海戦/タルジェン沖の海戦

文字数 4,125文字

 3.

 夜のいつ頃とも知れぬ時間、リアンセは夢を見た。早く終わってほしいと願っていた。それが夢であり、しかも、安らぎを与えてはくれぬ夢だとわかっていたからだ。
 西方領ザナリス。そこはリアンセの故郷で、煉瓦造りの瀟洒なホーリーバーチ邸の玄関口からシンクルスとロザリアの声が聞こえていた。二人はこれから果てなく遠いところに旅立つようであった。ほんの少し出かけるようなふりをして、二度と帰ってこないつもりなのだ。
 リアンセは喉が渇いていた。洗濯物のはためく庭で、井戸を汲み、釣瓶(つるべ)を水で満たしては、幾度となく(から)のグラスを口に運んでいた。早く喉を潤して、姉と幼馴染に挨拶をしたかった。もう会えないのだから。だが、ついぞ二人の声が絶え、舗道を滑る馬車の車輪と蹄の音も遠ざかり、水など後でよかったと、深く後悔するところで目が覚めたのだった。
 喉の渇きは本物だった。船室の天井には、紐でくくった天籃石の裸石が吊り下げられ、その振れ幅の大きさから、船が揺れていることがわかった。起き上がり、ベッドに座り込む。物がない部屋で、リアンセの太く濃い影が、右に左にと長さを変えながら揺れ動いた。
 部屋の戸の向こう、廊下を人が走り回っている。兵士たちだ。軽鎧(けいがい)の音がする。
 今度こそ水を後回しにしなければならぬようだった。夜に、これほど兵が慌ただしくするのなら、事情は一つしかあるまい。
 リアンセは手荷物入れから手櫛を出し、丁寧に髪を()いた。編み込み、もらった髪飾りを差した。死化粧の代わりだった。ここで死ぬかもしれないのだから。服装を整える。防具はない。フルーレを腰に下げた。そして、無人となった廊下を渡って甲板に出た。
 甲板は帆が畳まれ、全ての明かりが消されていた。空は曇天で、しかもうまい具合に黒雲で、天球儀の光を消していた。先行するのは三位神官将ニコシアの旗艦。戦隊は縦隊をとり、突破の構え。海戦が始まるのだ。
 シオネビュラ艦隊は総数十五艘。うち九艘がタルジェン島の島民を乗せた疎開船だ。
 それなのに、ニコシアは、この隠れる場所のない沖で戦を交えようというのか。
 甲板の弩兵たちは、リアンセの戦支度(いくさじたく)を見て、何も言わずに目を前に戻した。波の音が、ざざん、ざざんと彼方から押し寄せてくる。十五艘もの船が漕がれているというのに、波の音ばかりが耳についた。
 号令もない。リズムを取るための太鼓や笛の音もない。ただ死の似姿となった艦隊が、黒い海を滑る。風は微風だった。心地よいほどだった。甲板にひしめき合う兵士たちの、体臭と体温がなければ。
 闇を凝視すれば、彼方の光が目に届く。リアンセは陸軍の諜報員だ。海戦に臨場した経験はない。それらの光を見ても、敵の規模と距離とを目測できなかった。ただ、あるときそれらの光が乱れ、一斉に揺れ動いた。
 甲高い(かね)の音が聞こえてきた。
 気付かれたのだ。
 シオネビュラ艦隊は、喊声(かんせい)でそれに応じた。太鼓がリズムを打ち始め、水夫長が声を枯らして漕ぎ手に(げき)を飛ばす。遠くの光が揺れているのは陣形を変更しているのだ。
 円陣だわ、と、リアンセは思った。防御の陣形。光が大きくなってくる。果たして舳先を外に向け、円陣を組む船の一団が目視できるようになった。
 まだ弩は届かない。
 ニコシアの旗艦が先立って、大胆にも敵の衝角に船の脇腹を晒しながら、円陣の外を周回し始めた。シオネビュラ艦隊の縦隊は、自然と横隊に変わった。波は、比較的静かだった。揺れもさほどではない。漕ぎ手たちの勢いばかり激しく、しぶきが甲板を水浸しにするほどだった。
 リアンセは敵の船を数えようとする。一、二、三……七、八、九……十五……十七……。
 もう、この円陣を一周しただろうか? 円陣の内側には敵艦隊の旗艦がある。そこにはためくはソラート神官団の旗印。ならば交戦は不可避。(はら)をくくるべきときに、不思議なことだが、リアンセはこんな疑問を抱いた。今は何時だろう? 太陽を見たかった。とりわけ昇る朝陽を。生きてそれを浴びたかった。逃げ場がない海上では、時として陸での戦い以上に惨たらしい殺戮が起こり得る。殺そう、敵を殺そうと、リアンセは心に言い聞かせた。もう一度太陽を見るために。
 最初の接近が起きた。水をかき分けて、先頭のニコシアの旗艦が舳先の向きを変えた。リアンセにはその意味がわかった。二周目に入ったのだ。低くどよめく、海の亡者のような喧騒。長い緊張の中で、頭に奇妙な情景が浮かんだ。それは賭場(とば)の光景だった。テーブルにはこの海域の鳥瞰図が広げられている。シオネビュラが勝つか? ソラートが勝つか? 地球人が、神を気取った連中がこの様子を高みから観戦し、金を賭けて遊んでいるのだ。
 目眩を堪え、歯ぎしりをしたそのときに、澄んだ歌声が、まっすぐ耳に届けられた。

