第142話 ゆらぎ
文字数 569文字
最後の指が離れると、懐剣は藤音の手から音もなくすべり落ちていった。
同時に鬼の張った負の結界も消滅していく。
ようやく解けた結界に、刀を構える伊織を桜花が引き止める。
「だめよ! 今、刀を使ったら藤音さまも傷つけてしまうわ!」
どうにかして鬼と藤音を引き離さなければ。
それができるのは隼人と、藤音自身の意志だけなのだ。
隼人は藤音を包みこむように抱きしめ、秘めてきた想いを伝える。
「勇気がなくて今まで言えなかったけれど、わたしは藤音が好きだ。初めて会った時からずっと」
隼人の言の葉が、腕のぬくもりが、凍てついた藤音の心を溶かしていく。
本当はこのひとの笑顔が大好きだった。暖かな太陽のようで、自分に笑いかけてくれる姿を大切に胸にしまっていた。
「すまない……もっと早くきちんと打ち明けていれば、こんなにも藤音を苦しめることはなかっただろうに」
抱きしめる腕に力をこめ、隼人は愛しい者へ呼びかける。
「戻っておいで、わたしのところへ。わたしたちはまだお互いさえよく知らない。わたしは藤音と語りたいことがたくさんある。いろいろな話をして、笑って、一緒に生きていきたい」
「あ……」
藤音は両手で頭を押さえた。自分の中の鬼と葛藤しているのだ。
桜花にはその背後に黒い影がゆらめくのが見えた。今まで藤音の心と重なっていた鬼に、ずれが生じてきている。
同時に鬼の張った負の結界も消滅していく。
ようやく解けた結界に、刀を構える伊織を桜花が引き止める。
「だめよ! 今、刀を使ったら藤音さまも傷つけてしまうわ!」
どうにかして鬼と藤音を引き離さなければ。
それができるのは隼人と、藤音自身の意志だけなのだ。
隼人は藤音を包みこむように抱きしめ、秘めてきた想いを伝える。
「勇気がなくて今まで言えなかったけれど、わたしは藤音が好きだ。初めて会った時からずっと」
隼人の言の葉が、腕のぬくもりが、凍てついた藤音の心を溶かしていく。
本当はこのひとの笑顔が大好きだった。暖かな太陽のようで、自分に笑いかけてくれる姿を大切に胸にしまっていた。
「すまない……もっと早くきちんと打ち明けていれば、こんなにも藤音を苦しめることはなかっただろうに」
抱きしめる腕に力をこめ、隼人は愛しい者へ呼びかける。
「戻っておいで、わたしのところへ。わたしたちはまだお互いさえよく知らない。わたしは藤音と語りたいことがたくさんある。いろいろな話をして、笑って、一緒に生きていきたい」
「あ……」
藤音は両手で頭を押さえた。自分の中の鬼と葛藤しているのだ。
桜花にはその背後に黒い影がゆらめくのが見えた。今まで藤音の心と重なっていた鬼に、ずれが生じてきている。