犠牲は崇高

文字数 4,978文字

 4.

 都では、雪が鬱陶しく人々の肌にまとわりついていた。陸軍の荷馬車が派出事務所の裏口につけられ、運送人が食料を中に運び込む。その隙をつき、三人一組の『ゼフェルの後継』が荷台に乗り込んで、黒パンやチーズをちょろまかしていた。
 ゼフェルの後継たちは、着々と蜂起の準備を整えつつあった。蒸留所の摘発以来、食糧や武具は以前に増して厳重に保管され、彼らが経営する工場や自宅は内側から要塞化されていた。
 蜂起の可能性が現実的になるほどに、雪を歩くリグリーの憂鬱は深まっていく。
 どうすれば、指導者コルの態度を軟化させることができる?

 ※

 アセル・ロアング中佐は乗り心地の悪い馬車の中で、リアンセのことを考えていた。彼こそは南西領陸軍情報部特務機関局の元局長、今は(まが)つ炉の都解放軍の指導者であり、直属の部下リアンセ・ホーリーバーチ中尉をシルヴェリアに与えた張本人であった。
 リアンセが今どこにいるのかアセルは把握していなかった。今や各地に散らした情報部員の半数が消息不明となっていた。
 命を落としたのか。
 息を潜めているのか。
 よもや天変地異を前に指令を忘れたということはあるまい。
 アセルは考えても仕方がないこととそうでないことの区別がつく人間だった。だが今は考えていたかった。何でもいいから考えていないと――馬車酔いで吐きそうだ。
 ガタン! 車が跳ねる。胃液が喉までせりあがり、気をそらすものを求めてアセルは窓のカーテンを開けた。
 馬車はアセルがよく知っている地区の、円形広場にいた。雪つぶてを投げ合って遊ぶ三人の子供が見えた。揃いの服を着ている。兄弟だろう。
 窓を細く開けると、父親と思しき人物が三兄弟に声をかけるのが聞こえた。
「そろそろおうちに入りなさい。夕ご飯ができているよ」
「夕ご飯じゃないよ、パパ。お昼ご飯だよ」
「いいや、夕ご飯だ。ごらん。太陽があんなに傾いてるじゃないか」
「そんなのおかしいよ! まだ遊び始めたばっかじゃんか」真ん中の子が口答えした。「僕、明るい間は遊びたいよ。いつ太陽が昇らなくなっちゃうかわからないじゃんか」
「やめなさい。パパはそんな話は聞きたくない」
 アセルは深々と外の空気を吸うと、同じくらいゆっくり吐き出して、カーテンを閉めた。
他人事(ひとごと)と思えんな」
 唯一の同乗者、都解放軍のリャン・ミルト中佐を相手に自嘲する。
 ミルトが尋ねた。
「何がだい?」
「君は私がもう何年も独身寮に住んでいる理由を知っているな」
 ミルトはアセルと同年代の将校で、ヨリスが強攻大隊にいたときは同じ連隊に属していた。ヨリスにとっては一回り年上のミルトこそが唯一の友人と聞く。
「ご家族との仲がうまくいっていないと言っていたね」
「妻は私が忙しすぎるのが大層気に入らなくてね」
 ミルトは同情を示し、眉を垂らした。
「たまの休日には、妻と息子が色々な問題を私に持ちかけてくる。私は寝転んで、あくびをしながら答えたんだ。『勘弁してくれ、そんな話は聞きたくない』
 そういうことが積もり積もってな」
「確かに君は疲れ切っていたのだろうね」
「ある日、十七歳の一人息子が殴りかかってきた」
 ミルトは細い目を見開いた。
「それは初耳だ」
「息子は完全に妻の味方でね」
「君はどうしたんだ?」
「殴り返した。そうとも。殴り合いになったさ」
 また吐き気がこみ上げてきて、アセルは再びカーテンを開けた。
「この地区だ。この地区に私の家があり、妻子が住んでいる」
「そうだったのか」
「私は自分の父とも殴り合いをしたことがあってね……すまない、寒いが窓を開けていないと吐きそうなんだ。それに喋っていないと」
「構わないよ」
「父とは、妻との結婚を反対されたときにやり合ってね。その末に妻と結ばれたんだ。まさか後になって自分が息子によって家から追い出されるとはな」
 広場を横切った馬車が、細い道へとカーブする。体が斜めに傾いて、アセルは両手で口を押さえた。
「うぷ……いや、大丈夫だ。失礼」
 四十代の男二人は揃って青い顔をしていた。実はミルトも馬車酔いするタイプなのだ。
「ご家族とのことは残念だが、都は君を必要としているよ」
 ミルトは気分が悪いのを隠して慰めた。
「もしかしたら、世界中が」
「冗談にしてもたちが悪いぞ。我々が都を取り戻し、『月』にまつわる真相を解き明かしたとして、世界の異変を止められると思うかね?」
「止められるかもしれないし、止められないかもしれないね」止められないとミルトは思っていた。「そのときになってみなければわからないさ」
 アセルは窓を細く開けたまま、カーテンを閉めた。
「ヨリス少佐はあとどれくらいで都に戻ってくる?」
「旧ミナルタとの連絡は絶えているが、ミナルタが中立破棄を宣言するまでには間に合うね」
「自信があるのだな」
「彼は私の義兄弟だ」
 戦場で命を救われて以来、ミルトはヨリスを義兄弟と呼んでいた。
「私の義兄弟がいるべきときにいないなど、考えられないよ」
 馬車が、小径(こみち)の小さなレストランの前で停まった。悪夢の移動が終わったのだ。帰りのことを考えると既に頭が痛いのだが、とにかくアセルは率先して馬車から飛び下りた。
 空気は喉を刺すほど冷たいが、そのほうが気持ちよかった。吐き気が回復するのを待って、アセルはレストランの戸口に歩み寄る。
 扉には貼り紙がされていた。

