第167話 もう一度

文字数 454文字

「仲良くなさるのは後にして……まあ、殿、お怪我をされているではありませんか。お早く手当しないと!」
 ひっくり返った調度品をよっ、と起こし、如月はてきぱきと治療に必要な布や薬を用意していく。
「わたくしがやるわ」
 藤音は如月から布を受け取り、隼人の頬の血を慎重にぬぐっていった。
「申し訳ございません。わたくしのせいで……」
 かすり傷だよ、と隼人が小さく笑む。
「それより、藤音」
「はい?」
 血止めの薬を塗り終えた藤音は小首をかしげ、隼人を見つめる。
「わたしはさっき、藤音とたくさん話をして、笑いあって、と言ったけれど。もう少し欲ばってもいいかな」
「と、おっしゃいますと?」
「えーと、今すぐでなくてもかまわないけど、どうせならもう一度、婚礼の夜からやり直したいと思って。あ、もちろん藤音が嫌でなければ、の話だけど……」
 赤くなってしどろもどろの隼人の言わんとする意味を汲みとると、藤音は頬を染めた。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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