探究開始

文字数 4,312文字

 1.

 ニコシアの居城、すなわちシオネビュラ西神殿の屋上からは、二つの光景が見えた。
 南側の練兵場に見下ろすのは、何十という数の木馬。指揮官の号令一下、近くの廊下から整列して飛び出した騎兵たちが、武装したまま順に木馬に飛び乗っていく。武装を変えたり、乗る向きを変えたりして、訓練は何度も繰り返されていた。その甲斐あって、他の騎兵にぶつかったり、木馬に乗る際に跳ね上がった足で顔を蹴られたりして怪我をする新兵の数は、この半年でめっきり減っていた。
 一方、北側の市街地に見えるのは都を見捨ててシオネビュラに戻って来た学生や労働者、事業家といった人の群れだった。生家がある者はそこへ帰り、ない者は新しい家を借りるか、宿を取り、あるいは疲れて路傍に座り込む。
 どちらの光景に身を置く人々にも、秋の午後の日差しとイチョウの黄色く色付いた葉が等しく降り注いでいた。その澄んだ冷気と美しさは、ニコシアの心を和らげるばかりか、一層固く強張らせていた。
 今、一つの事実が彼女の頭と心を占めていた。

 ――星獣祭までの都の奪還は不可能。

 星獣祭を過ぎれば、都は雪に閉ざされる。雪が溶ける頃には、新総督の椅子をめぐる状況はますます泥沼と化していることだろう。
 屋上に誰かが上がってきた。ニコシアは練兵場を見下ろす胸壁の前から動かず、ただ目だけを動かして、近付いてくるメイファの姿を認めた。
「都の状況は?」
 真意のわからない笑みを浮かべて隣に立つメイファに、ニコシアはいつも通り、いかがわしいものを見る目を向けた。
「先の総督シグレイ・ダーシェルナキ公の人気は根拠のないものではなく……」
 ずっと下のほうで、指揮官の合図のもと騎兵たちが一斉に木馬から飛び降りた。鎧の触れ合う音がぴたりと揃って鳴り響く。
「軍の腐敗の空気の一掃、自由市への税制の刷新による治安の向上、衛生環境の改善」
「だが専横もひどかった。少なくとも陸軍私物化を目論んでいるとの批判には、正面から回答しなければならなかったはずだ」
 ニコシアは眼下の練兵場に目を戻しながらも話を続けた。
「公爵夫人パンネラは長男アランドを傀儡(かいらい)に立て、陸軍省の官僚や上級将校たちに、奪われた特権を返す約束をしていたな」
「いかにも」
「ところがアランドはとんだ腑抜けとの噂じゃないか。謀反に加担した将校や職業兵士たちは、より強い南西領を望んで命を賭けた。アランドが都の武装商人たちの無法を放置する期間が長ければ、奴の親衛隊の心も離れていく」
 そうなれば、アランドは、もっとも己に貢献してくれた者たちを最初に粛清しなければならなくなるだろう。
「とはいえ」
 言葉を継いだメイファの声で、彼女が笑っているのがわかる。ニコシアはその表情を見たいと思わなかった。
「もし都の武装商会の一掃をアランド・ダーシェルナキが決心したら」
「したら?」
「それはそれで、最っ低なときに最っ低な行動をするわけです」
 胸壁の陰でメイファの手が動き、一枚の手漉き紙をニコシアに寄越した。それは昨晩遅くに彼女のもとに届けられた『(まが)つ炉の都解放軍』からの暗号を、判読可能な状態に起こしたものだった。

『官僚たちの流出は止まらず、新総督の手腕は民衆にも露呈している。城下の暴動に対し新総督は報復を宣言。民衆は若すぎる新総督を嫌悪している。海側の街道およびミナルタ製塩所の破壊によって食料事情は日毎(ひごと)に悪化。水不足発生。衛生環境悪化。燃料の備蓄状況は最悪。もう一つの反抗勢力である〈ゼフェルの後継〉を名乗る一派は蜂起の準備を着々と進めている。ついてはミナルタ近郊から都への伸びきった陸軍補給路の分断及びミナルタ市議会の説得を急がれたし。これ以上中立でいられるほど強い立場ではないことを、ミナルタ市議長はわかっている』