〈本日貸し切り〉

 扉を押し開く。
 鈴が鳴った。
 入ってすぐ右手は無人のカウンター。奥には楽団や踊り子のための舞台。左手にはテーブルが並ぶが、そこも無人だった。店内は全体的に薄暗く、ただ舞台を見下ろす吹き抜けの二階席の一部に白色光が見えた。
 あらかじめ決められた合言葉を、アセルは二階席に放った。
「卵料理がほしいのだが、あるかね?」
 声が冷たく響く中、後ろでミルトが扉を閉めた。二階へ上がる階段の上に人影が現れた。
 女性だ。
 その人にアセルは尋ねた。
「リグレット・マレー嬢はおいでか」
「私です」
 女性、階段上のリグリーは足早に一階へ下りると、アセルの前に立った。
「お待ちいたしておりました、アセル・ロアング中佐。書状でのやり取りはありましたが、ようやく対面がかない光栄です」

中佐だ。君は軍人が嫌いかね」
「いいえ。平和のために手を取り合えるなら、決して」
 リグリーが手を差し伸べる。アセルはニコリともせずに握手に応じた。
「手を取り合えるといいのだがね」
 アセルは、シルヴェリアから一つの明瞭な指令を受けていた。
『いかなる理由があろうとも、月環同盟の許可がない限り武装蜂起をしてはならない』
 こういう意味でもある。
『他のいかなる武装勢力に対しても蜂起を許してはならない』
「お二階へどうぞ」
 皮肉を聞き流し、リグリーは長いスカートを翻して二人を導いた。
「私のことはリグリーとお呼びください。皆、そう呼びますので」
 二階の一番大きなテーブルで、三人の男女が待ち構えていた。そのテーブルが白色光の出所だった。天籃石の裸石が無造作に転がっている。
 三人のうちで最も年嵩の男が立ち上がった。五十がらみで恰幅がよく、口髭を生やしている。
「私はゼフェルの後継軍の、呪つ炉の都における指導者コル」居丈高に名乗る男は、リグリーのように握手を求めはしなかった。「指導者としての仮名だ」
「私は呪つ炉都解放軍総長アセル・ロアング。お会いできて光栄です」
「同じく指導部のリャン・ミルトです」
 ゼフェルの後継の幹部たちが立て続けに名乗る。アセルはそれが済むと着席し、直ちに本題に入った。
「私はずっと君たちと話をしたいと思っていた」
 一同の顔に視線を巡らせる。
「私は君たちを尊敬している。本当だ。半年ほど前まで陸軍に籍を置いていた我々と違い、あなたがたは独力で一つの勢力を作り上げた。力になりたいんだ」
「どのように?」
「まずあなた方は星獣祭に合わせての蜂起を計画しておられるが、もしそれを遅らせられるなら、我々はあなた方に対し、十分な量の装備を用意できる」
「我らゼフェルの後継軍は五千の兵力を擁している」
 コルの返事をアセルは鼻で笑いたくなった。下駄を履かせすぎだ。五千とは。
「無論、それに見合う装備も都の内外からかき集めている。あなた方の提案がそれだけならば、我々が乗る理由はない」
 コルという人物は天性の見栄っ張りだとアセルは結論づけた。その上で、困ったように切り出した。
「その星獣祭だが、実行できるかどうかすらわからない」
 リグリーが浅く頷くのを視界の端で捉えた。
「今や時間の巡りは不安定で、工場は停止し、都市機能は麻痺へと追い込まれている。しかも食料や燃料不足の問題は解決されないまま。民衆はヒステリー直前、どのような騒動が武力闘争を惹起するかわからない。コル殿、新総督の武装商人に対する粛清を覚えておられるか」
 アセルは強情な面構えのコルをじっと見詰めた。
「新総督は民間人を躊躇なく巻き添えにした。あなた方が単独で蜂起すれば、血腥(ちなまぐさ)い報復は免れ得ない。あなた方が一般人に紛れて都に根を張っている以上、その報復は酸鼻を極めるものとなる可能性が高い。多くの無関係の市民が犠牲となるだろう」
