第143話 鬼との決別
文字数 518文字
頭の中に弟の無念を訴える低い声が聞こえてくる。
しかし、もう藤音は惑わされなかった。
鬼がどう甘言をささやこうと、弟は二度と還ってこない。
柾──心の中で繰り返し名を呼ぶ。
なぜもっと早く気づかなかったのだろう。仇を討って隼人を殺め、再び戦を起こすなど、柾が望むはずがないのに。
「出ていって……」
頭を押さえながら、藤音は自分の中に潜む者を拒絶した。
嫌だ……鬼に操られて愛する者を手にかけるのは嫌だ!
「わたくしの中から出ていって!」
それが決別だった。
鬼との。そしてひきずってきた過去という名の亡霊との。
藤音が叫ぶのと同時に黒い影がひゅっと宙を飛ぶ。彼女の中に居場所を失った、異形の者。
眼にも止まらぬ早さに、逃げられる! と、伊織が思った瞬間。
黒い影は金色の光に呪縛され、地に落ちた。桜花が張った結界だ。
「伊織、今よ!」
桜花の凛とした声に、伊織は渾身の力をこめて刀を振り下ろす。が、刀は鬼の手前で動きを止め、弾き返される。
「── !?」
愕然とする伊織に、結界の中から揶揄するような声が響く。
「人間 の子よ、ただの刀では我は斬れんぞ」
桜花がとっさに張った結界の効力は強くない。中で鬼がうごめき、金色の光は力を失っていく。
しかし、もう藤音は惑わされなかった。
鬼がどう甘言をささやこうと、弟は二度と還ってこない。
柾──心の中で繰り返し名を呼ぶ。
なぜもっと早く気づかなかったのだろう。仇を討って隼人を殺め、再び戦を起こすなど、柾が望むはずがないのに。
「出ていって……」
頭を押さえながら、藤音は自分の中に潜む者を拒絶した。
嫌だ……鬼に操られて愛する者を手にかけるのは嫌だ!
「わたくしの中から出ていって!」
それが決別だった。
鬼との。そしてひきずってきた過去という名の亡霊との。
藤音が叫ぶのと同時に黒い影がひゅっと宙を飛ぶ。彼女の中に居場所を失った、異形の者。
眼にも止まらぬ早さに、逃げられる! と、伊織が思った瞬間。
黒い影は金色の光に呪縛され、地に落ちた。桜花が張った結界だ。
「伊織、今よ!」
桜花の凛とした声に、伊織は渾身の力をこめて刀を振り下ろす。が、刀は鬼の手前で動きを止め、弾き返される。
「── !?」
愕然とする伊織に、結界の中から揶揄するような声が響く。
「
桜花がとっさに張った結界の効力は強くない。中で鬼がうごめき、金色の光は力を失っていく。