第156話 気高き力

文字数 581文字

 ──荒ぶる鬼よ、静まりなさい。罪なき者たちの殺戮は許しませぬ。
 龍に守られた気高き天女の力は鬼の比ではなかった。
 金色の光に呪縛され、なす術もなく浅葱は屈服せざるを得なかった。
「我は天女に岩の中に封じられ、長い時をそこで過ごさねばならなかった」
 愛する者を失い、気の遠くなるような孤独と憎悪の中で。
 だが、と浅葱は勝ち誇ったように笑った。
「封印は破られ、我は自由だ! おお、九条の者が憎いとも。唯姫の亡骸に誓ったのだ。未来永劫、決して許さぬと!」
 怒りをたぎらせる浅葱を、桜花は懸命に説得しようとする。
「けれど隼人さまに罪はないわ。あなたの愛した唯姫さまも九条家の方でしょう?」
「小娘がわかったような口をきくな!」
 桜花の言葉は、憤怒にかられた浅葱の心を空しく通り過ぎていく。
「唯姫はもうおらぬ! 復讐はまだ終わってはいない。隼人と藤音、あの二人が死ねば戦が起きる。この地は戦場と化し、再び屍の山が築かれよう」
 嘲るように哄笑していた浅葱は、ふと桜花に視線を止めた。
「その娘、似ておる。昔、我を封じた天女に」
 桜花を見つめ、はっと思い当たったように、
「人の身でありながら魔を退ける力を持った者……そなた、天女の末裔(まつえい)!?




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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