 アセルが言葉を切っても、コルはすぐに返事をしなかった。ミルトが畳み掛ける。
「我ら異なる勢力が個別に蜂起したところで、個別に鎮圧される結果となることは目に見えています。元より日輪連盟軍と我々の戦力差は絶望的であり、さらにトレブレンーコブレン間道路を通じて新型星獣兵器が都に輸送されつつあります。この状況で勝利を得るには、外部から都を攻撃する月環同盟軍との連携が不可欠なのです」
「あなた方は誤解をしているが」コルが答えた。「我々は戦争をしたいのではない」
 アセルもミルトも、何を言われたのかすぐにわからなかった。
「我らゼフェルの後継の理念は永遠の平和。創造主たる地球人の恩寵を受けるに値する種族として言語生命体の意識を改革するべく存在しているのです」
「コル殿、それでは都で戦力を集めて何をなさろうと?」
「第七監獄に囚われている星獣技師たちを解放し、来たる星獣祭で披露される新型星獣を我らのものとする。そしてそれを、大陸のあらゆる軍事力に対する抑止力とし、永遠の平和を実現するのだ!」
 つまり、何が言いたいのだ?
 アセルは精一杯に頭を回転させた。
 恐らくこの男は、新型星獣兵器は大陸のあらゆる軍事力に対する抑止力になり得るほど強大無比なものだと思っているのだ。
 そういうことだろう。
 アセルが考えている間にもコルは喋り続けた。
「武装蜂起はそのための必要悪。その先にある永遠の平和のためならば、いかなる報復があろうとも立ち止まるわけにはいかんのだ」
「コル殿。いかにも新型星獣兵器によるコブレン陥落は衝撃的な事件だった」
 アセルは優しげに諭した。
「だが、二重環状城壁を有するコブレンがあれほどの惨禍に見舞われたのは、新型星獣兵器の威力というよりも、コブレン側の指揮官カーラーン殿下の能力不足に負うところが大きい。星獣兵器は決して過大に評価されるべきではないと思うのだが、あなた方はどうしてもそれに固執されるのか」
「星獣こそは言語生命体による純然たる発明品」
 コルは同じ内容を、言葉を変えて繰り返す。
「それによって永遠の平和が成される可能性があるならば、我らに捨て置くことはできない。そして星獣祭の日こそが栄光の日に相応しいのだ」
 理屈が通じない相手なのだと、アセルは遅まきながら理解した。この男は自分の崇高な理念の虜となっている。
「酸鼻を極める報復がなんだと言うのだ」
「コル、聞いて」
 思わぬことに、リグリーが口を開いた。
「創始者ゼフェルはこう説いたでしょう。犠牲は崇高なれど、不用意な犠牲を捧げる者は――」
「黙れ、リグリー! 貴様も腰抜けか!?」
 アセルは落ち着き払って口を挟んだ。
「貴様『も』、とは」
 さすがにバツが悪いのか、コルは渋面を作り、言った。
「我々の蜂起の意志は変わらない。それだけご理解いただければ十分だ」
 ミルトが押す。
「不用意な犠牲を捧げるおつもりですか」
「ただ平和を成し遂げるのみ。永遠に反戦!」
 一声叫んだコルは、今度はわざとらしいほど落ち着いて、この会合を締めくくる一言をゆっくりと宣言した。
「我々は、反戦を貫くためならば戦争をも(いと)いません」


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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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