『太陽ヨ、ドウカ
 私ニ昇ッテクダサイ』

 思わず声の主を探した。

『ソノ美シイ(かんばせ)
 私ニ向ケテクダサイ』

 その人は、帆桁(ほげた)の上に立っていた。黒衣をまとい、フードで顔を隠し、帆柱に手を添えて、甲板にいる全ての人に歌っていた。
 歌流民だ。

『私ガ波間ニ沈ム日モ
 故郷ヲ照ラシテイテクダサイ――』

 三周め。ついぞ、互いの弩が届く距離に入った。
 もうリアンセには妄想も雑念もなかった。戦闘意欲だけがある。
 これが歌流民の歌の力。
 戦闘あるのみ。
 弩の強靭な発射機構から放たれた矢が、甲板に突き刺さり、木屑を飛ばした。
 目の前で兵士がくぐもった声をあげ、倒れた。リアンセは彼を顧みることもなく、ただ彼と場所を変わるべく、音を立てて落ちた巻き上げ器つきの弩を拾い上げた。矢を発射位置につがえながら、リアンセは故郷の屋敷、その煉瓦の壁にしみこむ日の光の温もりを思っていた。

 ――私が波間に沈んでも、太陽は故郷を照らしてくれる……。

 四周目。もうリアンセにはニコシアの狙いがわかっていた。敵にもわかっているはずだ。だがどうしようもないのだ。
 シオネビュラ艦隊が一周するたびに、ソラート艦隊の円陣は内側へと縮まり、身動きがとれなくなっていった。船腹はこすれ、櫂はもつれあった。あの喧騒は苛立つ漕ぎ手たちの声か。円陣の内側から、空を切って何かが放たれた。
 リアンセは周囲の兵士とともに、射撃をやめて身を屈めた。
 重いものが帆柱に直撃し、船が大きく(かし)ぐ。
 艦載弩砲(どほう)だ。
 湿った木の裂ける音が耳を(ろう)した。体は甲板の手すり板に押し付けられ、頭の上を絶え間なく弩の矢が過ぎていった。
 帆柱が海に落ちる。
 水柱が上がり、頭から海水をかぶった。船は今度は反対側に傾き、リアンセは甲板の端から端まで転がっていきそうになった。漕ぎ手たちが船の平衡を取り戻そうともがいている。水浸しの甲板で、潮水を口いっぱいに味わいながら、リアンセは無意識に掴まるものを探した。
 左手が柔らかいものに触れた。
 帆桁から転落し、首をおかしな形に曲げて横たわる歌流民だった。
 顔を上げれば、へし折れた帆柱の鋭くささくれ立った断面が見えた。それがはっきり見えるほど、周囲はうっすらと明るくなっていた。
 夜明けが来た。
 生憎(あいにく)と雲は晴れず、太陽は拝めなかった。いつしか小雨が降り始めていた。船も体も乾く見通しは立たない。
 立ち上がる前に、ニ度目の弩砲がシオネビュラ艦隊のどこかを直撃した。横隊の後方、タルジェン島の疎開船があるあたりだ。
 夜明けの風が吹いた。硫黄の臭いがした。追い風になる位置まで来て、ニコシアは初めて船を止めた。彼女の船の船首楼にはサイフォンが積まれている。矢来(やらい)へ、そして帆柱へ、矢が突き刺さり、たちまち針山のごとき有様(ありさま)となった。それでもワーカーたちは手を止めず、ついぞ、サイフォンが太い炎の束を噴き出した。
 炎は船首から船首へと、海を突っ切った。
