借りは死んだら返せない

文字数 5,099文字

 1.

 ルナリアユキオウムだ、と、テスは考えた。
「武力供出を渋ったところで、ミナルタが参戦しないわけにはいかない」
 捕囚運搬用の星獣の鞍で、リージェスがリレーネに解説していた。ソレリア民兵団から奪った星獣の、柵に囲われた鞍である。
「戦争が始まるまではミナルタも月環同盟加盟都市だった」
「今も?」
「もちろん。もしシオネビュラを筆頭とする同盟諸都市がミナルタ抜きで都を奪還すれば、それらの都市は戦勝後にミナルタを解体する力を持つことになる」
「では、敗北した場合には?」
「団結した同盟諸都市に、参戦を拒んだ非難の矛先を向けられて孤立する」
「その場合、日輪連盟はミナルタを救援したりは?」
「するわけない。肝心なときに何もしない奴は足を引っ張るからな。個人でも集団でもそれは同じだ。だからつまり」
 頬に一瞬リージェスの視線が刺さった。リージェスの苛立ちがテスには手に取るようにわかる。
『さっきからコイツは何をしているんだ?』
 テスは淡い陽光に一枚の羽根をかざしてためつすがめつしていた。コブレンを()つ直前に、トビィがくれた羽根だった。
「……つまり、今シオネビュラがミナルタに何の制裁も科していない時点で、シオネビュラと非公式の協定を結んでいると考えたほうがいい」
 ルナリアユキオウムは純白で美しい大型のオウムだが、両翼を広げたら、緑から紫そしてオレンジへと変化する構造色が現れる。テスの手にある風切羽根は、その複雑なきらめきで、テスと、時折視線をくれるリレーネの目を撫でていた。
 この鳥は南西領ルナリア山塊を(ねぐら)とし、人や他の動物の声はもちろん、あらゆる物音を真似て発声するほか、地球人統治時代の古い歌を幾世代もの間歌い継いでいることでも知られている。
「気を付けろ」
 太陽に雲がかかり、風切羽根の色彩が(かげ)った。
「旧市街に入る」
 テスは羽根を見るのをやめて、目の前の殺伐とした現実世界を見た。
 広い鞍を囲む柵の上には(トビ)の昼星がとまっていた。鉤形の嘴をゴミの山に向けて、何ものも見落とすまいと気を張り詰めている。
 曇り始めた空の下には異臭が漂い、細い道の両側には、家より高く積まれたゴミが山脈をなしていた。
 よくわからないゴミ……それは黒く黴びた木材、再利用不能なまでに腐食した鉄、漆喰の破片、そして旧市街から運び出された古い時代の材質による瓦礫。今の文明力では加工できず従って打ち捨てるしかなかった(いにしえ)の金属材料。砂礫と化したガラスそしてガラス片が突き出る麻袋。百年前の生ゴミ。臼。飽きられた美術品。彫刻家が投げ捨てた失敗作。このどこかに死体が隠されていることも、テスとリージェスの鼻は敏感に察知していた。
 曲がり角に差し掛かり、リレーネが歌で方向を指示する。
 星獣の揺れが次第に収束し、ほとんど感じられなくなった頃、突如として左右のゴミ山が消え、視界が開けた。
 (そび)え立つのは朽ちたる摩天楼。
 地球人の遺物。
 遥か過去の高層建築群が林立するミナルタ旧市街に、一羽と三人は、既に入り込んでいた。

