第104話 心の闇
文字数 595文字
急ぎ、床を用意して寝かせつけ、祖父は慎重に呼吸や脈の状態を診ていく。
「おじいさま、藤音さまは……」
「大丈夫、気を失っておられるだけじゃ。しばらくすれば目覚められるであろう」
ほっと胸をなでおろす桜花の背後で、伊織が立ち上がる。
「至急、殿に知らせないと。内密の件だ。俺が館まで行ってくる。桜花は藤音さまを頼む」
「ええ、伊織、あなたも気をつけて」
短いやりとりの後、伊織は素早く屋敷を出ていく。
その背中を見送りながら、桜花は胸に両手を当てた。普段は呑気だが、いざという時、伊織はとても頼りになる。
残った祖父と二人、藤音のかたわらで桜花は改まった口調で告げた。
「鬼の岩の封印が、ますます弱まっております」
うむ、と祖父はうなって腕組みをする。
「岩の中の鬼が呼びかけておる。特に心に闇を持った者が、反応してしまうようじゃ」
「闇を……」
畏怖するように言の葉をなぞらえる桜花に、祖父は穏やかに笑む。
「闇といっても邪悪なものばかりとは限らんぞ。哀しみや苦しみ、そういった感情や、弱さ……時にはかなわぬ望みすら、闇に呑まれることがある。
人の心とはとても複雑で、深いものなのじゃよ。そなたはまだ若いから、よくはわからぬかもしれぬが」
桜花は無言で床についた藤音を見つめた。
「おじいさま、藤音さまは……」
「大丈夫、気を失っておられるだけじゃ。しばらくすれば目覚められるであろう」
ほっと胸をなでおろす桜花の背後で、伊織が立ち上がる。
「至急、殿に知らせないと。内密の件だ。俺が館まで行ってくる。桜花は藤音さまを頼む」
「ええ、伊織、あなたも気をつけて」
短いやりとりの後、伊織は素早く屋敷を出ていく。
その背中を見送りながら、桜花は胸に両手を当てた。普段は呑気だが、いざという時、伊織はとても頼りになる。
残った祖父と二人、藤音のかたわらで桜花は改まった口調で告げた。
「鬼の岩の封印が、ますます弱まっております」
うむ、と祖父はうなって腕組みをする。
「岩の中の鬼が呼びかけておる。特に心に闇を持った者が、反応してしまうようじゃ」
「闇を……」
畏怖するように言の葉をなぞらえる桜花に、祖父は穏やかに笑む。
「闇といっても邪悪なものばかりとは限らんぞ。哀しみや苦しみ、そういった感情や、弱さ……時にはかなわぬ望みすら、闇に呑まれることがある。
人の心とはとても複雑で、深いものなのじゃよ。そなたはまだ若いから、よくはわからぬかもしれぬが」
桜花は無言で床についた藤音を見つめた。