第134話 引き寄せあう闇

文字数 569文字

「わたくし自身が床に伏せていたため、ご報告が遅れたこと、お詫び申し上げます。鬼は人に憑りつき、今もこの館にひそんでおります。たとえばここ数日、体調を崩す者などは出ませんでしたでしょうか」
「言われてみれば、何人かが気分がすぐれぬと、薬師に診てもらっていたようですが……」
「人々の不調は、鬼の放つ瘴気のせいと思われます」
 おそらく隼人は生来の明るさと芯の強さゆえに、負の影響を受けにくい性質(たち)なのだろう。
 こうやって話している間にも瘴気を──魔の気配を感じる。藤音の部屋の方角からだ。
「しかも鬼は理由はわかりませぬが、九条家に恨みをいだいております」
「九条家に?」
 そうは言われても心当たりはまったくなく、隼人は困惑するばかりだ。
 桜花は再び頭を下げた。
「それらのことすべて承知の上で、ご無礼をお許しください。どうか藤音さまにお会いさせてください」
「藤音に?」
 隼人の表情がすっと引きしまる。
「つまり桜花どのは、藤音と鬼が関係あると?」
「恐れながら、さようでございます」
 藤音は魅せられていた、封じの岩の中の鬼に。
 引きよせあう心の闇。九条家への遺恨が拭い去れない藤音は、鬼にとって最もつけ入りやすい存在なのだ。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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