 ※

 一般にミナルタ市と呼ばれるのは、地球人が去りしのちに建造された新市街のほうである。旧市街は地球人統治時代の最後の戦争で荒廃し、遠目には天にも届く偉容(いよう)と見えた高層建築群も、近寄れば、千年前に大地を侵した強酸の雨の痕跡を痛々しく見せつけていた。
 ゴミ山は、消えたわけではなかった。平坦になっただけだ。ゴミの間の一筋の道を星獣が進む。リレーネに代わり、リージェスが歌い始めた。
「テスさん」皮袋の水で喉を潤し、リレーネが呼びかける。「あなたの鳶は、いつも何かを見張っていてくださるのですね」
 テスの返事は短い。「ああ」
 制御の歌を続けながら、リージェスは面白くない気持ちで聞いていた。リージェスはテスが嫌いだった。話が噛み合わず、ぼんやりし、それでいて抜け目なく、何を考えているのかわからない。孤立無援の状態でなければ、協力しあいたいと思える相手ではなかった。それに、コブレンを追い出される前日、リレーネが見ている前で背後から組み敷かれたのを(いま)だに根に持っていた。
「あの鳶は何というお名前ですの?」
昼星(ひるぼし)
「変わったお名前ですわね。どのような意味かしら」
 一方のリレーネは、不気味なほどよそよそしいテスと打ち解ける努力をずっと続けていた。テスはニコリともせずに、やはり短く答えた。
「『見えなくてもずっといる』」
 星獣が(かし)ぐ。一瞬だけ、リージェスは歌を中断した。三人は……さしものテスも、柵から頭を出して地面の様子を確かめた。
 曇天に覆われ、影が消えた地面。そこは大地ではなかった。
 いきなり空中が見えて、リージェスは太腿の裏がぞくりとするのを感じた。
 ずっと地面だと思っていた場所は、骨組みの(あら)わな橋の上だった。長年の雨と大量のゴミの重さにやっと(こら)えているだけの、(いた)んだ橋。
 二の腕から手首までを鳥肌が覆い、リージェスは奈落から目を逸らした。

 ミナルタ旧市街で星獣を売却しようと提案したのはテスだった。
『セレテス子爵は俺たちを探し回るはずだ。ソレリア民兵団の星獣を持っていたら目立ちすぎる』
『どう処分しろって言うんだ?』
『ミナルタ旧市街に巨大な裏取引市場(しじょう)がある』
 疑惑を込めてリージェスはテスを見つめた。テスは一切リージェスと目を合わせず、砂に鳥の絵を描きながら続けた。
『コブレン自警団とは不可侵協定を結んでいた。だから実際どういう場所かはわからない』
『売れる保証があるのか?』
 つい意地悪な口調になる。それを察知して、リレーネが口を開いた。
『行きましょう、リージェスさん。私たちはこれまでだって保証のない旅を続けてきましたわ』
 それは全くその通り。

「堂堂としていてくれ」
 結果、リージェスは頼りない橋の上で歌だけに意識を集中し、リレーネは怯えて柵にしがみつき、テスだけが普段と変わらぬぼんやりした様子で、のんびりと鳥笛に油を塗り始めた。
 星獣が右後ろ足を滑らせた。床が右後ろへと大きく傾いた。星獣は残り三本の脚でかろうじて体勢を支えた。
「厄介ゆえに手放したがってると思われたくない。足許(あしもと)を見られることになる」
 踏み外した右後ろ足を引き上げて、星獣は再び歩き出す。
 ある程度なら、星獣は自分で足の置き場を判断できるはずだ。
 足許なんか死んでも見るな、とリージェスは強く己を戒めた。

