第70話 血統
文字数 610文字
「鬼の岩……」
風になびく髪をかきやりながら、藤音が不思議そうにつぶやく。
「鬼などというものが本当にいるの?」
「はい、わたくしはそう思っております。残念ながら、人の世に災いをなす『魔』は存在しております。決してその声に耳を傾けてはなりません」
「人に仇なすものは人だけではないということね」
いくぶん皮肉めいた言い方をする藤音に、桜花は黙って一礼して後ろに下がる。
薄闇の中で桜花の白い上着が清々 しく動くのを、和臣はじっと見つめていた。
やはり血統ゆえだろうか、この少女には巫女の装束がよく似合う。
小走りにこちらに戻ってくる桜花を微笑で迎えながら、さて、どうしたものか、と和臣は思案した。
本当は急ぐつもりなど全くなかったのだが、母に宣言してしまった手前、何がしかの形をとらねばならない。
もっとも、よく考えてみれば、肝心の桜花にはまだ何も伝えていないのだが。
今の桜花は九条家に仕える巫女という立場だ。
巫女のままでは嫁ぐことはできまい。
和臣は、この地に桜花の祖父が住んでいるのを思い出した。天宮家の当主であり、桜花の唯一の肉親だ。
いきなり桜花に打ち明けて驚かせるより、まずは祖父に相談してみた方がよいだろう。
今度、非番の時にでも天宮の屋敷を訪れてみようと、和臣は心に決めた。
風になびく髪をかきやりながら、藤音が不思議そうにつぶやく。
「鬼などというものが本当にいるの?」
「はい、わたくしはそう思っております。残念ながら、人の世に災いをなす『魔』は存在しております。決してその声に耳を傾けてはなりません」
「人に仇なすものは人だけではないということね」
いくぶん皮肉めいた言い方をする藤音に、桜花は黙って一礼して後ろに下がる。
薄闇の中で桜花の白い上着が
やはり血統ゆえだろうか、この少女には巫女の装束がよく似合う。
小走りにこちらに戻ってくる桜花を微笑で迎えながら、さて、どうしたものか、と和臣は思案した。
本当は急ぐつもりなど全くなかったのだが、母に宣言してしまった手前、何がしかの形をとらねばならない。
もっとも、よく考えてみれば、肝心の桜花にはまだ何も伝えていないのだが。
今の桜花は九条家に仕える巫女という立場だ。
巫女のままでは嫁ぐことはできまい。
和臣は、この地に桜花の祖父が住んでいるのを思い出した。天宮家の当主であり、桜花の唯一の肉親だ。
いきなり桜花に打ち明けて驚かせるより、まずは祖父に相談してみた方がよいだろう。
今度、非番の時にでも天宮の屋敷を訪れてみようと、和臣は心に決めた。