第48話 祖父

文字数 508文字

 桜花の視線が縁側で涼んでいた老人に止まった。髪も髭も真っ白で、どこぞの深山の仙人のようだ。
「おじいさま!」
 孫娘の弾んだ声に祖父が振り返る。
「おお、桜花か。よく来た」
 両手を広げ、縁側から降りてくる祖父に、桜花もまた駆け寄っていく。
「久しぶりじゃな。しばらく会わないでいるうちに、ずいぶんと娘らしくなったのう」
 眼を細めて自分を見つめる祖父に、桜花はくすぐったい気持ちで頬を染める。
「おじいさまは少しも変わりませんのね」
「そうでもないぞ。もう年じゃて、薬草の畑の手入れもしんどくなっておる。とにかく中に入りなさい。話はそこでゆっくりといたそうではないか」
 勧められるまま桜花は祖父と一緒に屋敷に入った。海の見える座敷は、障子が開け放たれ、気持ちの良い風が入ってくる。 
 かつては草薙の神職を司る神官であった祖父も、すでに隠居の身だ。下働きの夫婦者に身の回りの世話を頼み、遠海の屋敷で静かに暮らしている。
 そして。両親亡き今となっては、この祖父が桜花にとってただひとりの肉親となってしまったのだった。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み