第18話 寝所
文字数 658文字
やがて仕度がすんだ頃を見計らったように、九条家の侍女が藤音を寝所へと呼びに来た。
如月たちに眼で別れを告げ、藤音は城の廊下を、手に灯りを持った侍女の後をついていく。
この先にはもう如月たちは入れない。いわば敵地にひとりきりのようなものだ。
胸の鼓動がどくんどくん体中に響き渡っている。
落ち着かなくては、と藤音は自分に言いきかせた。
今はまだ不審な様子を気取られてはならない。目的を果たすまでは。
奥まったひとつの部屋の前で侍女は足を止め、手にしていた灯りを丁重に置いた。
静かに障子を開け、藤音に手のひらで指し示す。
藤音が中に入ると、背後ですっと障子が閉められ、ひそやかに足音が遠ざかる。
ほの暗い部屋の中には 寝床がふたつ敷いてあり、そのうちのひとつの上にさっきまで婚礼の席で自分の隣にいた少年が座っていた。
藤音はそばまで歩み寄ると、座って両手をつき、黙って頭を下げた。
「え、えーと」
自分の夫となった少年──九条隼人は困惑した顔つきで頭の後ろに手をやる。
「そんなにかしこまらないで、お顔を上げてください」
言葉に従って顔を上げた藤音に、隼人は見惚れんばかりだった。
婚礼の席では緊張していたし、藤音はずっとうつむいていたので、ろくに顔も見なかったのだが、改めて向きあうと噂にたがわぬ美しい姫だ。黒曜石のような深い瞳。肌は透きとおるように白く、形のいい唇には鮮やかな紅がさしてある。
如月たちに眼で別れを告げ、藤音は城の廊下を、手に灯りを持った侍女の後をついていく。
この先にはもう如月たちは入れない。いわば敵地にひとりきりのようなものだ。
胸の鼓動がどくんどくん体中に響き渡っている。
落ち着かなくては、と藤音は自分に言いきかせた。
今はまだ不審な様子を気取られてはならない。目的を果たすまでは。
奥まったひとつの部屋の前で侍女は足を止め、手にしていた灯りを丁重に置いた。
静かに障子を開け、藤音に手のひらで指し示す。
藤音が中に入ると、背後ですっと障子が閉められ、ひそやかに足音が遠ざかる。
ほの暗い部屋の中には 寝床がふたつ敷いてあり、そのうちのひとつの上にさっきまで婚礼の席で自分の隣にいた少年が座っていた。
藤音はそばまで歩み寄ると、座って両手をつき、黙って頭を下げた。
「え、えーと」
自分の夫となった少年──九条隼人は困惑した顔つきで頭の後ろに手をやる。
「そんなにかしこまらないで、お顔を上げてください」
言葉に従って顔を上げた藤音に、隼人は見惚れんばかりだった。
婚礼の席では緊張していたし、藤音はずっとうつむいていたので、ろくに顔も見なかったのだが、改めて向きあうと噂にたがわぬ美しい姫だ。黒曜石のような深い瞳。肌は透きとおるように白く、形のいい唇には鮮やかな紅がさしてある。