飛翔

文字数 4,854文字

 ※

 倒れ伏し、血を流し続ける男をマナは見つめた。首に開いた穴から吹き出す血は、彼のマントの襟元をいっぱいにしてから地面に漏れ、脈打つようなリズムで半円に広がり始めた。それが(ひざまず)くマナの揃えた両膝に迫るので、腰と爪先を動かして後ずさった。
 男の後ろに立ち、首に穴を開けたのはミスリルだった。マナが顔を上げると、さすがにまずいと思ったのか、一言呟く。
「やっちまった」
 暗くて表情はわからないが、愉快な顔はしておるまい。とにかく彼は死体をまたいでマナの前に来た。
「立てるか」
 手が差し伸べられる。マナは頷き、手を借りながら立ち上がった。
「どうするの」
「どうもこうも。誰にでもわかるさ。暗殺者(プロ)の犯行だってな」
「偽装できない?」
 人間の脳、少女の脳で、それは自然に思いついた。ミスリルの返事はこうだった。
「時間の無駄だ」
 ミスリルはダガーをしまい、右手を服で軽く(ぬぐ)うとマナの手を取った。乱暴ではなく、けれどしっかり手を握りしめて、彼は知り尽くした都市を駆ける。
「どうして私の場所がわかったの」
 定時巡回をやめたのが、今はむしろ幸運だった。街をうろつくにあたり、彼は目立つ自警団のマントを身につけていなかった。ミスリルは煉瓦の塀に沿って走りながら、押し殺した声で教えた。
「レンヌに会った。それから歌流民が関わったらしい派出神殿の騒動だ。でもってこの通路は俺がこないだ教えたばかり。簡単だろ?」
 簡単ではなかったはずだ。騒動に気付いたときの彼の心境を思えば。
「ミスリル」マナの手を引く力にも、彼女を転ばせないようにという気遣いがある。初めて胸が痛んだ。「ごめんなさい」
「後にしな。まだ世話役が近くにいる」
 前方、ミスリルの背の向こうに明かりを感じた。通路の出口だ。塀と常緑樹の途切れるところに人影が躍り出て、手を上げ、ミスリルにサインを送った。
 ミスリルと、アエリエと、テスと。四人でトレブ高地を旅した日々。満天の星の下で、ミスリルが教えてくれたこと。
『今なら敵はいない』のサインだ。
 人影は女で、長髪を高く結い上げている。
 アエリエだった。
 彼女はマナを見、無事だけ確かめた。余計なことは言わなかった。
「こっちよ」
 再び路地に飛び出した。太陽はまだ、西の山並みに沈みきっておらず、ちょうど雲の薄くなっているところに、狙いすましたように光を射かけていた。精製所の壁に沿って曲がる。通りの騒動に少しだけ近くなった。どうしてだか、騒ぎは大きくなっている。火事場泥棒が仕事を始めたのだろう。
 若い男の哄笑。
「終わりだよ! この街は終わりなんだ! 焼かれて終わりだ。ハハッ! ざまあみろ!」
 それを聞きながら、アエリエが飛び上がる。塀が崩れ、低くなった箇所があった。そこに手をかけ、塀を蹴って軽やかに上る。
 兵士がうんざりした声を張り上げていた。
「家に戻れー。用のない市民は家に戻るように。おい! 邪魔だ!」
 ミスリルがアエリエに続く。
 女が半狂乱になっていた。
「ねえ! お金を落としたの。お願い、一緒に探して。明日のパン種のお金なのよ!」
 ミスリルが、路上に残るマナへと手を差し伸べてきた。塀の上は狭く、人を引っ張り上げたりしたら、ミスリルが反動で向こう側に落ちてしまうのではないかとマナは躊躇った。だが、苛立つように手を振るミスリルを見て、結局その手を掴んだ。
 ミスリルは塀から落ちたりしなかった。途中からアエリエも協力し、マナが膝と爪先で塀を蹴りながらよじ登るのを助けた。ミスリルに右手を、アエリエに左手を握られる形で塀に上ったときだった。
 路地に、世話役の老人が現れた。
 塀の上の三人に気付くことなく、何かを探しながら、眼下を悠然と歩いている。
「あの人」ミスリルに囁くマナの声は、思いがけず上ずっていた。「あの人が世話役だよ。私のことに気付いてる」
 塀の上に屈み、張り詰めた横顔を見せてミスリルは頷いた。赤茶の瞳が空の残光を反射していた。手で言う。
