第155話 炎上する城

文字数 462文字

「されど刀が振り降ろされた時、我をかばってその身に刃を受けたのは唯姫だった」
 ──お父さま! 浅葱!
 突如、飛びこんできた娘の姿に父の顔が歪む。が、勢いのついた刃は鈍い音をたてて唯姫の身体を貫いた。
 ──ごめんなさい、浅葱。わたくしには父を止められなかった。
 必死に身を起こし、唯姫を腕に抱く。
 しかし手のつけようがないほど姫の傷は深かった。
 ──でも、どうか信じて。あなたはわたくしの愛しい者。この命より大切な……。
 ──唯姫!
 静かに閉じられた瞼はいくら呼びかけても二度と開くことはなかった。浅葱は冷たくなっていく唯姫を抱きしめ、吼えるように慟哭した。
「我が腕の中で唯姫は息絶えた。我は怒りに自分を忘れ、気がついた時には姫を抱いたまま、燃えさかる城の屍の山の中にいた」
 炎上する城。いつか桜花が古文書で読んだ光景。
 浅葱はすべてを呪った。
 この世界を。九条家を。自分の中に流れる九条の血をも。
「九条家は滅びるはずだった。あの天女さえ邪魔をしなければ」
 人々の嘆きの声を聞き、紅蓮に染まる上空から龍を従えて現れた天界の者。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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