第59話 少しずつでも
文字数 556文字
二人のかたわらで如月が侍女たちに目配せした。桜花もそろそろ引き揚げ時だ。
「さあ、わたくしたちはいろいろと用事がありますゆえ、席を外させていただきます。殿はどうぞごゆっくりしていかれませ」
と如月が述べれば、桜花も、
「では、わたくしもこれで失礼いたします」
一礼して、隼人が引き止める間もなく、歩いてきた庭を引き返す。
今度こそ自分の部屋へと向かいながら、桜花は唇をほころばせた。
とてもいい雰囲気だ。
藤音の体調が良くなって、さっきのように少しずつでも言葉を交わしていけば、いつかきっと心は通いあうに違いない。
ひととき、鬼の存在なども忘れ、桜花は幸せそうな二人の姿を思い描いていた。
昼の強い陽射しがようやくやわらいでくる夕刻。
自室で桜花は何度目かのあくびを噛み殺した。
何というか、暇なのだ。
城にいる時は小さいながらも社 があったし、舞いを奉納する舞台もあり、それらの管理は桜花の務めだった。
まずは朝一番にせっせと掃除したものだ。
ところがここには社も舞台もない。
祭事も行われないし、舞いの稽古をするにしては人目につきすぎる。要するに出仕してもやることがないのだ。
「さあ、わたくしたちはいろいろと用事がありますゆえ、席を外させていただきます。殿はどうぞごゆっくりしていかれませ」
と如月が述べれば、桜花も、
「では、わたくしもこれで失礼いたします」
一礼して、隼人が引き止める間もなく、歩いてきた庭を引き返す。
今度こそ自分の部屋へと向かいながら、桜花は唇をほころばせた。
とてもいい雰囲気だ。
藤音の体調が良くなって、さっきのように少しずつでも言葉を交わしていけば、いつかきっと心は通いあうに違いない。
ひととき、鬼の存在なども忘れ、桜花は幸せそうな二人の姿を思い描いていた。
昼の強い陽射しがようやくやわらいでくる夕刻。
自室で桜花は何度目かのあくびを噛み殺した。
何というか、暇なのだ。
城にいる時は小さいながらも
まずは朝一番にせっせと掃除したものだ。
ところがここには社も舞台もない。
祭事も行われないし、舞いの稽古をするにしては人目につきすぎる。要するに出仕してもやることがないのだ。