邪悪の手

文字数 4,613文字

 4.

 定時巡回と夜警の仕事を奪われ、自警団が暇になったかというとそうではない。団員たちは、どの部門であろうと関わりなく、自主的に街を出歩くようになった。
 カーラーンは有無を言わさず、市民に軍を養わせた。市の金庫と穀倉はカーラーンが編成した部隊に管理され、街には兵が溢れた。
 急激に増えた人口に対処できず、この三日というもの市場は早々に仕舞われて、商店は閉じた。入城門は閉ざされたきりとなった。見切りをつけた商人たちは、既に出場門から去っていた。
 黄昏。雪雲が、夕日を吸って灰と朱に染まる頃になっても、コブレンの第二城壁内の市街には人があふれていた。けれど賑わっているわけでなく、人は壁に寄りかかったり、座り込んだり、抑えた声で弾まぬ雑談をしていた。そうして、兵士を割り当てられた憂鬱な家に帰る時間を極力遅くしようとしているのだ。
 角という角に、歩哨が立っていた。それは市の中枢に近付くほど多くなる。
「嫌な感じだね」
 レンヌが話しかけてきたので、マナは周囲を見回すのをやめた。この十三歳の少女はオーサー一門の門弟で、ミスリルとトビィに頼まれてマナと行動を共にしているのだ。語彙と口調をうつさせるためだという。半月のあいだに、仕草や表情もうつってきたようにマナは自分で思っていた。レンヌに微笑みかけるが、まだぎこちない。口を開く。
「仕方ないよ」
 風が吹き付けて、レンヌの前髪を全て後ろに飛ばした。二人の上で、街灯に収まった天籃石が淡い光を宿した。街が暮れ始めている。レンヌの寂しげな微笑みで、自分が会話を終わらせてしまったことに気がついた。
「こういうことは、前にもあったの?」
「ううん、私が生まれてからはなかった。トビィ兄さんが言うにはね、五十年くらい前の戦争が一番ひどくて――」
 その声が急に跳ね上がった。
「いけない! トビィ兄さんに毛糸を買ってきてって言われてたんだった!」
 冬の衣料を(つくろ)うつもりだったのだろう。
「お店、もう閉まっちゃったかなあ」
「明日にしようよ」
 レンヌは首を振った。
「ううん。今日の夜か明日のお昼に使いたいって言ってたんだ」
「でも、帰らないと正門閉まっちゃう」
 カーラーン入城の日から、特に未成年の団員は門限を厳守するよう言い渡されているのだ。
 にもかかわらず、レンヌは重ねて首を振った。
「マナちゃん、ここから一人で帰れる?」
 ふと不穏な予感を覚えたが、マナは「うん」と頷いた。
「ごめんね。先に帰って、私が少し遅れるって当直の人に話してほしいの」
「それはいいけど……」
「ありがとう!」レンヌは顔を輝かせた。「できるだけ、すぐに戻るね」
 軽やかに駆けていくレンヌは足音をたてない。その点が、他の町娘たちとは決定的に違っていた。彼女が角を曲がると、その存在の余韻はすぐに風が吹き散らしてしまった。マナはしばし佇んでから、体の向きを変え、自警団本部のほうへ歩き始めた。
 果樹園の労働者が、道の真ん中を背中を丸めて通り過ぎていった。(から)になった荷車を、女が曵いて歩く。製粉所の下働きの少年からは、牛の臭いがした。家路を急ぐ人々の、いつもと変わらない夕暮れ。小さな鍛冶屋の戸口は無防備に開け放たれ、そこに()るものはなく、釜は冷え、奥からもの悲しげな旋律を奏でる木琴の音が聞こえてきた。城塞都市に対する兵糧攻めの歌。
 マナは彷徨うように歩き続け、木琴が聞こえなくなってから唇を開いた。木琴と同じ旋律が、詩を伴ってこぼれ落ちてきた。