 南西領の都を日輪連盟に売り渡したパンネラ・ダーシェルナキ公爵夫人は、今頃連盟の首脳と共に、アランドの次に据える首を協議していることだろう。彼女は息子を愛さない。
 シオネビュラ神官団はこれまでに、別の暗号文を受け取っていた。三十代に入ったばかりの新トリエスタ伯が、一軍を率いて近々都に入城するらしい。
 都解放軍を名乗る手紙の差出人の素性をニコシアは知っていた。
 南西領陸軍情報部特務機関室の士官で、名は確か、アセル・ロアングといったはずだ。
 同じ日、シオネビュラの南神殿ではミサヤ・クサナギ二位神官将補が休戦交渉に当たっていた。彼女はわずかな従卒と歌流民の少女ゾレアを伴って、ソラート大使として南西領本土の土を踏んだのだ。
 あれほど威圧的な姿勢で臨んできたソラートが、ヨリスタルジェニカを奪取して勢いづくどころか休戦を望むとは異なこと。よほど仲間が集まらなかったか、または連盟から待ったをかけられたか。シオネビュラ神官団正位神官将ヤン・メリクルは挑発的な態度でソラートの大使に臨み、ヨリスタルジェニカの神官たちはどうしたと尋ねた。
「捕虜として拘束し、相応の扱いをしております」
 メリクルの頬の硬さを見つめていたミサヤは、不意に相手の目の色が変わるのを感じ取った。眼前の神官将は、ミサヤが隠そうとしていることを嗅ぎつけようとしている。
 いや、むしろ知っているのではないか。
 内心で動揺したのは、メリクルの次の一言のためだった。
「もしも敵勢力が不在のタルジェン島で、あなた方がヨリスタルジェニカの神官たちと同じ異変に見舞われましたら、クサナギ二位神官将補殿、あなたは帰る場所を失うわけです」
 タルジェン島陥落の知らせは当然リアンセ・ホーリーバーチ中尉の耳にも入っていた。陥落せしめた南東領ソラート神官団の態度から、何らかの異常があったということは容易に想像がついた。
「行くんだね」
 色を失ったリアンセの顔を覗き込みながら、ユヴェンサ・チェルナー上級大尉は悲壮な感情が伝染したかのような口ぶりで確認した。リアンセの返事は短かった。
「真実を知らなければなりません」
 それだけ言い残し、彼女はとうにシオネビュラを()っていた。素性を隠し、彼女は隊商について回る旅をした。お針子のふりをして、夜更けまで商人たちの衣服を繕う仕事をしながら、月と星と天球儀の光のもと、リアンセは平原でユヴェンサの助言を思い起こしていた。
「コブレンとフクシャの間の町に臨時の検問ができている。そこに駐屯しているのは陸軍南部ルナリア独立騎兵大隊。今は日輪連盟軍と行動を共にしている」
 そこに、カルナデル・ロックハートという名の大尉がいると教えてくれた。
「彼は私と同門で、シンクルス・ライトアロー正位神官将の友人だ」
「その人も神官の血筋の人なのですか?」
「いや、漁師の網元の息子でね。ライトアロー正位神官将が着任のためタルジェン島に向かうおり、陸路の護衛を受け持って、そのとき親交を深めたと聞いた」
「信用できるのですか」
「情に厚い男だが、今は新総督アランドの陸軍の軍属だ」ユヴェンサは眉間に皺を寄せた。「友人の苦難を気にかけはするだろう。でも、接触するならくれぐれも気をつけて」
 その臨時検問にたどり着いてから、リアンセは理由をつけて隊商を離れた。街道を塞ぐ検問所は小さな町の近くに陣取り、フクシャ・シオネビュラ方面と、トレブレン・コブレン方面を隔てていた。
 昼頃、人の群れを遡ったリアンセは、ようやく古い石造りの門に辿り着いた。
 門の中で旅行者たちを取り調べる兵士たちとは別に、リアンセが来たフクシャ・シオネビュラ方面の門の出入り口にも、兵士が歩哨に立っていた。
「あの」
 おずおずと話しかけた町娘、という風情のリアンセを、若い兵士が驚いたように注目した。兵装に身を包んで以来、恐れられることには慣れても話しかけられることには慣れていない徴収兵、といったところだろう。リアンセが口ごもる演技をすると、兵士は意外にも紳士的な口調で促した。
「何かお困りですか?」
「あなた方はコブレンを目指される南部ルナリア独立騎兵大隊の方でしょうか」
 兵士は黙って眉を片方吊り上げた。
「カルナデル・ロックハート大尉という方がおられるはずです。私はシオネビュラから参りました。ロックハート大尉にどうしてもお話ししなければならないのです」
「どういった御用向きですか?」
「妹の、ナリス・ロックハートさんのご病気の件です」困りきった顔で嘘をつくのは慣れたものだった。「私はナリスさんの友人です」
 兵士は浅く頷いた。
「こちらでお待ちください」
 彼が門の中に消えていくのを、リアンセは秋の陽気の中で見送った。少し離れた野営地から、炊事の煙が幾筋も上っていた。
 少しして、先ほどと同じ兵士が戻ってきて、門の上にいるようリアンセに伝えた。
 門の三階の小部屋で、リアンセは一人待った。三十分すると、足音が階段を上がってきた。扉のない、天井の低い小部屋へと、見上げるほどの大男が頭を下げて窮屈そうに入ってきた。
 黒褐色の肌。黄土色の髪。堂堂たる体躯。年は、確か二十五であったと聞く。シンクルスと同い年だ。彼こそは、シオネビュラを発つ前に素性を調べたカルナデル・ロックハート大尉だった。
 鎧窓に背を向けて、リアンセは彼に歩み寄った。
「ロックハート大尉ですね」
 前触れなく訪ねてきた美女に、中隊長の腕章をつけたこの男は見惚(みと)れている様子だった。十分に二人の距離が縮まると、彼は唾をのみ、「ああ」と頷いた。
「オレがナリスの兄のカルナデルだ。それより妹が病気だって」
「失礼」
 リアンセはカルナデルの右手を取る。重く筋肉質な手を挙げさせて、絶句を受けながら、自分の襟元へと導いた。
「あなたことは調べさせていただきました、ロックハート大尉」
 小さな正方形の窓から()の光が差して、リアンセの黄色いシャツの襟を照らしていた。
 カルナデルは、自ら指を動かして、襟の先を確かめた。ほどなくして、彼の指先は、隠された刺繍を見つけ出した。
 情報部員の鳩の刺繍だ。この襟は取り外しが可能になっていて、身の危険が迫れば即座に処分できる。
 リアンセは顎を上げ、金色の瞳から放たれる鋭い光をまっすぐカルナデルの目に注いだ。目の前の大尉は驚いていたが、逃げもせず、動揺もせず、視線を受け止めていた。
「私は陸軍情報部員のホーリーバーチ中尉と申します。あなたのご友人、シンクルス・ライトアロー正位神官将について、伺いたいことがございます」


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登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


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◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


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◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


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◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

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