第165話 消滅

文字数 482文字

 鬼の消滅と共に、桜花の張った結界も霧が晴れるように消えていく。
「桜花どの!」
 隼人の声に現実に返ると、自分たちがいるのは藤音の部屋だった。
 長い時間がたったかのように思えたが、こちらではほんの一時の出来事だったのだ。
 終わった……。
 そう思ったとたん、張りつめた糸が切れるように、桜花はその場にへたりこんだ。
「どうした、桜花 !?
 あわててのぞきこむ伊織の袖をつかみ、うっすらと笑ってみせる。
「平気よ。ただ、今まで夢中だったから、急に身体から力が抜けてしまって……」
 話している途中で涙がこみあげてきて、桜花は伊織の胸でしゃくり上げた。
「本当はとても怖かった……そして哀しかった」
 伊織は黙って桜花の背中を優しく撫で続ける。
 先刻までの凛とした雰囲気は消え失せ、自分にしがみついて泣きじゃくる姿は、いつもの桜花だ。
 隼人たちの方に眼を向けると、二人は無言で寄り添っていた。言葉など必要ない。隼人は壁にもたれ、藤音をしっかりと抱きしめている。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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