『光ト音ヲ連レテ
 地平カラ ソノ日ガ来ル』

 何か涙を流すものが、天を覆うのを感じ、マナは顎を上げた。そこには何もなかった。だが天の悲しみの気配は消えず、路傍で足を止めて立ち尽くすマナの心を締め付けた。

『私ノ顎ハ 天ヲ仰ギ
 口角ハ上ガリ 頬ハ緩ミ』

 予感とは、このように、天からくる気配のことを言うのだろう。目を右に動かすと、窓辺で、美しい女が、陰気な顔をして俯いていた。

『サレド 黒イ 涙 流レ――』

 その女が憂鬱で満たされているのを感じ取り、マナは歌をやめる。
 予感が具現化したのはその直後だった。
「どうしてやめるのかね?」
 しゃがれた声にただならぬものを感じ取り、マナは体を震わせて、急いで声のするほうに顔を向けた。
 閉店した食堂のポーチに男が座り込んでいた。初老で、僅かに残った綿のような白髪が風に揺れ、今にもころころと飛んでいきそうだった。その笑顔は柔和で温厚で、そして邪悪だった。
 後ろにもう一人立っている。黒いマント。黒いフード。そこから見える顎には髭を剃った痕がある。
 歌流民だ。
 マナは舗道を蹴った。道の真ん中へ飛び出し、人の流れを遮って突っ切り、市民の驚きの声と悪態を残して走り去る。
 別の通りに出た。派出神殿があった。その教会堂の扉を細く開けて滑り込むと、ちょうど礼拝が行われていた。
 このような事態でなかったら、教会堂に足を踏み入れることはなかっただろう。南西領神官大将が(おわ)す守護神殿によって直接管理される、修道院系の教会だ。
 中は満席で、立ち見も多かった。列柱で仕切られた側廊にも、親子連れや、労働を終えてまだ体も洗っていない市民がぎっしり詰まっている。顔は呆けたようで、それでいて賛美歌には熱がある。家に帰らず、このまま群れていられるなら、彼らは不安に折り合いがつくまで喜んでそうするだろう。
 創造主を讃え、罪の赦しを願い、憐れみを請い、また讃え、そうしていながら彼らは教会の外の出来事を忘れようとする。けれど、外の出来事は、度し難い聖所冒涜のように礼拝所に入り込んでいた。
 無伴奏の賛美歌がやんでも、一人、歌い続ける男がいた。
 それは賛美歌ではない。
 はじめから、その人だけは自分の歌を歌っていた。

『肌ノ光ノ 奈辺ニアリヤ
 甘キ苦悩ノ 源ヨ』

 月を求むる歌を。
 一人、十人、二十人、三十人、視線の集まるところにその人はいた。黒いフードに黒いマントの、男性の歌流民が。そばには世話役の小柄な老人が寄り添うように立っていた。

