第170話 眠り姫
文字数 510文字
それから二日たった日の午後。
伊織は天宮の屋敷で、床についた桜花の枕元に座っていた。
鬼を封じて倒れたあの日から、桜花は眠り続けたまま目覚めない。
祖父の十耶によれば、桜花が唯姫の依り代となったことが原因ではないかという。
死者の魂に寄り添い、依り代となるのは、たとえ短時間であっても生気を奪われ、時には生命の危険さえ伴うのだ。
そんなことも知らなかった自分を悔やむ伊織に、祖父はきっぱりと、
「依り代となったのは桜花自身が決めたこと。決して伊織どののせいではありませんぞ」
桜花は知っていたのだろうか。
いや、危険だとわかっていても、唯姫の依り代となったに違いない。
自分の無力さに唇を噛んで桜花を見つめていた伊織は、はっと顔を上げた。
ゆったりした足音がして十耶が部屋までやって来る。
「桜花の具合はどうかな、伊織どの」
伊織が無言で首を横に振ると、祖父は孫娘に視線を移して吐息した。
「相変わらずか」
深い眠りの中にいる桜花は呼吸も脈も弱々しい。食事どころか薬湯も飲めず、打つ手がないのが現状だ。
伊織は天宮の屋敷で、床についた桜花の枕元に座っていた。
鬼を封じて倒れたあの日から、桜花は眠り続けたまま目覚めない。
祖父の十耶によれば、桜花が唯姫の依り代となったことが原因ではないかという。
死者の魂に寄り添い、依り代となるのは、たとえ短時間であっても生気を奪われ、時には生命の危険さえ伴うのだ。
そんなことも知らなかった自分を悔やむ伊織に、祖父はきっぱりと、
「依り代となったのは桜花自身が決めたこと。決して伊織どののせいではありませんぞ」
桜花は知っていたのだろうか。
いや、危険だとわかっていても、唯姫の依り代となったに違いない。
自分の無力さに唇を噛んで桜花を見つめていた伊織は、はっと顔を上げた。
ゆったりした足音がして十耶が部屋までやって来る。
「桜花の具合はどうかな、伊織どの」
伊織が無言で首を横に振ると、祖父は孫娘に視線を移して吐息した。
「相変わらずか」
深い眠りの中にいる桜花は呼吸も脈も弱々しい。食事どころか薬湯も飲めず、打つ手がないのが現状だ。