 真正面にいた敵兵たちが、ねっとりと揺らめく炎の中で黒い影となり、くずおれた。あの火は水では消えない。海面でも燃え続けるのだ。火を吐きながら、ニコシアの船はゆっくり進む。火災の起きている船が一つ、二つ、三つ。
 サイフォンが静まった。移動によって風の当たる角度が変わったからだ。
 突破が始まった。火災を尻目に、ニコシアの軍船が衝角(しょうかく)を円陣に突き立てて、リアンセが乗る船もそれに続いた。傾く船から海へと投げ出される兵士たちがいた。敵と味方が絡み合い、もはや円陣の内部の弩砲も用をなさない。
 リアンセは甲板の手すりを掴み、身を乗り出し、暗い雨の海を見下ろした。それから敵船の甲板に飛び移った。先に突入した兵士たちの奮戦によって既に敵は駆逐されていたので、弩で迎え撃たれはしなかった。
 甲板には血溜まりができ、その色を、雨が薄く伸ばしていた。
 そこかしこに亡骸があった。自ら海に飛び込んだ者たちの手が、水面を叩く音が響いていた。甲板の下からは、命乞いをする漕ぎ手たちの叫び声。
 突入は続く。
 円陣は崩れた。突入が起きた円の反対側では、どうにかして逃げ出そうと奮闘するいくつもの船の様子が窺えた。彼らは各々のもつれた櫂をほどくか、あるいは櫂を捨てて漂流するしかない。それか、戦闘の熱に浮かされた男たちに斬り殺されるかだ。
 ソラート側の動きを見極めるべく船尾に向かったリアンセは、海に浮かぶ男たちの眼差しに会い、凍りついた。
 救いを得るあてのない兵士たち。鎧を着たままもがき、圧倒的質量の水に体温を奪われていく。
 けれど、悲惨はここだけで起きているのではない。
 これと同じことが、大陸じゅうで起きる。
 広すぎる戦域。ゆえに決定的勝利の機会のない、果てない消耗戦。
 日輪連盟。月環同盟。戦いに()み飽きたとき、数の多いほうが勝者となる。
 だが――リアンセにはわからない――それは、何年先になるのだ?


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

◆ミスリル・フーケ

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


『暗殺者を狩る暗殺者』の育成機関、コブレン自警団の団長の一番弟子。正義感が強く、好戦的で熱血だけど気分屋なのでいきなり冷める。自分のことを暗殺者だと思ってるわりに騒々しい。11歳のときに実の母親との間にできた娘が「いないつってんだろっ!!」いません(忖度)。

画像は「このカス野郎をどう始末してやろうか」と思案しているときの顔。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アエリエ・フーケ

◆27歳/女性

◆所属:コブレン自警団


もとは豪商の娘だったがいろいろあって10歳で浮浪児となり、コブレン自警団に保護された。

女性ながら大鎌をはじめとする長柄武器の扱いに長け、ミスリルの行くところにはどこにでもついて回って敵の生首を刎ね飛ばす。恐い。ちょっと恐い。笑顔がちょっと恐い。足許にひれ伏すと踏んでくれる。マゾは急げ!


