第32話 思案

文字数 372文字

 意に沿わない縁組であることは充分に承知しているつもりだった。だからこそ姫を守ろうと国を出てついてきたのである。
 しかし、藤音がここまで思いつめていたとは……。 
 殿を殺めようとした?
 なのに何の(とが)めもない?
 本来ならその場で死罪になってもおかしくないのに、それどころか折々には花まで届けられてくる。
 苛烈な戦乱の世を生き抜いてきた如月には信じがたい事実だった。いったい、あの年若い殿は何を考えているのだろう。
 こめかみを押さえ、如月は慎重に思案した。
 今、最も大事なのは藤音の身だ。
 このままでは弱っていく一方で、命さえあやうい。
 何とかせねば、と自分に言いきかせながら、如月は眉間にしわを寄せてひたすら考えこんでいた。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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