第117話 篠突く雨
文字数 554文字
どのくらい時がたっただろう。
「桜花どの!」
篠突く雨の中、名を呼ばれ、桜花は振り返った。
伊織?
とっさにそう思った。が、面ざしは似ているが、伊織ではなかった。
雨を避けるように額に手をかざしながら、和臣がこちらへ走ってくる。
「この雨の中、何をしておいでです? ずぶ濡れではありませんか」
言われて初めて、桜花は自分のありさまに気づく。
「和臣さまこそ、どうして……」
「出仕する時刻になっても桜花どのが姿を見せないので、気になってお屋敷に行ってみたら、祖父どのから、こちらだとうかがって来たのです」
「封印が……」
「え?」
青ざめた顔で桜花は亀裂の入った大岩を指さした。
和臣は桜花の指し示した先を見上げ、眉根を寄せた。
「いったい、どうしてこのような……」
桜花は無言で力なく首を横に振った。
「状況はわかりましたが、ここにいても仕方ありません。どこかで雨をしのがなくては」
二人が話している間にも、雨はますます激しさを増していく。
「確かこの近くに漁師が使う小屋があります。網やら漁具をしまってある場所ですが、とりあえずはそこへ。雨が小降りになったら、天宮のお屋敷に戻りましょう」
「桜花どの!」
篠突く雨の中、名を呼ばれ、桜花は振り返った。
伊織?
とっさにそう思った。が、面ざしは似ているが、伊織ではなかった。
雨を避けるように額に手をかざしながら、和臣がこちらへ走ってくる。
「この雨の中、何をしておいでです? ずぶ濡れではありませんか」
言われて初めて、桜花は自分のありさまに気づく。
「和臣さまこそ、どうして……」
「出仕する時刻になっても桜花どのが姿を見せないので、気になってお屋敷に行ってみたら、祖父どのから、こちらだとうかがって来たのです」
「封印が……」
「え?」
青ざめた顔で桜花は亀裂の入った大岩を指さした。
和臣は桜花の指し示した先を見上げ、眉根を寄せた。
「いったい、どうしてこのような……」
桜花は無言で力なく首を横に振った。
「状況はわかりましたが、ここにいても仕方ありません。どこかで雨をしのがなくては」
二人が話している間にも、雨はますます激しさを増していく。
「確かこの近くに漁師が使う小屋があります。網やら漁具をしまってある場所ですが、とりあえずはそこへ。雨が小降りになったら、天宮のお屋敷に戻りましょう」