第21話 弟
文字数 559文字
隼人は茫然とする藤音を見つめ、静かな口調で問いかけた。
「それほどまでに……わたしが憎いですか」
「憎うございます」
仰向けに床に倒されたまま、藤音の双眸 から涙がこぼれ落ちる。
「あなたさまは柾 の──わが弟の仇なのですから」
「わたしが、弟御の?」
「柾はわたくしが亡き母に代わって育ててきた、年の離れた弟。ですが、先だっての戦で討ち死にいたしました!」
「あの戦で……」
今度は隼人が言葉を失う番だった。
わかっている。戦とは殺し合いだ。いかに味方の損害を少なくし、多くの敵を倒すか。そのために策を練った。大切なのは自軍の兵の命。敵の兵の命を奪うことで、九条軍は勝利したのだ。
そういう意味では、この婚礼はおびただしい血にまみれている。
沈黙があたりの空気を支配する中。涙がとめどなくあふれ、藤音は両手で顔を覆った。
──柾──。
母を慕うように、いつも自分の後を追ってきた幼い日の弟。
止めたのに。戦には行かないよう、あれほど止めたのに。
あの戦が元服した弟の初陣だった。反対する藤音に父は、
「なに、心配はいらぬ。この戦、すぐに終わらせるでな」
と軽くいなすだけだった。
「それほどまでに……わたしが憎いですか」
「憎うございます」
仰向けに床に倒されたまま、藤音の
「あなたさまは
「わたしが、弟御の?」
「柾はわたくしが亡き母に代わって育ててきた、年の離れた弟。ですが、先だっての戦で討ち死にいたしました!」
「あの戦で……」
今度は隼人が言葉を失う番だった。
わかっている。戦とは殺し合いだ。いかに味方の損害を少なくし、多くの敵を倒すか。そのために策を練った。大切なのは自軍の兵の命。敵の兵の命を奪うことで、九条軍は勝利したのだ。
そういう意味では、この婚礼はおびただしい血にまみれている。
沈黙があたりの空気を支配する中。涙がとめどなくあふれ、藤音は両手で顔を覆った。
──柾──。
母を慕うように、いつも自分の後を追ってきた幼い日の弟。
止めたのに。戦には行かないよう、あれほど止めたのに。
あの戦が元服した弟の初陣だった。反対する藤音に父は、
「なに、心配はいらぬ。この戦、すぐに終わらせるでな」
と軽くいなすだけだった。