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆マリステス・オーサー

◆25歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称テス。鳥好きで頭が緑とかいう実に安直な理由で『真鴨』とか『鴨』とか呼ばれている。

自閉傾向が顕著に強く、表情の変化の乏しさと相俟って「何を考えているのかわからない」という印象を与えがちだが、感じる力も考える力も強いほう。

コミュ障の自覚があるため、コミュ力の高い兄弟子のトビィに対してとても屈託している(嫌ってるわけではない(むしろ大好き(面倒くさいタイプ)))。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 2作目『鳥籠ノ国』

 外伝『失語の鳥』

◆アザリアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称アズ。自警団の武術師範の一人であるオーサー師の一番弟子。30歳以下の自警団主力戦闘員の中では第一位の戦闘能力を持つ。

戦いになると実に容赦ないが、素の性格はシャイで温厚。天然だけど人から天然って言われると傷つく(繊細)。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆トビアス・オーサー

◆27歳/男性

◆所属:コブレン自警団


通称トビィ。アズの双子の兄弟。長柄武器を得意とするほか、犬を訓練する技能を持つ。陽気でとっても優しくて、子供と動物が大好きな親しみやすいお兄さんだよ! たまに笑いながら人殺しちゃうけど……。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆レミ・イスタル

◆25歳/女性

◆所属:コブレン自警団


イスタル師の二番弟子。朝寝坊クイーン。三人一組が基本となる重要な仕事ではアズ&トビィと組むことが多く、この二人と一緒にいる日は朝自分から起きてこない。

生真面目かつ強気にふるまっている反動か、妹のようにかわいがってくれる人の前では子供のように無邪気な態度になる。かと思えば妙に機嫌が悪いときもある。特に朝。朝。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

 外伝『使者と死者の迷宮』

◆リレーネ・リリクレスト

◆17歳/女性

◆所属:北方領リリクレスト公爵家


北方領リリクレスト家の公女だが、他家に嫁がせるためのお飾りとして育てられた。でも根が逞しいので環境への適応力が高い。


リリクレスト家は惑星アースフィアが移住可能な環境になる遥か以前から続く古い家であり、その血筋は地球における最初の10体の言語生命体試作品にまで遡るとされている。

それゆえ言語生命体の神である地球人からさえも重んじられ、宇宙戦争が行われた時代に授与された宝冠が数千年ものあいだ家宝として受け継がれてきたがリレーネが6歳のときに壊しちゃった。昔お転婆だったから壊しちゃった。

6歳だけどさすがにこれはヤバイと思って庭に埋めてしまった。

家じゅう大騒ぎになってたけど無駄に意志が固いので沈黙を守り抜いた。

ときおり思い出して寝れなくなる。

たぶん今も埋まっている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆リージェス・アークライト

◆22歳/男性

◆所属:北方領陸軍


北方領陸軍で最もぼっち飯が似合う男と恐れられる若き護衛武官。階級は少尉。士官学生時代は優等生だった。毎日ぼっち飯だったけど。

なんだかんだでお人好しなので、試験の前にノートを貸してくれと泣き付かれて貸したら試験が終わるまで返ってこなかったりしたタイプ。怒っていいと思う。


巻き込まれ型の不幸体質なので登場するたびにひどい目に遭う。

仮にもシリーズ第1作目のメインヒーローが何故このような扱いをされるのかと思うと不憫で笑いが止まらない。

ごめん間違えた。

涙が止まらない。


とってつけたように言うけどリレーネ付きの護衛である。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

(過去作での名はリージェス・メリルクロウ)

◆パンジェニー・ロクシ

◆22歳/女性

◆所属:北方領陸軍


北方領の護衛武官。試験が終わるまでリージェスにノートを返さなかった犯人。

本編ではリレーネとリージェスが南西領に潜入するのに協力したが、コブレンの手前ではぐれたらしい。過去作を読まれた方のうちの実に99%以上が忘却の彼方へと葬り去ったであろう、シリーズ一作目からのリベンジャー。それでは一言意気込みをどうぞ。