『先に行け』
 彼が何をするつもりなのか、マナにはわかっていた。アエリエに導かれて精製所のスレート屋根に乗り移る。幸いにも、その斜面をよじ登るのに精一杯で、マナは二度目の殺人を見ずに済んだ。
 マナとアエリエが三角屋根の真上に消えてから、ミスリルは眼下に注意を向けた。ダガーを握りしめ、老人が自分の真下に来たとき、飛び降りた。痩せた体にのしかかり、口を塞ぐ。突き倒して老体をクッションにしたときにはもう、ダガーは老人の首筋に沈んでいた。
「ミスリルさん?」
 驚きに彩られた声。
 少女の眼差しが、死体のそばで膝立ちになるミスリルに注がれていた。
 レンヌだった。
 何の言い訳ができよう。ミスリルは老人の首からダガーを抜く。立ち上がり、振り切るように仲間に背を向けた。
「待って!」
 その叫びを残し、塀に上った。屋根の縁に手をかけてマナとアエリを追う。二人は倉庫街の井戸端にいた。夜警に際しての非常時の集合場所だった。
 ミスリルは木陰の井戸に飛び降りた。アエリエに一言、「レンヌに見られた」
 押し殺した声で告げるや、影を縫って走り出す。
 都市を隔てる第二城壁の方向へ。
「どうするつもりなの」
 建物の陰に背を貼り付けて立ち止まり、周囲を警戒するミスリルに、アエリエは追いついて尋ねた。
「もうコブレンにはいられない」
 アエリエは呼気を消していた。冷静に受け入れてくれているようだった。
「どういう手段か知らないけど、あいつらにはわかるんだ。探してる『月』の居場所がわかる。なんであいつらが殺されたか同盟軍には必ずわかるし、すぐに次の歌流民を入れてくるし」
「言わないで」静かだが、有無を言わせぬ声でアエリエが遮った。「言わなくてもわかるわ。だから」
「アエリエ」
 目玉を動かして、傍らのアエリエを直視した。妹分。浮浪児のアエリエがコブレン自警団に保護されてきたとき、ミスリルは八歳だった。それからずっと守ってきた。あまりに弱々しく見えたから、彼女のためにできることは何でもしてやりたかった。
 なのに今、アエリエに守られたいと、ミスリルは願っていた。
 アエリエの白い肌に、自分の視線を焼き付けていく。口を開いたとき、自分でも思わぬことに、声は震えていた。
「一緒に来てくれ」
 手持ちの金はない。衣服は今マントの下に身につけているものが全て。食料もない。アエリエは自分の武器を持っていない。自警団の標準装備品のダガーと投石紐(スリング)がせいぜいだ。
 物を取りに戻ることはできない。
 頷けば、今すぐに、冬迫る城壁の外に出ていかなければならない。
 だが、アエリエはミスリルを許した。
「行くわ」
 安堵とつらい気持ちとが、同時に来た。アエリエの後ろからはマナが身を乗り出して見上げている。その視線を受け止めた。
「お前のせいじゃない――」
 顔を、通りへと向けた。
「行こう」
「どうするの」
「果樹園横の間道(かんどう)。あそこなら鍵が開いてる!」
 光の残る大通りを横切った。もう騒動は聞こえない。死体は見つかっただろうか。走る。右手に果樹園の高い柵。葉を落とした梨の低木が、黒い影になって絡みあっている。前方に葡萄棚が見えてきた。
 右手の会議所の壁に沿って角を曲がり、目的地にたどり着く。
 狭い路地。
 暗殺者たちが使う入り組んだ迷路の間道に通じる扉の前。
 そこにトビィが待ち構えていた。
 巡回の自粛を求められていたにもかかわらず、自警団の黒いマントを羽織っている。左の脇に長い柄を挟み、先端に槍の穂と月牙をつけて足に向けていた。足許には赤目が控え、いつになく張り詰めた空気に神経を尖らせている。
 ミスリルも、アエリエも、動かなかった。トビィが真顔で、二人が何を決意したか、すでに悟ったふうでいるからだった。
「逃げるんだね」
 低い声で確かめられ、ミスリルはアエリエとマナの前に立ちはだかった。気配を探る。ミスリルの右手はわずかに浮き、止まった。
