第51話 鬼封じの岩

文字数 522文字

 祖父は立ち上がり、庭に面した障子を開けると、西の方角に眼をやった。
 とはいえ、夜の海は真っ暗で、ただ波音が響くばかりだ。
「この先の浜辺の西の突き当りに大きな岩があってな、中に鬼が封じこめられていると言われておる。いわば『鬼封じの岩』じゃ」
 桜花は黙って祖父の話に耳を傾ける。
「いつの時代からか、鬼は封印されてきた。が、最近では時折、わしも禍々しい『気』を感じる時がある。歳月が過ぎ、封印の効力が弱まってきたのでは、と考えておる」
 長い時の流れの中で、鬼は今も生き続け、甦る機会をうかがっているのだろうか。
「桜花」
「はい」
 真摯な表情で祖父が自分を見つめ、桜花もまた居住まいを正して向かいあう。
「実はあの岩こそが、かつて天女が鬼を封じたものだと伝えられておる」
 思いもよらない祖父の話に、桜花はただ驚くばかりだ。
「もしかして、おじいさまはその伝承があるゆえに遠海に住まわれたのですか?」
「いや、ここは静かなよい土地じゃ。が、多少はそれもある。とはいえ、わしは破魔(はま)の者ではないので、鬼を封じるほどの力は持っておらんがな」




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み