「パンジーって呼んでよ(血涙)」


◆初登場回:8章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

◆リアンセ・ホーリーバーチ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


陸軍情報部の間諜。間諜は単独での潜入が必要となる任務が多いため、油断を誘うべく実年齢より幼く見える格好を普段からしている。上腕二頭筋とかムキムキだけど。任務のためだけでなく、本人もかわいい服や小物が大好きである。背筋とかゴリゴリだけど。その甲斐あってか潜入や工作の成功率が非常に高く、情報部内ですら(服の上からの)外見に騙される者が一定数いる。腹筋とかバキバキだけど。

でもそれは、強くなければ生き残れないことをよく知っているからこそ。毒舌だったり辛辣なところがあるけれど、姉と妹のことは大好きな三姉妹の次女。

シリーズ1作目からいるけど登場するたびに箍が外れていく。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆シルヴェリア・ダーシェルナキ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領総督シグレイの長子。自分の軍隊が欲しくて18歳のお誕生日に少将の官位を買ってしまった(買ってしまった)。

買官によって権威を得た者に武官たちが向ける目は冷ややかなものだが、シルヴェリアは卓抜した手腕によってたちまち最悪の評価を覆した。

ただし露出の多い服装で人前に出たり、高貴な身分の人間が口にすべきでない単語や言いまわしを使いこなしたり、好色が過ぎて男女問わず手を出したりと問題行動が多い。


弟妹が5人いるのだが、2歳年下の妹エーリカには嫌われている。

もともとプライドが高いエーリカのコンプレックスを刺激しがちなうえ、10歳の頃にエーリカが丁寧に作った押し花を目の前でムッシャムッシャバリボリと貪り食ってからは蛇蝎の如く嫌われている。

何故そんなことをしたのか全くわからない点もまた嫌われている。

しかも父シグレイがその件でシルヴェリアを叱責しなかったので必要以上に嫌われている。

まあとにかく嫌われている。

結論:全部パパが悪い。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆フェン・アルドロス

◆37歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


シルヴェリアの副官。美少年のような色香を漂わせる37歳独身美熟女というちょっとどういう層を狙っているのかよくわからない逸材。お遊びの度が過ぎ、陸軍司令部で17股をかけていたことがばれて無事職場の人間関係を崩壊させる。

前線送りとなった先で出会ったシルヴェリアとはすぐに意気投合し、同性の愛人の座を獲得した。

しかしながら誰にでも見境なくちょっかいを出すわけではなく、性的合意があっても未熟過ぎたり責任能力のない相手には一切手出ししない。当たり前のことなんだけど……。

シオネビュラ神官団のメイファ・アルドロスの実の姉。


◆初登場回:4章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆マグダリス・ヨリス

◆35歳/男性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


歩兵精鋭部隊を指揮する大隊長だったが、編成中だった親衛連隊内の一個大隊を鍛えるべくシルヴェリアに抜擢されていた。階級は少佐。陸軍内においては『歩く殺戮装置』とか『三つ編み三十代』とか陰口を叩かれる。

高潔さと冷酷さを併せ持ち、他人に厳しいが自分に対してはもっと厳しいので立場の弱い者たちからは愛されている。

ときに行動が大胆なだけでなく、天才的な剣の腕を持つため恐い人だと思われることもしばしば。大丈夫。恐くない。たまに一人で百人殺しちゃうだけだ。よくあるよくある。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ヴァンスベール・リンセル

◆20歳/男性

◆所属:南西領陸軍


通称ヴァン。前線部隊に配属されたばかりの士官学校の新卒。リンセル家は海軍士官を多く輩出する家柄だが、本人曰く「伯父さんが恐いから陸軍に来た」。でも本当は船酔いするからである。実は馬にも酔う。

一見してそんなに強そうには見えないけれど実力派のダークホース。士官学校の剣術の成績は一、二を争うレベルだった。なお座学に関しては下から一、二を争うレベルだった模様。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆プリシラ・ホーリーバーチ

