第22話 柾(まさき)
文字数 507文字
出陣の日、父のかたわらで馬に乗った弟は、頬を紅潮させて告げた。
「姉上、行ってまいります。どうかご心配なさらないでください。必ずや武勲をたててみせます」
鎧をまとった凛々しい姿に藤音は眼をみはった。まだ子供だと思っていたのに、いつの間にこんなに成長していたのだろう。藤音が気づかないうちに、弟は立派な武人になっていたのだ。
「姉上、これを」
馬上から柾が藤音に懐剣を手渡す。柾が元服した際に父から受け継いだ、家紋の入った見事な品だ。
「帰ってくるまで、これをわたしだと思って持っていてください」
受け取った懐剣を胸に抱く藤音に、高揚した笑顔を向ける。
出発の合図が鳴らされ、馬上の柾が遠ざかっていく。藤音は武運を祈りながら、その姿が見えなくなるまでじっと城門に立ちつくす。
それが生きた弟を見た最後だった。
九条の軍勢に敗北し、傷を負った父と共に戻ってきた柾は、冷たい骸 となっていた。
とても信じられなくて、幾度も呼びかけた。けれど答えは返ってこず、ふれた頬はひんやりと氷のように冷たかった。
「姉上、行ってまいります。どうかご心配なさらないでください。必ずや武勲をたててみせます」
鎧をまとった凛々しい姿に藤音は眼をみはった。まだ子供だと思っていたのに、いつの間にこんなに成長していたのだろう。藤音が気づかないうちに、弟は立派な武人になっていたのだ。
「姉上、これを」
馬上から柾が藤音に懐剣を手渡す。柾が元服した際に父から受け継いだ、家紋の入った見事な品だ。
「帰ってくるまで、これをわたしだと思って持っていてください」
受け取った懐剣を胸に抱く藤音に、高揚した笑顔を向ける。
出発の合図が鳴らされ、馬上の柾が遠ざかっていく。藤音は武運を祈りながら、その姿が見えなくなるまでじっと城門に立ちつくす。
それが生きた弟を見た最後だった。
九条の軍勢に敗北し、傷を負った父と共に戻ってきた柾は、冷たい
とても信じられなくて、幾度も呼びかけた。けれど答えは返ってこず、ふれた頬はひんやりと氷のように冷たかった。