第176話 真の姿

文字数 470文字

末裔(まつえい)たちよ、わたくしを助けてくれたことに感謝します」
 唖然として見つめる伊織に、女人は柔らかく微笑みかける。
「わたくしはかつて鬼を封じ、人となりて地上に降りた者。封印が弱まったのを知り、再びこの地に降りましたが、ひとたび人となって生を終え、転生した身にはもはや昔のような力はありませんでした。自分の身さえ守れずにいたところを、そなたたちに救われたのです」
 伊織は驚きを禁じ得なかった。草むらで震えていた、あの小さな鳥が……。
「わたくしには力を回復する時間が必要でした。されど時を待っている間に鬼は解き放たれてしまいました」
 眼を伏せ、憂いを浮かべていた天女はそこで顔を上げる。
「ですが、地上には破魔の力を受け継いだ末裔たちがおり、わたくしはそなたたちを通じて鬼の最期を見届けることができました。そして戦いの果て、この娘が重篤な状態にあるのも知っています」
 ただ驚くばかりだった伊織は話が桜花に及ぶと、片膝をついて懇願した。
「どうか桜花を助けてください。人の力では救う術がないのです」
 いくら呼びかけてみても、桜花の意識は戻らなかったのだ。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み