第27話 悪意
文字数 752文字
「わたくしはただ、藤音さまが慣れぬ土地でのお暮しゆえ、お話し相手となるようにと ……」
まだ桜花が言い終わらないうちに、藤音の鋭い声が飛ぶ。
「話し相手など、いらないわ!」
いきなり言葉をさえぎられ、困惑する桜花に藤音は畳みかけるように、
「この国の者など 信用できない。話し相手などと言って、わたくしから何を探ろうというの?」
「そんな……」
ここにきて如月を初めとする侍女たちも、藤音に同調する。
「藤音さまのおっしゃる通りですよ。姫さまにはわたくしどもがついております。余計な気づかいなど無用ですよ」
これ以上のやりとりは意味をなさない、と桜花は思った。かしこまりました、と消え入りそうな声で告げると、一礼し、すごすごと部屋から退出していく。
「まったく、余計なことを」
如月は本気で憤慨していたが、藤音は黙って苦い思いを噛みしめていた。
泣きそうな顔で出ていった桜花の姿が思い出され、鉛のように重い気分が胸に沈みこんでいく。
あの娘には何の非もないのに。むしろ自分を案じてくれたのに。
純真なもの言いと屈託のない笑顔が妙に癪に触って、ずいぶんとひどいことを言ってしまった。
やり場のない哀しみが、悪意へと変わる。
こんな風に人を傷つけるなんて、自分は何と嫌な女になってしまったのだろう。
ふと藤音は如月が放り投げるように置いた八重桜の枝に眼を止めた。
この春の、最後の桜。
隼人がわざわざ自分のために探してくれたのだろうか。
おそらくは直接渡すのがためらわれて、あの少女に託した八重桜。
やるせない気持ちで、そっと枝を手にして匂いをかぐと、ほんのりと優しい香りが広がった。
まだ桜花が言い終わらないうちに、藤音の鋭い声が飛ぶ。
「話し相手など、いらないわ!」
いきなり言葉をさえぎられ、困惑する桜花に藤音は畳みかけるように、
「この国の者など 信用できない。話し相手などと言って、わたくしから何を探ろうというの?」
「そんな……」
ここにきて如月を初めとする侍女たちも、藤音に同調する。
「藤音さまのおっしゃる通りですよ。姫さまにはわたくしどもがついております。余計な気づかいなど無用ですよ」
これ以上のやりとりは意味をなさない、と桜花は思った。かしこまりました、と消え入りそうな声で告げると、一礼し、すごすごと部屋から退出していく。
「まったく、余計なことを」
如月は本気で憤慨していたが、藤音は黙って苦い思いを噛みしめていた。
泣きそうな顔で出ていった桜花の姿が思い出され、鉛のように重い気分が胸に沈みこんでいく。
あの娘には何の非もないのに。むしろ自分を案じてくれたのに。
純真なもの言いと屈託のない笑顔が妙に癪に触って、ずいぶんとひどいことを言ってしまった。
やり場のない哀しみが、悪意へと変わる。
こんな風に人を傷つけるなんて、自分は何と嫌な女になってしまったのだろう。
ふと藤音は如月が放り投げるように置いた八重桜の枝に眼を止めた。
この春の、最後の桜。
隼人がわざわざ自分のために探してくれたのだろうか。
おそらくは直接渡すのがためらわれて、あの少女に託した八重桜。
やるせない気持ちで、そっと枝を手にして匂いをかぐと、ほんのりと優しい香りが広がった。