。
 だから、聞きたいこと全てをたった一言でまとめて聞いた。
「何が起きているの?」
「略奪の略奪の略奪、といったところね」
 真後ろから女の声。
「商人の略奪品を陸軍が略奪し、陸軍からは私たちが奪うの」
 膝を立てて座り込んだ姿勢のプリスは、振り向いてアイオラの姿を見た。そして、自分を家に引きずり込んだのが彼女であることを理解した。
 黙ると恐怖に支配されそうなので、尋ねた。
「あなたたちは何?」
「呪つ炉の都解放軍」アイオラは油断なく剣の柄に手を置いた。「反乱まではあなたの仲間。今は敵よ」


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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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