◆20歳/女性

◆所属:南西領陸軍


通称プリス。ロザリア、リアンセに続くホーリーバーチ家三姉妹の三女。お姉ちゃんたちが大好きで、リアンセが父親を見限って西方領を出奔するとき一緒に家を出てしまった。

11歳で家をでた娘を心配して母親は父に内緒で送金してくれたのだが、そのお金で「神学校に通う」と嘘をついて陸軍士官学校を卒業。

性格は明るく大胆で、良くも悪くも自分に正直。

陸軍広報部徴募部隊所属。ヴァンとは士官学校の同期の間柄。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆アイオラ・コティー

◆26歳/女性

◆所属:南西領陸軍(解放軍)


南西領陸軍の歩兵部隊指揮官で、階級は中尉。弓術・馬術に秀でるほか、詩人の才をも併せ持つ画伯。特に男性同士の濃厚な接触の模様を描いた画を得意とし、それらの作品は女性士官たちの間でひっそりと流通している。

反乱によって中隊を追われたのちは手許にある過去作と新作を火にくべてから都解放軍に合流。「いつどこで討ち死にしようともこれで私の秘密は守られる」と思ったようだが、まさかこんなところでバラされているとは夢にも思うまい。


◆初登場回:20章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ララセル・ハーティ

◆24歳/女性

◆所属:南西領陸軍


エーリカの専属護衛で、侍従長を兼任する。階級は大尉。クールビューティーなので周囲から勝手に有能そうだと期待されるけど、何かが人よりずば抜けているわけではないので結局勝手にがっかりされる。

冷たい印象の見た目に反して性格は至って素朴で素直。「あっち向いてホイ→」ってやったら全く何の疑問も抱かずに顔を「→」ってやっちゃうくらい素直。褒められて伸びるタイプだと思う。かわいがってあげて……カワイガッテアゲテ……カッ…………カワイガッ…テ…………………………カ……………ゲテ……………………。


◆初登場回:21章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆エーリカ・ダーシェルナキ

◆18歳/女性

◆所属:南西領ダーシェルナキ公爵家


ダーシェルナキ家の第二子。こじらせてるシスコン。

グロリアナ領主ゼラ・セレテスに言い寄って困らせているけど自分は四十手前のトリエスタ伯に言い寄られて困っている。

それではトリエスタ伯に一言

「死にさらせですわ!」

口汚ぇですわ。

そして怖くて誰も指摘しないんだけどインテリアの趣味が悪い。


◆初登場回:10章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミサヤ・クサナギ

◆31歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団二位神官将補。農民の出だが村をあげての推挙と資金援助を得て高位聖職者になる夢を叶えた地元大好きお姉さん。それでは南東領ソラート地方のいいところを語っていただきましょう。



「ソラートの富の源は潤沢な湧き水にある。平原を裂いて流れる水と温暖な気候は滋味豊かな作物を育て、その地方の最も貧しい村の民ですら、まず飢え渇くということがない。澄んだ空気と穏やかな野山に囲まれた環境が人を朗らかにすることから療養地としての人気も高い。かくいう私の夫も、喘息の治療のため幼少期に都から移り住んだ口だ。田舎にありがちな排他的な空気もソラートにはなく、そのため移り住む者がもたらす知識や技術が容易に根付き、その地をさらに住みよい場所にするのだ。無論、これほど恵まれた土地であるから、無闇に野山を切り開いたり、または武力で支配しようとする者たちも多くいた。一つはっきり断っておきたいのだが、住民が温和であることは、侵入者や圧政者への従順とは結びつかない。歴代の……(※これがあと30分続く)


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆ゾレア

◆14歳/女性

◆所属:ソラート神官団


ソラート神官団の従軍歌流民。浮世離れしたミステリアスな少女(※ぼーっとしているだけだ)。


歌流民とは、野山に身を置く流浪の民。大陸中に散らばる彼らは共通する生活様式を持っており、すなわち氏族の歌い手は、歌うときしか声を出さない。

ゾレアの氏族は戦時に歌を売るのみでなく、平時にキノコや薬草を原料とする丸薬を作っていた。歌流民の神秘の力で病が癒されるという思い込みによって服用者の本来の自然治癒力を引き出し、さも薬が効いているかのように見せかけるただの黒い粒である。人体って不思議。

