第161話 依り代
文字数 472文字
突如として現れた桜花に、切り結んでいた二人は動きを止める。
「桜花、下がれ!」
伊織は制止しようとしたが、桜花の耳には聞こえていないかのようだ。
桜花は浅葱の方を向くと両手を広げ、呼びかけた。
「──浅葱」
浅葱は自分の耳を疑った。
桜花の唇からこぼれたのは、まぎれもなく愛しい者の声だった。
片時も忘れたことのない、銀鈴のような声。優しく懐かしい──。
「やっと会えた……あなたに」
浅葱は魔剣を降ろし、茫然とつぶやいた。
「唯姫……」
清らかな光に包まれた姿は、ゆっくりと浅葱に歩み寄る。
「本当に、姫なのか?」
浅葱の青い瞳を見つめ、たおやかにうなずく。
「わたくしはすでにこの世のものならざる身。巫女であるこの少女が一時、体を貸してくれました」
伊織は固唾を呑んで二人のやりとりを見つめていた。
今、自分の前にいるのは、桜花であって桜花でない存在。
時空を超え、桜花を依り代として、唯姫の魂が浅葱に語りかけているのだ。
「桜花、下がれ!」
伊織は制止しようとしたが、桜花の耳には聞こえていないかのようだ。
桜花は浅葱の方を向くと両手を広げ、呼びかけた。
「──浅葱」
浅葱は自分の耳を疑った。
桜花の唇からこぼれたのは、まぎれもなく愛しい者の声だった。
片時も忘れたことのない、銀鈴のような声。優しく懐かしい──。
「やっと会えた……あなたに」
浅葱は魔剣を降ろし、茫然とつぶやいた。
「唯姫……」
清らかな光に包まれた姿は、ゆっくりと浅葱に歩み寄る。
「本当に、姫なのか?」
浅葱の青い瞳を見つめ、たおやかにうなずく。
「わたくしはすでにこの世のものならざる身。巫女であるこの少女が一時、体を貸してくれました」
伊織は固唾を呑んで二人のやりとりを見つめていた。
今、自分の前にいるのは、桜花であって桜花でない存在。
時空を超え、桜花を依り代として、唯姫の魂が浅葱に語りかけているのだ。