第63話 重圧

文字数 603文字

 かといってここで説明を始めると、長くなりそうだ。
 この件は祖父に任せよう、と桜花は思った。祖父も隠居の身で暇なので、喜んで伊織に講釈してくれるだろう。
「今度、時間のある時に天宮の屋敷に来てくれるかしら。おじいさまがいろいろ話してくれると思うわ。大切なことなのよ」
「よくわからんが、桜花がそう言うなら……」
 しきりに首をひねる伊織をうながし、桜花は再び歩き出す。
 二十分も歩いただろうか、砂浜のつきるところに巨大な岩が見えてきた。岩には上部に〆(しめなわ)がかけられ、その先は崖になっている。
「あの大岩か?」
 ええ、と桜花はうなずき、すっと表情を引きしめる。
「俺にはただの岩にしか見えないが」
 鬼は岩の中に封じられているはずなので、近くまで行ってみないことには状況がわからない。
 だが、進むにつれ、桜花の足どりはどんどん遅くなっていった。
 一歩ずつ、近づくごとに重圧感が増し、息苦しくなってくる。
 昨日感じた、あの禍々しい「気」と同じ──。
 少し先を歩いていた伊織も岩が近くなってくると、さすがに違和感を覚えた。あたりの空気が妙に重く、圧迫してくる感じなのだ。
 それにどうした訳か、先ほどから妙に額が熱い。
 何か大切なことを思い出せそうでいて、思い出せないもどかしさが伊織を包む。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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