第42話 家からの使い

文字数 435文字

「兄上、こちらでしたか」
「何だ、伊織。今頃来ても、こんぺいとうはやらんぞ」
「は?」
 怪訝(けげん)な顔をする伊織に、冗談だ、と軽く笑う。
「で、いかがした?」
「家から使いの者が参っておりますが」
「やれやれ、またか。どうせ母上からであろう」
 いささかげんなりした顔つきで和臣は立ち上がった。
「では、桜花どの、わたしはこれで。男手が必要な時は、いつでもお声をかけてください」 
 はい、と答えてから桜花がもう一度、礼を述べると、和臣は部屋を出ていく。
 兄の姿が廊下のむこうに見えなくなると、伊織は不思議そうにたずねてくる。
「こんぺいとう、とはいったい何の話だ?」
 桜花はきれいな花模様の布袋の口を開け、中の小さな粒を伊織に示してみせた。
「これのことよ。和臣さまにいただいたの」
「兄上はまめだなあ」
 感心したようにつぶやいてから、こっそり桜花に耳打ちする。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み