ソラートの住人たちは知っているので買わない。「本体価格よりレジにて20%オフ」とか言われても買わない。


◆初登場回:15章

◆シリーズの他の登場作品

 なし

◆エルーシヤ

◆17歳/女性

◆所属:-


ゾレアと同じく歌流民の少女であり、歌うときにしか声を出さない。その生活で得た不思議な感性を有しておれど、中身は普通の女の子。田舎暮らしが嫌になって逃げてきてしまった。今は陸軍広報部のプリシラ・ホーリーバーチ少尉と行動を共にしている。


都の星獣祭で配られる胡桃の護符は、北ルナリアやグロリアナの山塊を塒とする彼女の氏族が歌によって清めながら作るものだ。胡桃の可食部はクッキーにしてグロリアナの周辺で売られる。商品名は「グロリアナに行ってきましたクッキー」とかだろうか。知らんけど。


ちなみに「エルーシヤ」は歌流民の中でありふれた女性名であり、『失語の鳥』の番外編に出てくるエルーシヤとは完全に別人。


◆初登場回:12章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆マナ

◆14歳(※肉体年齢)/女性

◆所属:-


旅の途中でミスリルが出会う謎めいた少女。自称ミスリルの娘。もし本当に娘だったらミスリルが11歳のときの子になるのだが、当然ながら彼に心当たりはない。心当たりどころか女性と手を繋いで街を歩いたことすらない。

14歳という年齢は推定であり自称。なお生まれてきたとき既に14歳だった。


◆初登場回:6章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆シンクルス・ライトアロー

◆25歳/男性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


ヨリスタルジェニカ神官団正位神官将。政争によって傾きかけた西方領の名家の嫡男で、家の再興のために父親によって南西領に送り込まれた。古風な喋り方が特徴だが、ここだけの話普通に喋ろうと思えば喋れる。


過集中と注意力散漫を繰り返す。黙ってさえいればとても美形なのにいらんことまでよく喋る。実家は太いが傾きかけている。頭が良くて弁も立つけどこれっぽっちも自重できない。

そんな残念なタイプの天才だが、物事は前向きに考えよう。

普段はあちらこちらに興味の対象が移ろうが、並外れた集中力を発揮した際の成果は素晴らしい。近寄りがたいほどの美形だが、中身は気さくで親しみやすい。実家も傾きかけたとはいえまだ太い。自然に振る舞うだけで目立ってしまうのは自信家で聡明だからである。

残念なタイプの天才なのではない。

天才なタイプの残念なのだ。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   1作目『壊れた太陽の王国』

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ロザリア・ライトアロー

◆25歳/女性

◆所属:ヨリスタルジェニカ神官団


正位神官将夫人。シンクルスの妻であり、リアンセとプリスの姉。西方領出身。

シンクルスと初めて顔を合わせたのは三歳のときで、このとき既にライトアロー家とホーリーバーチ家の第一子同士として結ばれることが決まっていた。

親同士が決めた結婚とはいえ、成長に従い二人は自然に惹かれあうようになった。

政治的なごたごたから逃れるべく、ロザリアとシンクルスは南西領の神学校に入り直すことが決まり家を出る。同じ時期に、リアンセは父親の当主としての資質に疑問を抱き出奔。

家族喧嘩の最中に妹のリアンセ(脳筋)がカッとなって父親の頭を壺でぶん殴り、心配して見に来たシンクルスが我慢できずに腹を抱えて笑うのを見て以来「実はこの人ちょっとバカなんじゃないか」と思っている。


◆初登場回:5章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

◆レグロ・ヒューム

◆34歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将。

独特の個性と落ち着きなさゆえに生家では「将来の見込みなし」と冷遇されていたが、実際大人になったら兄弟の中で一番有能だったというオチがつく。たぶんヒューム家はもう終わっとる。

他のことはともかく仕事はできるというタイプ。

何故かしら自分のことを美男子だと思っている(根拠不明)。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆メイファ・アルドロス