『春ノ夜空ヲ 滑リ落チ
 ()ノ眼差シノ 今イズコ』

 神官が咳払いをする。
「どなたですか?」
 まだ若い、三十前後の男だった。彼は説教台に手をついて、会衆席に身を乗り出した。
「ここは創造主を讃える聖堂です。無軌道な振る舞いは涜神(とくしん)罪に値しますよ!」
「何故あなたはそのようなことを言うのです」歌流民は歌い続け、世話役が笑みを称えて応じた。「一番ここにいる資格のない罪人はあなたではないですか」
 神官は何か言おうとしたが、世話役は鋭い一言で遮った。
「あなたは妹を強姦した!」
 離れていても、説教台の神官の顔から血の気が引くのがわかった。
「あなたは男と寝て、山羊と寝た!」
「でたらめなことを!」
 ざわつき始める人々を押しのけて、マナは前へ、内陣のほうへと進んだ。世話役は声を張り上げた。
「そのせいで、あなたは勘当されて修道院に放り込まれた!」
 嘘っぱちだ! 会衆席の男が叫ぶ。どういうことなの! 女が叫ぶ。事実無根だ、違う、違うと神官が叫んでいる。彼は勇敢にも、司式者以外立ち入り禁止の内陣を降りて、自ら会衆席の騒動を収めようとし始めた。
 入れ替わりに、マナは内陣に駆け上がり、横手の狭い空間へと体を滑り込ませた。そこは香部屋(こうべや)で、神官服や種々の聖具が収められている。奥に戸があり、混迷を深める聖所を後に戸の向こうへと滑り込むと、そこは外に直接通じる石造りの物置で、暗く、遠くでアーチ型の出入り口が黄昏の光を切り取っていた。
 あれほどの騒動だ。すぐには追ってこないはず。そう思った。甘かった。鉱山の歴史博物館に差し掛かり、その玄関口まであと数歩のところでマナは凍りついた。
 どうしたことだろう。あのマントの歌流民が博物館の正面玄関(ファサード)を背に佇み、彼の後ろから、あの世話役がいたずら好きの子供のようにひょっこり顔をのぞかせた。黄ばんだ歯の、涜神者の邪悪な笑みを受け、マナは(きびす)を返し走り出す。
「行かないでくれぇ!」
 何か叫んでいた――群衆の同情を引き、彼の元へマナを引き戻すための言葉を。誰かが追ってきた気がする。それも錯角だろうか。教会堂のあるほうは、思いもしない騒動に発展していた。路地を抜けると、目の前を、南西領陸軍の軽鎧(けいがい)を纏った兵士たちが駆けていった。
 神官が殴られたわ。女が言った。侮辱されたの。それから赤毛の女の子が香部屋に入り込んだの。私、見たわ。泥棒よ。グルだったのよ。
 兵士が尋ねる。
 どんな女の子だ?
 マナは無視できなかった。通りの真ん中で足を止め、会話が行われるほうを見た。太った女と目があった。わずか二十歩ばかりの距離を挟んで女はマナに指を突きつけた。彼女の後ろでは、黄昏の雲は土気色に色褪せて、いよいよ避け難くも憂鬱な夜の到来を告げ知らせていた。
「あの女の子よ!」
 弾かれたように振り向く兵士、その視線に押されるように、マナはよろめき後ずさり、後ろを向いて走り出した。
 マナは自警団員たちとは違う。彼らほど街を知悉(ちしつ)していない。だが兵士たちよりは詳しい。路地に飛び込む。大人一人通るのがやっとの長い下り坂で、進めば左手にアーチの門。その奥は常緑樹のトンネルで、昼でも暗いその道は、今は一足先に夜となっていた。
 手探りで進む。その先の赤煉瓦は、岩塩の精製所の塀。
 塀に取り付けられた木戸を手探りする。
 不意に、手首に生温かいものが触れた。それが強くマナの手首を握りしめた。
 息を詰めるのと、そのまま手首を捻り上げられるのが同時。
 マナは声をあげて、居場所を知らせてしまった。
「痛い!」
 黒いマントで暗がりと同化しながら、塀に沿って、男はマナを暗がりに連れ込もうとする。歌うときにしか声を上げず、物音も立てない歌流民が、どのような秘技でマナを見分けたのか――マナが、ただの人ではないと見分けたのか。
 マナにはわからない。
 ただ引きずられる。
 腰を落とし、膝と足首に力を込めて踏ん張るも、靴底が舗道とこすれあうだけだった。そのじゃりじゃりした感触が、足の裏に伝わってきた。
 連れていかれたら――どこに――マナは考える。月環同盟軍の――考える。しらを切る方法を。
 どうしたら自警団を巻き込まずに済むの。
 腰を落としたまま、肩を後ろに引く。掴まれていない左手が塀を探った。抵抗のとっかかりになるものは何もなく、煉瓦の目地を撫でるに終わった。歌流民の男がなお強く手を引く。
 関節が外れそうになる。
「やめて!」
 力が抜け、一気に前方へ引き寄せられた。膝が砕けて前のめりに倒れこむ。
 その勢いで顔を上げ、見た。
 左側の高い塀。右側の常緑樹の茂み。それを透かして僅かに届く、鋳鉄(ちゅうてつ)色の雲の光。
 見上げる相手の、フードに覆い隠されていない口。それを、誰かの掌が塞いだ。マナは目を見開く。声を上げることはできなかった。マナも、歌流民の男も。
 男の口を封じる手の主が、反対の手で相手の首にダガーを刺したからだった。

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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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