第128話 空の色

文字数 644文字

 二人のやりとりの間にも、澄んだ空の色をした守護石は、淡く暖かく桜花を見守るように照らしている。
「この石は邪を払う力があると言われている。そなたが大切に持っているといい」
 祖父に言われ、桜花はためらいがちに守護石に視線を向けた。
「ですが、おじいさま、わたしにこの石を持つ資格があるでしょうか。一度は、鬼に屈したわたしに」
「決して屈したわけではないぞ。そなたは自分の力を制御できなかっただけじゃ」
「でも……」
「なに、余計な心配はせずともよい。石が輝くのは、そなたが正当な持ち主である証。この守護石を使いこなせるのは、天宮の魔を封じる力を持った者だけなのだから」
 残念ながらわしとて使えん、と祖父は肩をすくめてみせる。
「この守護石には何世代にも渡る天宮の巫女たちと、そなたの母の想いがこめられておる。必ずやそなたを導き、助けとなってくれるであろう」
 桜花を癒すかのように、柔らかな光を放ち続ける天河石。
 その様子を満足げに眺めながら、祖父は再び立ち上がった。
「どれ、薬湯を持ってこよう。そなたはまだ床についていなさい。力を使いすぎて、かなり消耗しているはずじゃ」
 桜花は内心ぎくりとした。藤音が世にも不味(まず)いという顔をした、例の薬湯だ。
 そんな気持ちを見透かしたように、祖父は部屋を出ていきざま、振り返って念を押した。
「よいか、不味くてもちゃんと残さず飲むのだぞ」




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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