「迷うんだ」すっ、とトビィが足を前に出す。「その手は武器を抜こうとしたんだよね?」
 そして、驚いたことに微笑んだ。
 トビィは自ら狭い道の隅に寄り、槍の穂で路地の奥を指した。黒光りする柵状の扉が、地下間道への通路を塞いでいた。
 空気が軽くなる。
「行きなよ」
 と、優しい声が言った。戸惑い、警戒し、ミスリルは動かない。
「どうしたの? 逃げるなら早くしなきゃ」
「お前――」
 マナの手を引くアエリエが、ミスリルを押しのけて前に出た。
「どうしてなの、トビィ?」
「今が最善のタイミングだと思うから。その子を外に逃がすのに」
「俺たちは自警団を裏切るんだ。お前、俺たちを追いかけろって命令されることになるぞ」
「まだ命令されてないよ」
「そうだけどさ……」
「行って」と、もう一度柄を動かして扉を指した。「ミスリル、その子は本当に君にそっくりだね」
「娘だからな」
「後になったら、自警団は君からその子を奪う決断をするかもしれない」
「トビィ、お前はそれでいいのか? 本当に?」
「早く。アズが来ちゃう」優しい口調と裏腹に、目は笑っていなかった。「俺がしてることを見られたくないよ。兄弟喧嘩は楽しくないからね」
 今度もまた、アエリエが先に動いた。間道の扉に駆け寄って、閂を外す。
「トビィ……ありがとう」
「やめときなよ。後で地の果てまで追いかけ回すことになるかもしれないからね」
 いつもの減らず口。
 これを聞くのも最後かもしれない。
 または、最悪のタイミングでまた聞くことになるかもしれない。
 ミスリルにはわからない。この先待ち受けるものが何か。
 何も言わなかった。後ずさってトビィから離れ、そのまま間道に入り込むと、扉を閉めた。トビィの姿が柵の向こうに閉ざされた。アエリエが闇の中から促す。
「ミスリル」
 ついぞトビィに背を晒し、ミスリルは足音の一つも立てずに駆け去っていった。その後で、トビィは音もなく扉に歩み寄ると、長い指で閂をかけた。
 間道は複雑に入り組み、深部には迷い込んだ暗殺者、暗殺された暗殺者、その残骸が転がり、ネズミがたかっている。アエリエが持っていた天籃石の裸石一つで、外に通じる遠回りの道を進んだ。最短の道は不衛生で、マナには危険が多すぎたからだ。
 地下道は秘密の扉で坑道に連絡される。遠い昔、コブレンで攻城戦が行われた際に、攻囲軍が掘った坑道。それはとうに埋め立てられたのだが、埋め立て業者をコブレンの殺し屋たちが買収し、別の道を掘らせたのだ。
 数百年前の技術で補強されているとはいえ、這って進まなければならない箇所もあり、石や錆びた刃物の残る通路は安全ではない。
 そのうち、壁をシダが覆うようになった。つまり昼には外の光が届く場所まで来たということだ。
 伸ばした腕が外気に触れた。ミスリルは一気に通路の外に這い出た。その後にマナが、最後にアエリエが出てきた。
 大きな岩の陰にある通路は、知らない人間には自然の洞窟にしか見えないだろう。岩の後ろからよろめき出て、三人は山の中で息を切らし座り込んだ。
 葉を落とした木々の向こうに雪雲が明るかった。三人は打ちひしがれたように黙り込んでいたが、やがて、最初にミスリルが立ち上がった。
「行くぞ」
 その低い声に、熱い力を感じ取り、アエリエは顔を上げる。
「どうするつもりなの?」
「まず山を下りよう。お前の武器を買って、マナの替えの服も必要だし、それと食料も」
「それから?」
「あのふざけた二人組を」
 アエリエが立ち上がると、ミスリルは顔を空に向けた。厚くかかる雲。その向こう、きっと月のあるほうへ声を飛ばした。
「リレーネとリージェスとやらを見つけ出す!」


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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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