超人なれど人であり

文字数 4,682文字

 3.

 シルヴェリア・ダーシェルナキにまつわる人物として、彼女を盲目的に愛する弟カーラーン、嫌う妹エーリカの他に、忘れてはならない人がいる。
「『歩く殺戮装置』と呼ばれているのはそなたか」
 マグダリス・ヨリス少佐である。
 彼は二十九歳で佐官昇任試験に合格し、半年後に職業兵士ばかりを集めた精鋭歩兵部隊、高難度の軍事作戦に投入される強攻大隊の指揮官に任命された。
 以来、数々の武勲にも関わらず昇進していない。
 いろいろな理由で誰もヨリスを強攻大隊隊長の椅子から動かしたくないからである。
「左様でございます」
 シルヴェリアの前に片膝をつくヨリスは、余計な言葉を何一つ付け加えることなく事実だけを答えた。そのように噂されていることを知っていたからだ。シルヴェリアのほうは、当時十八歳。買官(ばいかん)によって少将の位を得、一個師団に反感と共に受け入れられたばかり。
 そして、(ひざまず)かせた部下のヨリスに剣を向け、刃をその肩に置いていた。水色がかった銀髪は丹念に編み上げ、金の髪飾りを差していた。
「ヨリス少佐。そなたの武勲は既に生きた伝説となり、何が嘘で何が事実か私にもわからぬほど。新任少尉時代、わずか十一人を率いて敵地の城壁で中隊規模の包囲を突破したと聞くが事実か?」
「事実でございます」
 シルヴェリアはニヤリとした。飾らない受け答えかたと漆黒の目が気に入ったのである。
「立て続けに十六人に決闘を挑まれ、一人で無傷で切り抜けたというのは事実か?」
「はい」
「槍を持った神官兵五人に取り囲まれ、ナイフ一本で皆殺しにしたというのも事実か?」
「いいえ」
 おや? という顔をするシルヴェリアに答える。
「六人でございました」
 この会話はシルヴェリアの就任式が行われた直後のパーティーの席でのこと。わざわざ呼び出し、跪かせたヨリスの首にシルヴェリアは官給品のサーベルをあてがった。
 軍服の詰襟を避け、首の露出する場所に刃を当てる。
 あとわずかに力を込めれば、血が流れる。
「そなたほどの手練(てだ)れであれば、この状況からでも私の首を飛ばせるのであろうな」
 パーティーには師団の全ての士官が出席していたが、全員が固唾(かたず)をのんで見守っていた。誰もが食事をやめ、広間は水を打ったように静まり返っていた。その空気を凍りつかせたのはヨリスの返事だった。
「お命じとあらば、すぐに」
 ヨリスの直属の上官の連隊長は、顔面蒼白になってワイングラスを落とした。
「……面白い」
 シルヴェリアのサーベルが動いた。もちろん部下の首を斬ったのではない。鞘に納めたのである。
「戦場にあるときは、そなたは私に命を預けよ。そうでないときには、私がそなたに命を預ける」
 これが、第一公女シルヴェリア・ダーシェルナキとマグダリス・ヨリス少佐の邂逅であった。
 シルヴェリアの師団長就任一年目、領内の小さな村で異端の武装勢力が一つの村を占拠する事件が起きた。強攻大隊が出動し、たちまち制圧すると、ヨリスは敵を一人を残して皆殺しにし、残った一人に指揮官の首を彼らの本拠地まで持ち帰らせた。
 当時ヨリスは三十三歳。
「ああ、この人は、うん」人事部隊の担当者はその所業に困惑を覚え、「今年の昇進はちょっと見送ろう」
 シルヴェリア就任二年目。その年は比較的平和でヨリスが悪目立ちする機会もなかったため、一年彼の人間性を……良いところも悪いところも……見ていた人事担当者も、そろそろ態度を軟化させようかと考えていた。その矢先、強攻大隊所属の士官が女性をめぐるいざこざで他の部隊の兵士を殴るという事件が起きた。
「リッカード中尉」
 叱責処分が下った部下を、ヨリスはこう叱責したらしい。
「人に暴力を振るっていいときは殺すときだけだ。よく覚えておけ」
「うん」人事はこう判断した。「この人はもう一年様子を見よう」

