第25話 八重桜
文字数 586文字
桜花が新しい奥方に目通りを願い出たのは、婚礼から数日が過ぎてからだった。
白の上着に紅袴。桜花にとっては礼装である巫女装束を身にまとい、手には一枝の八重桜。隼人から渡してほしいと頼まれたものだ。
控えの間に通され、待ちくたびれた頃、ようやく年かさの侍女が出てきて桜花を奥の部屋に招き入れる。
桜花は部屋の中ほどまで進むと、両手をついて頭を下げた。
「奥方さまに拝謁でき、光栄に存じます」
「お決まりの挨拶など無用よ。顔を上げて」
はい、と答えて、桜花は正面に座る姫君に視線を向ける。
思わず見とれてしまいそうな、気品ある美しい姫だった
自分もたまに「天宮の姫巫女」などと呼ばれるけれど、あれはいわばお世辞で、とても本物の姫君にはかなわない。
桜花を見て、奥方──藤音は唇を開いた。
「そなたの顔には見覚えがあるわ。婚礼の時、舞いを奉納した巫女ね?」
「はい。覚えておいていただいて嬉しく存じます。名を桜花と申します」
「その枝は何?」
たずねてくる藤音に桜花は脇に置いた枝を手に取る。
「このお城の中庭で咲いていた八重桜でございます。もう桜の季節も終わりゆえ、花のついた最後の一枝を奥方さまにお渡 しするようにと、隼人さま……殿からわたくしが預かりました」
白の上着に紅袴。桜花にとっては礼装である巫女装束を身にまとい、手には一枝の八重桜。隼人から渡してほしいと頼まれたものだ。
控えの間に通され、待ちくたびれた頃、ようやく年かさの侍女が出てきて桜花を奥の部屋に招き入れる。
桜花は部屋の中ほどまで進むと、両手をついて頭を下げた。
「奥方さまに拝謁でき、光栄に存じます」
「お決まりの挨拶など無用よ。顔を上げて」
はい、と答えて、桜花は正面に座る姫君に視線を向ける。
思わず見とれてしまいそうな、気品ある美しい姫だった
自分もたまに「天宮の姫巫女」などと呼ばれるけれど、あれはいわばお世辞で、とても本物の姫君にはかなわない。
桜花を見て、奥方──藤音は唇を開いた。
「そなたの顔には見覚えがあるわ。婚礼の時、舞いを奉納した巫女ね?」
「はい。覚えておいていただいて嬉しく存じます。名を桜花と申します」
「その枝は何?」
たずねてくる藤音に桜花は脇に置いた枝を手に取る。
「このお城の中庭で咲いていた八重桜でございます。もう桜の季節も終わりゆえ、花のついた最後の一枝を奥方さまにお渡 しするようにと、隼人さま……殿からわたくしが預かりました」