第93話 内密に
文字数 586文字
「殿の使いで来た。内密で急ぎ来て欲しいとの仰せだ」
「隼人さまの?」
桜花もまた表情を引きしめて伊織を凝視した。
隼人が、しかも内密に自分に急用とは、いったい何なのだろう。
ざらり、と背中を這うような悪い予感がする。
「承知しました。今すぐうかがいます」
桜花はすっと立ち上がった。
伊織の後に続き、人目につかぬよう隼人の部屋へと急ぐ。
館の奥、障子を開ければ海が見渡せる居室で、隼人は二人を待っていた。
「失礼いたします。お呼びにより、まかり越しました」
桜花が一礼して中に入ると、伊織は自らも入室し、廊下に面した襖をぴたりと閉めた。
「急に呼び立ててすみませんでしたね」
隼人はいつものように気さくに笑いかけたが、笑顔はどこか翳 りを帯びている。
「あの、隼人さま、ご用とは?」
「実は藤音のことなのですが」
「藤音さまの?」
「近頃、また藤音の体調がよくないようで、食欲もないし、昼間は眠ってばかりいて……」
桜花は腑に落ちない思いで首をかしげた。先日、共に海辺を歩いた時は、だいぶ回復していたようなのに。
「薬師は何と?」
「言うことは同じです。気鬱の病だと。しかし、今回はどうも違うようなのです」
「と申しますと?」
そこで隼人は声を低めた。
「隼人さまの?」
桜花もまた表情を引きしめて伊織を凝視した。
隼人が、しかも内密に自分に急用とは、いったい何なのだろう。
ざらり、と背中を這うような悪い予感がする。
「承知しました。今すぐうかがいます」
桜花はすっと立ち上がった。
伊織の後に続き、人目につかぬよう隼人の部屋へと急ぐ。
館の奥、障子を開ければ海が見渡せる居室で、隼人は二人を待っていた。
「失礼いたします。お呼びにより、まかり越しました」
桜花が一礼して中に入ると、伊織は自らも入室し、廊下に面した襖をぴたりと閉めた。
「急に呼び立ててすみませんでしたね」
隼人はいつものように気さくに笑いかけたが、笑顔はどこか
「あの、隼人さま、ご用とは?」
「実は藤音のことなのですが」
「藤音さまの?」
「近頃、また藤音の体調がよくないようで、食欲もないし、昼間は眠ってばかりいて……」
桜花は腑に落ちない思いで首をかしげた。先日、共に海辺を歩いた時は、だいぶ回復していたようなのに。
「薬師は何と?」
「言うことは同じです。気鬱の病だと。しかし、今回はどうも違うようなのです」
「と申しますと?」
そこで隼人は声を低めた。