第15話 望まぬ婚姻
文字数 604文字
舞の奉納が済めば宴も終わりだった。花嫁は着替えるため、一度、与えられた居室に戻っていく。
部屋に入り、襖を閉めると、藤音はほうっと大きく息をついた。これでようやく見知らぬ者たちの好奇の視線から解放される。
「お疲れになられたでしょう、藤音さま」
いたわるように声をかけてきたのは、白河から同行した乳母の如月 だ。
「ええ、少し……」
藤音はさっさと重い婚礼衣装を脱ぎ捨て、整えた髪もほどいてしまう。
「しかしまあ、呆れるくらい簡素なお式でしたこと」
皮肉めいて言う如月に藤音は投げやりに笑う。
「別にかまわないわ。どうせ形式だけ。互いに望んだ婚姻ではないのだもの」
「しかも何と、ちっぽけなお城。まさか藤音さまがこんなところに嫁ぐ羽目になろうとは……」
如月は口惜しくてならないのだ。
雪のように白い肌。形のよい紅の唇。艶やかな豊かな髪。藤音ほどの美貌の持ち主なら、本当はもっとずっと立派な家に嫁ぐことができたはずなのに。
藤音は如月の言葉には頓着 せずに、
「あの者が、九条隼人……」
とつぶやいた。
白河の軍を壊滅させ、父を追いつめた張本人。
どのような恐ろしげな男かと思っていたのに、自分の隣に座っていたのは緊張した面持ちの、ごく普通の少年にしか見えなかった。
部屋に入り、襖を閉めると、藤音はほうっと大きく息をついた。これでようやく見知らぬ者たちの好奇の視線から解放される。
「お疲れになられたでしょう、藤音さま」
いたわるように声をかけてきたのは、白河から同行した乳母の
「ええ、少し……」
藤音はさっさと重い婚礼衣装を脱ぎ捨て、整えた髪もほどいてしまう。
「しかしまあ、呆れるくらい簡素なお式でしたこと」
皮肉めいて言う如月に藤音は投げやりに笑う。
「別にかまわないわ。どうせ形式だけ。互いに望んだ婚姻ではないのだもの」
「しかも何と、ちっぽけなお城。まさか藤音さまがこんなところに嫁ぐ羽目になろうとは……」
如月は口惜しくてならないのだ。
雪のように白い肌。形のよい紅の唇。艶やかな豊かな髪。藤音ほどの美貌の持ち主なら、本当はもっとずっと立派な家に嫁ぐことができたはずなのに。
藤音は如月の言葉には
「あの者が、九条隼人……」
とつぶやいた。
白河の軍を壊滅させ、父を追いつめた張本人。
どのような恐ろしげな男かと思っていたのに、自分の隣に座っていたのは緊張した面持ちの、ごく普通の少年にしか見えなかった。