◆32歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団二位神官将補を務めるクレイジー長広舌。南西領陸軍のフェン・アルドロスの妹。

アルドロス家の後継がフェンとメイファしかいない事実からお察しいただける通り、もうアルドロス家も終わっとる。

人間としての中身に関しては姉より多少マシなレベル。

甲冑の上から乳首の位置を当てる能力を持っている。


◆初登場回:1章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ニコシア・コールディー

◆29歳/女性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将。真面目で責任感が強い性格。二位神官将に対する態度が横柄だが、これでもかつては敬意を払っていた。

出身もシオネビュラ西部で、居城である西神殿の近くに妹夫婦が住んでいる。市内巡行の際など幼い姪が「おばさまー!」と手を振ってくる。

「お姉さまと呼べ」と思っている。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ミオン・ジェイル

◆25歳/男性

◆所属:シオネビュラ神官団


シオネビュラ神官団三位神官将補。神学校卒業から僅か一年で現在の地位に抜擢された経歴を持つ。振る舞いは優等生然としているが口が悪い。

ジェイル家は家格が低く、神学校には長男である兄しか通えないはずだったが、武芸と学問の両方で兄より優れていることを証明し、進学の権利を勝ち取った。この生い立ちゆえに成果主義者である。

現在の地位を得てから両親は掌を返してちやほやしだしたが、家督を継ぐ気はない。ジェイル家も終わっとる。


◆初登場回:7章

◆シリーズの他の登場作品

   2作目『鳥籠ノ国』

◆ゼラ・セレテス

◆25歳/男性

◆所属:ソレリア民兵団


グロリアナ領主にしてソレリア民兵団代表。セレテス家は吹けば飛ぶような底辺領主(((失礼)))ながら、質実剛健を旨とする家風によってグロリアナ領を堅実に治めてきた。

セレテス流炎剣術の継承者。一子相伝なので、ゼラが死んだら剣術も絶える。


性格はやや強情で、数年前に自分で育てた野菜を上流貴族の客に供したところ「痩せた土で育った貧乏くさい味」と馬鹿にされ、「嫌なら召し上がらなくて結構でございます」と言って皿を下げ父親にこっぴどく怒られた。

以来、気にいらない客に対しては問答無用で畑を手伝わせている。


◆初登場回:3章

◆シリーズの他の登場作品

   なし

付録◆アースフィア世界の度量衡


----------------------------------------------


◇長さの単位


基本単位はセスタセリオン。地域や職業によってセスタ尺とセリオン尺が使い分けられる。


1セスタ=2.5㎝

1セリオン=7.5㎝

1リセスタ(1リセリオン)=1/10セスタ(1/10セリオン)

1ニ―セスタ(1二―セリオン)=100セスタ(100セリオン)

1デセスタ(1デセリオン)=100ニーセスタ(100ニ―セリオン)

1クレッセスタ(1クレッセリオン)=10デセスタ(10デセリオン)


言語生命体たちが地球で創造主たちと暮らしていた時代、言語生命体の独立をかけた戦に異を唱え、地球人信仰を保つよう呼びかけた姉弟がいた。

姉の名はセスタ。弟の名はセリオン。

二人は同胞によって捕らえられ、両手をすりおろす拷問にかけられた。

救出されたとき、セスタの手首の関節より先の長さは2.5㎝、セリオンは7.5㎝しか残っていなかったと伝えられる。


----------------------------------------------


◇重さの単位


基本単位はケララ

ケララは麦をさす言葉だが、教会の伝統において典礼及び典礼聖歌を意味することもある。


1ケララ=2.5g

1リケララ=1/10ケララ

1ニーケララ=100ケララ

1デケララ=100ニーケララ

1クレスケララ=10デケララ


----------------------------------------------


◇体積の単位


基本体積はダータ。野蜜の意であり、血液ないし精液を暗喩する。


1ダータ=25ml

リダータ=1/10ダータ

ニーダータ=100ダータ

デダータ=100ニーダータ

クレスダータ=10デダータ

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み