はびこる貧困
文字数 2,200文字
椅子屋の幼い
「やーい、物乞い!」
年長の見習いたちに囃し立てられながら、幼い丁稚は一輪式の手押し車を押していた。
「おが屑なんかどこ持ってくんだよ!」
「うるさい!」丁稚は左手で押し車を支えながら、おが屑の上に乗せていた木の枝を振り回した。「関係ないでしょ! どっか行けよ!」
その怒りを面白がって、少年たちは丁稚を取り囲んだ。
「お前臭ぇぞ!」
「なあなあ、お前こないだオレが踏んづけたパン食ったの? 食ったの?」
「きったねー!」
丁稚は枝を振り回し続けたが、年長で体格のいい少年たちにはなかなか当たらない。それよりも風で飛ばされていくおが屑が気がかりだった。おが屑に麻布をかけているが、覆いきれていなかった。
「うるさい! あっちに行け! 死ね!」
一人の少年が後ろから丁稚の頭を叩いた。
「お前が死ね!」
強風が吹いた。
おが屑が舞い上がる。
時間を無駄にしすぎたことに幼い丁稚は気がついた。進行方向にいる少年に構わず車を強く押した。
「うわっ、危ね!」
「逃げんな!」
また頭を殴られた。丁稚は頭を低くして向かい風を進んでいった。これ以上構うものか。
「死ね、物乞い!」
丁稚の後頭部に鋭い痛みが
「死ね!! いなくなれ!」
それでも、かなりの量のおが屑を蒸留所まで運べそうだった。道は砂が打たれた埃っぽい路地から石畳の舗道に代わり、道沿いの建物は高く威圧的で、雪雲の下で凍りついている。雪雲はというと、降りそうで降らない状態が続いており、その様子は不機嫌な態度で丁稚を操ろうとする椅子屋の主人にとてもよく似ていた。
凍てつく風の中、丁稚は頬を真っ赤にし、背中を前に倒して息を切らしながら坂を上っていた。膝が痛む。昨日、いじめっ子たちに足をひっかけられて転んだのだ。
痛く、寒く、惨め。それはいつものこと。今更取り沙汰する問題ではない。
家に帰りたい。椅子屋じゃない。ちゃんと、自分の家に。だけど、我慢したら。
我慢したらお金が手に入る。
「邪魔だ!」
丁稚は道の端に寄りすぎて、今や建物の壁に体をこすりつけんばかりだったが、どうにか騾馬にも、積荷の
蒸留所は茶色い鉄柵に囲まれているが、裏に回ると通用門が開いていた。裏口では若い女と中年男の二人組が深刻な様子で話し込んでいたが、小汚い身なりの女の子が自分が吐いた白い息を顔面に受けながら車を押して敷地に入ってくると、黙り、何事かという目で凝視した。
丁稚は女のほうに――優しそうに見えたからだ――いそいそと駆け寄ると、目を輝かせながら見上げた。
「おが屑を売りに来ました!」
丁稚は幼すぎて、十二、三の少年少女すら大人に見える。目の前の女がどれくらいの歳かはわからない。だが佇まいに母性を見出した。肩の上で栗色の髪を切り揃えた、細身で、利発そうな顔立ちの女だった。
それが、わけがわからぬと言わんばかりの顔で自分を見下ろしてくる。
丁稚は急に不安になった。
「リグリー、ああ、その」
男が、丁稚を無視して女に話しかけた。
「ここの主人はこんな子供に燃料を持って来させるのかね?」
「そんなことないはずだけど」
リグリーと呼ばれた女は
「ごめんね、この蒸留所では決められた業者からしか燃料を買わないの。今日は帰ってくれる?」
絶望が、子供の心を黒く染め、その色彩は実際に幼い顔に現れた。
「やだ!」
甲高い声が小さな口から放たれた。ほとんど叫び声だった。
「おが屑買い取ってくれるんでしょ!? 家にあるやつでも買ってくれるっておじちゃんが言ってたもん!」
「そんな事実はない!」
男が怒鳴った。はげ頭で、太っており、なかなかの貫禄がある。
「帰れ!」
「コル、そんな怒鳴らないで」
リグリーはケープの内側に手を入れて、キルティングの上衣のポケットから財布を出した。
「ほら、お姉さんがお小遣いをあげる。これで帰りにおやつでも買いなさい」
小さな手を差し出し、貨幣のひんやりした手触りを受ける。
受け取ったものを見て子供はまた絶望した。
「少ない!」
「これじゃ少ないよ! もっと! もっとちょうだい!」
リグリーはその図々しさに言葉を失った。この子、どこかの職人の見習いか下働きかと思ったけど、物乞いなのかしら。
「あたしが!」
子供は怒りを込めてリグリーのケープを引っ張った。
「お母さんのとこに帰るにはもっとたくさんいるんだもん! ねぇちょうだい! もっとちょうだい!」
生地が伸びて変形する。リグリーが慌てて荒れた小さな手を掴むと、子供は絶叫した。
「ちょうだいよおおぉっ!!」
閉じた裏口の向こうでは、経営者の夫婦が息子や従業員とともに在庫を計数していた。
その品目は、酒ではなかった。