「今年も昇進しなかった……」
 カーテン越しに朝日が降り注ぐ寝室で、ダブルベッドに仰向けに横たわり、ヨリスはしみじみ呟いた。実はナイーブなのである。同じベッドには別姓の妻ユヴェンサ・チェルナー上級大尉がいて、枕に頭を乗せたまま顔にかかる髪を掻き上げると、同情を込めずにこう言った。
「あなたまだ気にしてたの?」
「気にしないわけにはいかないだろう。もう俺一人の問題じゃない」
「強攻大隊の隊長がハマり役すぎるのよ。私はいいことだと思う。誰にでも務まるものじゃないし……」
 口で言っても心に届かないことを察し、ユヴェンサは一度言葉を切り上げた。
「……それに急いで出世しなくたってお金のことなら心配ないし」新婚の二人はこれから家を買うつもりでいた。「昇進が遅いなんてことも全然ない。むしろ少佐に上がるのが早かったんだから」
 ヨリスは返事をせずに起床した。師団司令部に出勤すると、朝一番でシルヴェリアから呼び出しを受けた。曰く、総督シグレイ・ダーシェルナキが、南西領総督家の親衛隊を組織する。自分は師団長の座を下りるが、ヨリスを引き抜き、新設部隊の立ち上げに協力してほしいと、シルヴェリアは願った。
「そなたは私生活の面での変化も大きく、負担も相当のものとなるであろうが、部隊の立ち上げが成功したのちには人事部隊に働きかけ、そなたを親衛隊の一個連隊の隊長に、官位もその座に相応(ふさわ)しいものとなるように計らいたいと思うのじゃが」
「まことでございますか」
 シルヴェリアはヨリスが気に入っていた。意外と人間らしいところが気に入っていた。しかもこの男には、外見や立ち居振る舞いの印象からは想像もつかない欠点があった。
 字が壊滅的に汚いのだ。

 ※

「シルヴェリア殿下から拝領したリストの内、既に一人は死亡が確認できてるの」
『創世潰し』を始める直前、リアンセは草原にくつろいで座り、焚き火を挟んでミスリルに話した。ミスリルは雑草を適当にちぎって焚き火に投じる。
「へえ」
「殺されたのはダリル・キャトリン少佐。都での蜂起の夜にどさくさにまぎれて殺されたわ。元総督夫人パンネラ・ダーシェルナキとの接触がある人物だから、最後のほうまで残しておきたかったのだけど……」
「誰が殺したんだ?」
「マグダリス・ヨリス少佐。キャトリン少佐の同期で腐れ縁の間柄」
「そのヨリス少佐っていうのはどういう奴なんだ?」
「歩く殺戮装置」
「は?」
「歩く殺戮装置」
 焚き火がはぜる。
 ミスリルが真剣に聞く姿勢になったので、リアンセは胡座(あぐら)を組み直した。
「蜂起の夜、グロリアナ地方で蔓延する薬物の調査を請け負っていたヨリス少佐は、リジェク神官団の協力者にキャトリン少佐が含まれていることを既に知っていた。
 陸軍宿舎が包囲され、総督公邸を含む都の中心地が炎上する中彼はキャトリン少佐にちょっと事情を聞きに行こうと思い立ち」
「暇人かよ」
「キャトリン少佐の百人の兵士をたった一人で斬り伏せて警護を突破し、その勢いで少佐を殺害」
「おい、待て」
「事実よ」
「そんなことできるわけないだろ、ふざけるな」
 リアンセは目の力だけで、本気で言っていることを知らしめた。ミスリルは口をつぐむ。
「……まあ、少しは誇張かもしれないけど。とにかくヨリス少佐はダリル・キャトリン殺しの件で陸軍に追われることになった」
 ヨリスにならできる。なにしろ彼はシルヴェリアのお気に入り。もちろん、人間離れしているところが最も気に入られているのだから。
「ミスリル、あなたは一度ヨリス少佐に会っているの」
 ミスリルの目に驚きが走る。
「いつ?」
「はじめて私と会った日のことを覚えてる?」