 ※

 やっと、広い地面にたどり着いた。周囲を取り巻くゴミも、ゴミの山脈の裾野(すその)の森程度となっていた。そこを抜けたら、次はゴミと見分けがつかないような打ち捨てられた小屋が並ぶ通り。前世紀の貧民街で、人の気配はない。道を直進すること数分。香辛料の匂いや、肉を焼く匂いが風に乗って漂ってきた。
 リージェスは歌を中断する。すぐにリレーネが歌を引き継ぐ。柵に顔を寄せたリージェスの目に、往来を行く人々の姿が見えた。高すぎる建物群がなければごく普通の都市に見えた。かつて破壊と荒廃が通り過ぎ、忌まわしき地として後代の為政者に見捨てられようとも、ミナルタ旧市街は今も敢えて選んで住む人がいる現役の街だった。
 鋭く呼び子が吹き鳴らされ、星獣の背に座す三人の耳を刺した。
「止まれ」
 活気のある通りに分け入る手前で、灰色の髪の中年男が星獣の前に飛び出してきた。日焼けした茶色い顔はしかめ面。深い皺に縁取られた灰色の目はいかにも神経質そうだ。
 歌が()む。
「下りろ」
 リレーネの凝視をリージェスは頬に感じる。リージェスはテスの様子を横目で伺った。テスは道の先を見ていた。家畜を商う男が百羽ものガチョウを引き連れて道を横断していった。ガチョウの川が流れ、昼星が興奮して鳴く。ピーヒョロロロロロロ!
 ガチョウたちは一斉にガァガァと騒ぎ始めた。
 リレーネが短い旋律を口ずさみ、星獣が膝を折る。
「何をしにきた」
 柵から縄梯子を垂らし、リージェスは男の前に降り立った。
「星獣を売りに来たんだ」
「歌集を見せろ」
「歌集?」
 操縦の譜面を集めたものだろう。リージェスも顔をしかめた。
「持ってない」
 テスが助け舟を出す気配はない。どのような盗品でも売れると言ったのはテスなのだが。
「だったら正規品じゃないな。取引はできん。帰れ」男は右手を振って追い払う仕草をした。「街に連れ込むのも許さん」
「歌集はなくしただけだ」
「関係ない。歌集がなきゃ扱えん」
 男の肩越しに、道ゆく人がリージェスたちへと無遠慮な視線を注ぐ。
「コブレンの戦い以来星獣の取引には慎重になってるんだ。悪く思うな」
「コブレン?」ここでようやくテスが柵から身を乗り出して、口を挟んだ。「コブレンで何があったんだ?」
 テスに対するリージェスの苛立ちは、今や最高潮を迎えていた。どうしてお前はそんなにバカ正直なんだ。
 リージェスたちはずっと森を旅してきた。コブレンで起きたことなど知らない。だが男の目は、なぜ知らない、と厳しく問いかけてくる。
「わかった」焦りを見せないように気をつけながら、リージェスは頷いた。「引き返そう」
 男は追及してこなかった。リージェスが縄梯子を上るのを、街路や様々な窓に潜む剣呑(けんのん)な目がじっと見ていた。どうせ命をかけるなら、嫌でもあの橋をもう一度渡るほうが、ここでゴネるよりマシというもの。
 今度はリレーネが歌った。星獣の首を返す。
 腹立たしいことに、旧市街が遠ざかると、テスはよりによってこんなことを聞いてきた。
「どうしてあっさり引き下がったんだ?」
 リージェスはテスを殴ろうかと思った。
「お前が余計なことを言うからだ」
 ともあれ、星獣のおかげでミナルタまで辿り着くことはできた。ここで乗り捨てるしかない。是非ともまとまった金を手に入れたかったのだが、無理はできない。
「この貸しは死んでも返してもらうからな」
 手に入らぬとなると途端に現金が惜しくなる。
 テスはいつもの、ぼうっとした、どこを見ているのかわからない目を虚空に向けて言い返す。
「死んだら返せない」
「馬鹿にしてるのか?」
「違う。死んだら返せないから死んだら返せないと言ってるんだ」
 リレーネはおろおろした様子で二人の顔を見比べていた。歌が尻すぼみになって消えかかる。難所に来たのだ。つまり、橋に。
「変わろう」
 テスが歌を引き継いだ。リージェスは、テスに感謝こそしないものの、安堵はした。どちらかが歌でも歌っていなければ喧嘩をしてしまう。
 星獣が橋を渡り始めた。足許にはゴミを(なら)した道ができていた。ゴミの層の下はきちんと舗装されているはずだ。恐らくは。
 傾斜に差し掛かった。ゴミの層が薄くなるのだ。そして……奈落が剥き出しになる。
 ここはかつて地下街の上に架かる道路だったのか。それとも高層建築を結ぶ橋だったのか。どうでもいい。まずいことに、この数十分の間に風が強くなっていた。
 風はゴミの山の間でごうごうと()き、リージェスたちの体に圧力をかけ、星獣を揺らした。星獣の足許は、その蹄がようやく乗る程度の幅の金属が井桁(いげた)状に組まれただけの骨組み。井桁状の正方形の空間は、大人二人がすっぽり収まれる程度の大きさで、もちろんすっぽり収まりなどしたら、そのまま日の光の届かぬ地底に真っ逆さまだ。
 リージェスは顔面蒼白になり、指が白くなるほど柵を握り締めていた。護衛武官の誇り? 売り出し中だ。護衛対象のリレーネは、(うずくま)り、右手で柵を掴みながら左手でリージェスの服の裾を強く掴んでいる。
 誇りが売り出し中であったゆえに、リージェスはその男に気付くのが遅れた。テスの歌が停止を命じる短い旋律へと突然変わったときにも、おかしいと思うより、何をしているんだ、早く橋を渡ってくれという思いが先立った。
 顔を上げたとき、その男は、井桁状の虚空三つ分を挟んで星獣と対峙(たいじ)していた。
 強風に身を晒し、細い足場の上で、己の二本の足を頼りにしっかり立っている。
 なびくマント。風に弄ばれる黒髪は長い三つ編み。右手には抜身のサーベル。左手には連弩(れんど)
 男は何も言わずに左腕を上げると、挨拶代わりに連弩を発射した。


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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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