第53話 内なる眠り

文字数 501文字

 だが、と祖父は話を続けた。
「古い記録には書き残されておる。何代か前の天宮の巫女の時じゃ。草薙に大きな内乱が起き、九条家は存亡の危機にあった。その時、反乱軍にいた魔道師を、破魔の者が封じたと」
 桜花は唇を噛んだ。今は平穏であっても、またいつ魔の災いが降りかかってくるか、わからないということだ。
 不安げにうつむく桜花に、祖父はふっと表情をなごませ、優しいまなざしをむける。
「あまり案ずるでない。そなたの持つ力はまだ内で眠っておるのじゃよ。いずれ何かのきっかけがあれば覚醒するであろう」
 いつしか夜も深まっていた。祖父は下働きの者を呼び、用意した桜花の部屋に寝床の仕度をするように伝えた。
「今日は城下から歩いて来て疲れたであろう。早めに休みなさい。明日からは九条のお館へ出仕であろう?」
 はい、と桜花はうなずき、
「わたしに何かできるかはわかりませんが、とにかく明日、お館からの帰りに鬼封じの岩の様子を見てまいります」
 祖父は考え深げに相槌(あいづち)を打った。
「そうじゃな。それがよかろう」




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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