 ※

 ミナルタ港にほど近い商館で、ヨリスはサーベルを研ぎながら、雨が小降りになるのを待っていた。
 誰かが目の前に立った。
 先ほどわざと本を落とした赤毛の男ではない。四人いる、と、目を上げなくてもわかった。
 先頭の男がしゃがみ込み、ヨリスの耳に囁いた。
「ミナルタで何をするつもりだ?」
 剣を研ぐ手を止めずにヨリスはあしらった。
「人探しなら他をあたれ」
「その必要はない。俺たちはあんたを探してたんだ。マグダリス・ヨリス少佐だな」
「そうだといいな」
 実にさりげなくユヴェンサが近寄ってきた。ずっと窓辺にいたのである。
「ねえ、待ってても雨やまないわよ。宿に向かいましょう」
 ヨリスの二の腕に手を触れて、立つように促した。
「待て」
 トリエスタの民兵は焦っているようだった。異様な空気を察し、待ち合いに沈黙が広がりつつあったからだ。彼らとて目立ちたくはない。
「人違いよ、あなたたち」
「製塩所を調べに来たんだろう」
 三ヶ月後に破壊されるミナルタ製塩所である。
 さすがにヨリスも目を上げて、トリエスタ市の紋章が刻まれたダガーを持つ男と視線を合わせた。
「それがトリエスタ市民の君たちとなんの関係がある」
「俺たちとあんた方が探ってるのは多分同じものだ。俺たちの仲間はコブレンで殺された。それに――」
「待って。黙って。お願い。聞きたくないわ。行きましょう」
「頼むから。話を聞くのはあんたでもいい」
 民兵がユヴェンサの手首を掴む。
 夫の一重瞼の細長い目がさらに細くなり、比例して眼光が鋭くなるのを受けて、ユヴェンサは緊張しながら諭した。
「ギィ、やめてちょうだい」それから、「あなたたち、お願いだからこの人を怒らせないで」
「お願いだから聞いてくれよ。わかるだろ。これは都だけの問題じゃない。グロリアナやトリエスタだけの――」
「黙れ」
 ヨリスには口を割るつもりなどなかった。
「私の妻に指一本触れるな」
「リタ」同じ待合室の一隅(いちぐう)で、ミスリルは男たちから目をそらさずにリアンセに呼びかけた。「俺から離れるな」
 その後の出来事はミスリルも知っている通り。
 ヨリスは妻と去り、トリエスタの民兵たちも去った。そしてミスリルとリアンセはタルジェン島に渡り、『月』はマナになったのである。

 ※

「で、そのクールで人間離れした三つ編み三十代は」ミスリルとリアンセは肩を落として深夜のフクシャの霊廟を歩いていた。「(いま)だ中立のミナルタであの日何をしていたんだ?」
「知らないわよ」
 二人はオドンナ・リューの死体のところに戻ってきた。
「私にわかるのは、もうミナルタは中立じゃないってことだけ。シオネビュラとの同盟を公表するタイミングを窺っているのよ……」
 言葉尻がすぼむ。と思いきや、彼女は壁にもたれかかって死んでいるオドンナのもとへといきなり走り寄り、胸を貫く矢に手を添えてミスリルを振り向いた。
矢文(やぶみ)だわ!」
 ヨリスを探して駆けずり回る必要はなかったのだ。
「なんだよ」
 悪態をつくミスリルを捨て置いて、リアンセはもどかしげに(ふみ)をほどいた。音を立てて開き、立ち上がりながら紙面に目を走らせて。
 ただただ訝しげな顔をする。
「どうしたんだよ?」
 リアンセは沈黙し、首を横に振ると文をミスリルに差し出した。それを手にしたミスリルもリアンセと同じ顔をし、
「暗号か?」
「『君たち』とか『共有』だけ読めるから違うと思うけど」
 ミスリルはしばらく努力して文を睨みつけていた。
 だが、やがて丸めて振りかぶると、
「読める字で書け、カス!」
 ここ数日の鬱憤(うっぷん)を込めて鋪道に叩きつけた。


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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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