第163話 淡い残照
文字数 479文字
現し世に唯姫がとどまっていられる時間はごくわずか。想いを伝え終えた魂は桜花から離れてゆく。
白い光は薄らぎ、浅葱が伸ばした指の間をすり抜けて儚 く消えていく。
淡い残照を見届けると、浅葱は伊織に向かって静かに言った。
「我を──斬れ」
伊織の持つ刀を指さし、
「ただの刀では我は死なぬ。死ねないのだ。されど、そなたの持つ破邪の剣ならば我を滅せよう」
だが、自分でも意外なことに伊織は躊躇を感じていた。
「どうした? 我を倒すために戦っていたのであろう」
先刻までは確かにそうするつもりだった。怒りもあった。しかし今、相手は戦意を失い、刀さえ降ろしているのだ。
「何をためらう? 魔を封じる者よ、そなたはそなたのなすべきことをすればよい」
動けないでいる伊織に焦れたように声を荒げる。
「早く斬れ! さもなくばこの娘が死ぬぞ!」
いきなり桜花の腕をぐいっとつかんで引き寄せ、魔剣を突きつける。
まだ自我が戻っていないのか、桜花はぼんやりと浅葱に捕らわれたままだ。
憤りをこめて伊織は浅葱を睨みつけた。
これが鬼のやり方か。唯姫のために依り代となった桜花に刃を向けるとは。
白い光は薄らぎ、浅葱が伸ばした指の間をすり抜けて
淡い残照を見届けると、浅葱は伊織に向かって静かに言った。
「我を──斬れ」
伊織の持つ刀を指さし、
「ただの刀では我は死なぬ。死ねないのだ。されど、そなたの持つ破邪の剣ならば我を滅せよう」
だが、自分でも意外なことに伊織は躊躇を感じていた。
「どうした? 我を倒すために戦っていたのであろう」
先刻までは確かにそうするつもりだった。怒りもあった。しかし今、相手は戦意を失い、刀さえ降ろしているのだ。
「何をためらう? 魔を封じる者よ、そなたはそなたのなすべきことをすればよい」
動けないでいる伊織に焦れたように声を荒げる。
「早く斬れ! さもなくばこの娘が死ぬぞ!」
いきなり桜花の腕をぐいっとつかんで引き寄せ、魔剣を突きつける。
まだ自我が戻っていないのか、桜花はぼんやりと浅葱に捕らわれたままだ。
憤りをこめて伊織は浅葱を睨みつけた。
これが鬼のやり方か。唯姫のために依り代となった桜花に刃を向けるとは。